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軍隊島  作者:
5/9

第三戦 薄幸島

シナリオの再編成をやっていたら、意外に短いブツだと気がつきました。

一章が既に短いってのに……大丈夫か?

……あ、序章だから別にいいのか。

[Ash]

 二日後、アッシュはクレイソンの家を訪ねた。

 あの事件の後、お礼にと食事に誘われたのだ。

「やあ、よく来てくれたね」

 パリッとしたシャツに茶色のズボン姿のクレイソンも、なかなかかっこいい。

「あら貴方。お客さん?」

「お父さん、その人がクロードさん?」

 クレイソンと同い年くらいであろう女性と小学校低学年と思しき少年も顔を出す。

「妻のエレノアと息子のカイルだ。……みんな、この子が一昨日言ったアッシュ君だ」

「この子はビリーだよ!!可愛いでしょ?まだ3カ月なんだ」

「可愛い!!白猫って好きなんですよ!!」

 玄関先が、いきなり 和気藹々(わきあいあい)としたカオス空間に変貌した。

 が、それでもアッシュは違和感を感じていた。

「――もう一人、いますよね……」

 場が凍りついた。

 妻子がうろたえる。

 主人は苦い顔。

 とぼけない辺りが彼等らしい。

「いえ、何も咎めてるとかそういうのではなくて、単純に、もう一人のにおいがするんですよねーって――」

「慌てなくていいよ。もう隠す必要は無さそうだからね」

「で、でも、あの子大丈夫かしら?」

「大丈夫だろ。ずっと寝てて暇だろうし」

「病気なんですか?」

「いや、こないだの戦場で大怪我をしてたから介抱して連れて帰ってきたんだ」

(やはり……)

 このにおいには嗅ぎ覚えがあった。

 彼の場合、視覚より聴覚より嗅覚の方が信頼できた。

「……会ってもいいですか?」

「ああ。こっちにいるよ」

 二人は、客室の前に立った。

「ミハイル君!入るよ!」

「どうぞ」

 そこには、胸に包帯を巻かれた少年がベッドに横たわっていた。

 暗褐色の髪に琥珀色の目の美少年。

 その顔には、見覚えがあった。

「――あの子か……」

 そこにいたのは、忘れもしない、アッシュに襲いかかって射殺されたはずの少年だった。


「……生きてたの!?てっきり死んじゃったと――」

 一家が去った後、二人っきりになった。

「幸か不幸か、生かしてもらったよ」

 どうやら、この間の威勢は無いようだ。

「どうもこの傷が響いてるらしくてな。今んところ戦えそうにない。俺を殺すなら今のうちだ」

「そこまで人間やめてないよ。でも落ちついて話せそうで好都合だよ。……まず、君は何者で、なぜ僕を襲ったのか教えてほしいな」

 すると、少年は顔を顰めつつも半身を起こした。

「――俺はミハイル・J・レブルスキー。ロシア軍上等兵だ。口走った通り、両親はこの島での米軍と露軍との戦いでの市街戦でお前の父のニコラス・クロードに殺された。もちろん、10歳だった俺にアメリカ軍の人間の名前なんて分かるわけがない。だから、名前を知ったのは軍に入ってからだな。それで、クロードへの復讐を計画してたわけだが、なかなか居場所が分からなくてな。そんな折にクロードの息子と名乗るお前が現れたから、父親の居場所を聞き出そうとしたってわけだ。質問は?」

「無い」

「それじゃあ、次は俺からだ。ニコラスの居場所を聞きたい」

「聞いても無駄だよ。父さんは戦死したんだ。2年前にね」

 ミハイルの大きな目が見開かれた。

「……嘘だろ?」

「本当だよ」

「じゃあ、復讐は不可能なのか?」

「だから言っただろ?復讐なんて無駄だって」

 はあ……と、少年は力無く項垂れた。

「それなら、俺の生きてきた意味が無いじゃねえか……」

 アッシュは困ったように肩を竦める。

「僕に言われたってどうしようもないよ……」

 そして、生気の無い少年に背を向けた。

「そんじゃあ僕は上に行くよ。クレイソンさんを待たせてるからね。君も一緒にどう?」

 ミハイルは、しばらくの間考えた。

「行けたら……」


 その少し後、ダイニングでは、

「……で、そうしたらこの子が撃ってきて……」

「ええええ!!?」

「で、反撃されてこの通りと……あ、これおかわりお願いします」

「それだけ食べてればすぐ治るわよ」

 ……意外に打ち解けていた。

「でも、何でご両親の仇がこの子のお父様だと分かったの?」

「軍の資料を見せて頂いた時に彼が写っている写真を見つけまして、その提供主に名前を聞いたんですよ、写りこんだ人間の名を……」

「そこまでして……」

「……父がご迷惑を掛けました……」

 敵も味方も無く、全てを打ち明ける。

 それは、小さいが平和な光景だった。


 食事を終えると、アッシュは帰路に就いた。

「それじゃあ、加害者が言うのも何だけど、良くなれよ」

「心得た」

「では、ありがとうございました」

「いえいえ」

「礼を言うのは僕のほうだってば」

「お兄ちゃんバイバーイ」

 手を振りつつも、彼は微笑んでいた。

 もう一度来てもいいなと思いながら。


 帰路の途中、路地裏で銀髪の男に遭遇した。

「ヒューゴーさん!お久し振りです」

「おう」

 最近、デービス並みに影が薄いヒューゴーだった。

「そういえば、お前に悪いニュース」

 そっと、耳打ちされた。

(お前、安全庁に目付けられてるぞ)

