第二戦 妖魔島
やっと二回目だよorz
ま、どうせ誰も見てないだろうし、いっか。
[The Certain Woman]
その翌月、
アメリカ軍は、ロシア軍駐屯地であるローランの近くに横たわる森、ロビン・フォレストにいた。
ロシア軍と戦う為である。
何でかは、知る由もない。
この島では、兵士は所詮駒でしかないのだから。
[Ash]
そこに、当然のようにアッシュはいた。
小銃を持つ手が震える。
「……やっぱり僕って軍人向いてないのかな?」
戦場の真ん中でぼーっと突っ立って一人ごちるなんて素人丸出しの芸当をやらかしているが、どういうわけか誰も襲ってこない。
それもそうだ。
彼の周りの兵士は、全員既に死亡しているのだから。
アッシュ自身の手によって。
ざっと20人くらい。
軍人に向いてる向いてないのレベルじゃない。
しかもこれ、初陣である。
むしろ、なぜ市街戦の時あんなにへっぴり腰だったのか……え?あいつ、銃どころか軍用ナイフも持ってなかったの!?
ま、過去をほじくっても仕方ないか。
とにかく、彼は戦闘開始早々こんなアホをやらかしたわけだ。
……弾、残ってんだろうな?
「……デービスとはぐれちゃったしなー……」
とか何とか言って、立って歩いてるところは調子ぶっこいてたりするわけだが……。
「……ん?」
ガサリ
何やら、物音が――
思わず銃口を向ける。
やはり、ロシア兵だった。
暗褐色の髪に琥珀色の目の、20歳にもなってないであろう美少年。
古い銃の銃口をアッシュに向けている。
鋭い視線。
「……誰だ?お前……」
アッシュはただ呆然していた。
「僕はアメリカ兵のアッシュ・クロードだけど……」
思わず名乗ってしまう。
と、
少年の雰囲気が変わった。
「クロード……ってことは、ニコラス・クロードの親類か?」
「んー、ニコラスっていったら父さんだよ」
「……何だと?」
すると、
ダーン!!
「うわっ!!」
突然少年が発砲した。
「何?何で!?」
アッシュが顔を上げると、少年は憤怒の形相で彼を睨みつけていた。
「そうか……てめえの親父か……俺の父さんと母さんを殺したのは……!!」
「えっ!!父さんが――「うるせえ!!」」
少年は、有無を言わせず、眉間に照準をあわせ引き金に力を込めた。
「てめえの親父の居場所を吐け!!さもないとてめえもまとめてブッ殺す!!」
(ヤバい!!)
アッシュはそう直感し、咄嗟に飛び退く。
背後にあった木の、ちょうど彼の頭があった所にビシリと穴が開いた。
「や、やめようよ!!僕を撃っても父さんを撃っても何にも変わらないし、第一僕は君のお父さんとお母さんは殺してないよ!?」
「黙れ!!」
「黙れないよ!!明らかにおかしいよ!!復讐なんてただの気休めじゃないか!!」
「まあそうだろうな――加害者にとっちゃな!!」
(――もう説得できそうにないな……)
アッシュは、静かに小銃を構える。
そして、少年に向き直る。
「……そっか」
訝しげな彼の左胸に、照準を合わせる。
「でも、僕はまだ死なないよ。だから――」
ズダーン……
「――ばいばい……」
そして、彼は逃げ出した。
[The Russian Boy]
少年は夢を見ていた。
昔の夢を。
彼は、9歳の時、出来たての聖ミカエル島に移住してきた。
何でも、父と母が両方聖ミカエル島に行くことになったのだ。
もちろん危険と隣り合わせだったが、危機一髪の所で逃げることが出来た。
また、戦争が生まれた時から日常だったせいか、奇跡的に兵士のようにPTSDだのなんだのに侵されることもなかった。
――しかし、そんな日常も消え去った。
あれは、彼が10歳の時だったか。
確か、アメリカ軍とロシア軍の戦いがローランで行われたの時であった。
家族3人で昼食をとっていると、突然数人のアメリカ人が乱入してきた。
「何だ貴様!!」
退役軍人だった両親はすぐさま銃を取ろうと駆け出した。
が、
「……遅い」
40代半ばと思われる男が、彼らに銃を向けた。
と、
バーン!ズダーン!!