(ああ、もしかしてネヴィルとかいう人にガン飛ばしたからかな?)

(んな事したのかお前……。でもそれじゃねえんだよな。ほら、こないだのアメリカとロシアの戦いあったろ?あん時のお前の戦いっぷりが凄まじ過ぎて、今やC級ブラックリストに載る危険人物だ)

(C級なら、何か特別な扱いでもされるんですか?)

(いや、C級なら敵から警戒されるくらいだな。あと、安全庁からも警戒される。で、俺とかはB級だから、指名手配の対象だ。で、今フィーバーの殺人鬼はA級だから、捕まれば例外を除いて死刑だ)

(……具体的に教えて下さい)

(C級ってのは、危険思想家・重度精神疾患者・性格異常者・そしてお前とかの戦闘能力異常者、B級は、反政府主義者・戦闘員の戦闘時以外の虐殺など終身刑程度の犯罪者、そしてA級は、過激な反政府主義者、非戦闘員の虐殺など死刑程度の犯罪者、だな)

(……なるほど)

(しかもそれでお前保安官にガン飛ばしたんだろ?安全庁、相当キレてるぜ?)

(……気を付けます)

 再び帰路に着く。

 どんなに注意深く隠れていようとも、彼の嗅覚からは逃げられない。

 それは本人も分かってはいる。

 それでも、彼は黒服が見当たらないか周りを見渡さずにはいられなかった。

 まるで、猛獣に怯える小動物かのように。


 幸い、保安官には見つからなかった。

 しかし、もっと獰猛な猛獣に見つかってしまった。

「――一昨日はよくもやってくれたな……」

 昨日の、殺人鬼らしき男だった。

「ん?さっき別の子にも復讐なんて無駄って言ってきたとこなんだけど」

「そうじゃねえよ」

 男は、アッシュにナイフを突き付ける。

手前(てめえ)が幸福そうだからだよ……!!」

 アッシュは不思議そうに首を傾げた。

「何でそう思うの?」

 が、華麗に無視された。

「手前に、今まで優しくしてもらってた尊敬してた親父が連続殺人鬼だったって奴の気持ちが分かるかよ!親父に高跳びされた息子の気持ちが…… 警察(サツ)に乱暴な尋問をされた奴の気持ちが……何もしてねえのに世間の奴らに邪険にされた奴の気持ちが……お前みたいなぬくぬく育ったお坊ちゃんなんかに分かるかよ!!!」

 アッシュは再び首を傾げ、冷たく言い放つ。

「だから何でそう人の事を決めつけるかな?そんな人の気持ちなんて分からないし、分かりたくもないね」

 プツン、と、不穏な音がした。

「手前……」

 男が、アッシュを睨みつける。

 アッシュは冷たく男を見据える。

「やるならやってみれば?」

 と、

「ふっざけんなああああああああ!!!!」

 男が、ナイフと共にアッシュに突っ込んでいった。

 彼の腹を切り裂かんと。

 彼は、ただポツンと立っているのみだ。

 そして、ナイフが肌と触れ合い――


 次の瞬間、男は地面に叩き付けられていた。

 目の前の「お坊ちゃん」に。

「――ふざけてんのはそっちだろうがよ……この腐れ下衆野郎が……!!」

 アッシュが男を見降ろしている。

 別人のような、鋭い眼差しで。

「おら、もう一回言ってみな?どんな気持ちを分かってほしいって?ええ!?」

 顔を上げようとする男の顔面を、容赦なく踏み付ける。

「俺なんか、親父なんかに愛された事もねえんだよ。甘えた事ぬかすんじゃねえ、この『お坊ちゃん』めが」

 そして、怯える男に、自分の半生を滔々と語り始めた。

 あくまで冷たい、乱暴な口調で。



[The Past]

 アッシュ・クロードは、軍人、ニコラス・クロードとその妻、シャーリーンの間に、4人兄弟の3番目としてアメリカに生まれた。

 ニコラスはアメリカ軍でも屈指のエリート軍人で、同時に厳格かつ冷酷なロボット人間として恐れられていた。

 一方のシャーリーンは割と自由主義で、厳しい夫の教育方針には否定的であった。

 しかしニコラスは頑なに洗脳紛いの教育を施した。

 毎日のように国歌を歌わされ、暗記させられた。

 第二次世界大戦などのアメリカの戦歴を教え込まれた。

 まだ年端も行かぬ内に銃などの扱いも叩き込まれた。

 そして、敵は全て悪だと教えられた。

 うっかり父の前で国の悪口を漏らすと、酷く怒鳴られ、殴られることすらあった。

 アッシュも他の兄弟も、最初はそれが普通だと思っていたが、学校で色々な人間と関わってから、父と世間とのギャップに戸惑い、その 狭間(はざま)で葛藤することすらあった。

 しかし、皆内心父に怯えていたため、結局末っ子のマイリー以外は逆らえなかった。

 母も子供達を庇ったが、父を止めることは出来なかった。

 そして子供達が成長したころには、彼等は古傷だらけになっていた。

 8歳年上の長男デヴリンは大人しく陸軍に入ったが、心優しかったため、あまり出世できなかった。

 3歳年上の長女グウェンは父の 無理強(むりじ)いで空軍に入ったのだが、真面目だったためか、着々技能を習得しつつあるようだ。まだ会ってないがこの島にいるはずである。

 次男アッシュはやはり父に言われて陸軍に入り、現在に至っている。

 1歳年下のマイリーは男勝りで 気風(きっぷ)の良い少女だが、気性が荒く、気に入らない奴は容赦なくぶん殴るため(しかもよりによって力が強い)、父もほとほと困り果てていた。正直言って、父に鉄拳を返したのは、全人類でも彼女だけだったりするのだ。今じゃスタンフォード大学の医学部に進んでいるが、軍に入るかはまだ分からない。

 そんな父も2年前、島での戦いのさなか、敵に眉間を撃たれて戦死した。

 52歳、最終階級は中将だった。

 帰ってきたのは、遺骨だけであった。

 葬儀の時、アッシュは外では泣いていた。

 みんなも泣いていた。

 しかし、形だけだった。

 彼は本当の涙と偽の涙もにおいで判別できる。

 だから彼には分かった。

 皆、心の底では安心してるのだと。

 さすがに父が不憫で、少しだけ泣いた。

 それだけだった。



[Ash]

「……さあて、これからどうすっかね?逃がすのは絶対なしでぇ……眉間ぶち抜くのは味気ないしなあ……」

「……っ!!」

 男は未だにアッシュにいたぶられていた。

 殴る、蹴る、踏みつける、蹴りあげる……。

 ……さすがに見ていられなくなる。

 と、

「おい!!何やってんだアッシュ!!」

「デービス!?」

 どうやってここが分かったのか、デービスがふらりと現れた。

「何があったか知らねえけどさ、やめといた方がいいぜ?安全庁の奴らもここら辺うろうろしてるし」

「う、うん。分かった」

 アッシュはあっさりと男を解放すると、デービスと共に路地裏から消えた。



[Trevor - The Serial Killer]

 アッシュとか言う男から解放され、トレバーは必死に逃げだした。

 何から逃げているのかは自分でもよく分からない。

 そもそも、何で殺しを――もしかして父さんの影響?

 彼の父は、2020年代にイギリスを震撼させた殺人鬼、『Apple Seed』と噂される男、バーナード・ロギンスだった。

 警察の捜査が始まってから突然行方不明になったからほぼ間違いないだろう。

 なぜ父が殺人に手を染めたのかは分からない。

 ただ、「幸せそうな奴を殺したい」なんていう自分の動機とは違うのだろう。

 僕ら家族と一緒にいるだけじゃ幸せじゃなかったのだろうか。

 目を閉じれば浮かぶ。

 父さんと母さんと一緒にいた日々を。

 警察も冷たい目を向けてくる連中もいない。そして――

「――おい。貴様、何をしている」

 と、目の前に金髪碧眼の長身の男が立ち塞がった。

 黒い、安全庁の制服だ。

 その周りにも、黒服の男たち。

「トレバー・ロギンス。貴様は我々安全庁により、A級ブラックリスト該当者に指名されている。庁まで来てもらおう」

 A級ブラックリスト。

 逮捕次第、死刑――。

「……くそっ!!」

 反射でナイフを構え、男に向かって突進した。

 が、

「――ぐっ!!」

 渾身の一撃はかわされ、右手を捩じり上げられてしまった。

「口ほどにもないな」

 男は鼻で笑うと、トレバーの肩の関節を外した。

 彼は気絶した。

「――ふん。巷では有名な殺人鬼もこの程度か。面白くない」

 不服そうに舌打ちすると、周りの黒服に向かって静かに言う。

「――連れて行け」

 男――ネヴィル・アッテンボローとその部下は、殺人鬼を引きずるようにして路地裏を後にした。








早速疲れました。

もう少しで冬休みも終わりですよ。

……学校行きたくないなー。


さて、次は第4戦。もう半分いきました。

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