「――!!?」
今までよく笑っていた両親の口から血がほとばしった。
それでも、彼等は少年に微笑みかけた。
「早く……逃げなさい……」
「パパとママの事はいいから……」
「……」
少年は、涙を流して両親を見つめたが、やがて、全力で家を抜け出した。
「まだ生きてたか貴様ら!!」
背後から、怒声と銃声を受けて。
それから、彼は孤児院に入れられ、そこを出てからはスラムで暮らした。
月日はあっという間に過ぎて行ったが、それでもあの男への復讐心は消えなかった。
やがて成長して軍隊に入り、 瞬く間に上等兵まで登りつめた。
そこで、あの男の名はニコラス・クロード大佐と教わり、両親の 仇を討つその日はぐっと近くなった。
そしてついに、ニコラスの息子と名乗る男と遭遇し、やっと居場所を聞き出せると思っていたのだが――逆に反撃され、自分が死にそうになっている。
(何で俺はこんなに弱いんだろう……)
「…………」
(もし強ければ、あんな奴すぐに殺せるのに)
「……い、み……」
(もし強ければ、あの時父さんも母さんも死なずに済んだのに……ん?)
「……おい、君……大丈夫か?」
聞いたことも無い声だ。
味方か……敵か。
少年は恐る恐る目を開けた。
そこにいたのは――
[Ash]
『で、それで君はその子を撃ったってわけか』
エルンストがこう書いた手帳を差し出す。
ここは『Con Fuoco』のカウンター。
デービスもカテリーナも……あと、見慣れない顔の二人。
20代半ばらしい、赤毛に青い目、白いジャケットで赤いドレスを隠した、スタイル抜群で胸の大きい美女と、日本人と思しき、ボッサボサの髪と茶色のコートが妙に胡散臭さを醸し出しているガリガリの中年男。
「誰?これ」
「こっちの女の人はセリーヌさんで娼婦をやってる。私も源氏名しか知らないの。で、こっちのおっさんは高野 剛さんで、武器商人をやってるけど、元は航空自衛隊のパイロットだったんだって。でも、第三次世界大戦で右足無くしちゃって引退したの」
カテリーナが説明した通り、確かに中年男の右足は義足だった。
「やー、どうもどうも」
高野は、飄々としているようで、微かにアッシュを値踏みするように観察していた。
油断ならない男のようだ。
一方、セリーヌとか言う女性は、
「あら、可愛い子ね。名前はなんていうの?」
職業柄か、人当たりは良さそうだ。すごい美人だし。
鈍いアッシュも、見つめられて思わず顔を赤らめている。
「あ……アッシュ・クロード……です……」
「アッシュ君ね!よろしく!」
意外に子供っぽい表情にもびっくりしてしまう。
「ねえ、どうせなら私の部屋に寄って行かない?お安くしておくわよ」
「えっ……」
『駄目だよセリーヌさん。この子純粋なんだから』
エルンストが笑いながら手帳を差し出す。
「この子何歳?」
「22歳です」
「デービス!!そこは18とか言ってよ!!」
「だが断る」
「いいじゃない。もうロハにしたげるから」
「そういう問題じゃないですよおおおおお!!!」
結局アッシュはお持ち帰りされました。
「ウフフ。こんな可愛い子がうちに来るの初めてじゃないかしら」
「はあ……」
彼は曖昧に返事し、軍服の上着を脱ぐ。
彼女もジャケットを脱ぎ、赤いドレスから露出した白い滑らかな肌を晒した。
「ねえ……貴方って……初めて?」
「……何がです?」
「決まってるじゃない」
彼女はクスリと笑って、ベッドに座っていたアッシュの目の前にすり寄った。
猫のように。
大きい青い目が重なり合う。
「えっと……どうなさったん、です、か?」
「もう何だか抑えられないの。……あらあら、そんなに 火照っちゃって」
そっと、滑らかな手が、頬に触れた。
さらに体が熱くなる。
「あっ……!!ちょっ……やめて下さい!」
「やめられないの、もう」
彼の白いシャツのボタンが外される。
「……うん、悪くないわ」
彼女は再びクスリと笑った。
「さ、受けて立つわよ、坊っちゃん」
と、セリーヌがアッシュをベッドに押し倒した。
アッシュは、抵抗することすら忘れていた。
翌朝、アッシュはようやく解放された。
「またいらっしゃいねー」
セリーヌの甘い声を背にして、彼女のマンションの部屋を出る。
さて、これからどうするか。
一番いいのは、このまま駐屯地に帰ることだ。
事情はデービスが伝えてくれているだろうが、皆心配してるかもしれない。
まあ、冷やかされるのがオチだと思うが。
あるいは怒られるか。
「ま、帰るのが一番だろうね」
そう呟き、朝の町を歩きだす。
と、
「……ん?」
彼の人間離れした鋭敏な嗅覚が反応した。
異臭だ。
「何の臭いだろ……これ……」
異臭は……路地の中からか……。
入ってみる。
そこには、
「うわあああああああ!!」
腹を切り裂かれた死体があった。
それだけならまだ良かった。
しかし、手足が切り離され、赤々とした内臓が漏れ出しており、原形をまるでとどめていない。
「……な……何?……これ……」
死体を目の前にしたのはこれで二回目。
しかし、慣れるわけがない。
ましてや、それがぐちゃぐちゃに崩れているものだったら。
「と、とりあえず警察に……」
そこで、はたと思う。
「――この島って……警察、いるの?」
そこに、
「どうした君!!」
「叫び声が……うわっ!!」
近隣の住民が集まってきた。
「これは……何があったんだ?」
そう聞いてきた男に、思わず抱きついてしまった。
「あ、あの、僕、に、臭いに、気づいて、えっと、僕の鼻、犬みたい、だから、で、ここに、入って、そしたら、これが、あって、その、」
「分かったから落ちつけ。つーかいい加減に気づけよ、俺に」
「……え」
顔を上げる。
そこには、昨日あった高野とかいう男がいた。
「とりあえず、『安全庁』に言うか……」
「安全……庁、ですか?」
なぜだろう。
良い言葉というのは、気持ち悪い。
そして、人間臭い臭気が……あれ?
「『平和省』――この島を取り仕切ってる機関なんだが、そこの所属でな、まあ、警官に近いな――いや、むしろ『憲兵』かもな――」
「――おい。そこで何をしている」
……「「「――!!?」」」……
皆、驚いて振り返る。
しかし、アッシュは、
(ああ。この人のにおいか)
そこには、黒い警官のような服装の、20代前半らしき長身の男が立っていた。
「――安全庁保安官、ネヴィル・アッテンボローだ……」
オールバックにされたブロンドと鋭い碧眼の、冷たく妖艶な美青年だ。
身長はもはや190以上かもしれない。
その長身と美貌に、思わずアッシュは見とれてしまった。
と、
「うわああああ!!安全庁の保安官だああああ!!」
「ひいいいい!!」
住民は、アッシュと高野を残して逃げ出してしまった。
ネヴィルとかいう青年は、軽蔑の眼を向けるのみだ。
しかし新参者は、
「ちょうどいいや。ええと、殺人事件なんですけど」
ネヴィルが、興味深げにアッシュを見据える。
「貴様、俺が怖くないらしいな。……面白い」
鼻で笑われるのが、無性に腹立たしい。
「あー、こいつ、つい最近来た新兵でして、この島の事よく分かってないんですよ」
高野が、彼の肩を持ちつつ言う。
(アッシュ、少しは警戒しろ。雰囲気で分からねえのか?)
(ん?まあ、ちょっと冷たそうな臭いですけど)
(……はあ?)
(……いや、良いです。僕くらいにしか分かりませんから)
目の前での囁きを余所に、男は死体を一瞥した。
「あれが今回のガイシャか?」
「え、はい、そうです――」
「こいつは面白い。昨日のと同じか」
再び、鼻で笑う。
「最近増えているんですか?」
「そうだ、犯人は知らん」
「そりゃ、犯人も知られてたらこんな大胆な事は出来ないですよ。切り裂きジャックの幽霊でもない限り。……で、やっぱり僕尋問とか受けさせられるんですか?」
「知らん。とにかく、他の連中が来るまでそこで待機だ」
「はーい……」
結局、尋問は受ける羽目になったが、すぐに無罪放免となった。
庁舎からの帰り、あのネヴィルとすれ違った。
「――まあ、気をつけろと言っておいてやる――また仕事が増えるのも面倒だからな」
「貴方も、ミイラ取りがミイラにならないように」
「……ふん」
高野が、珍しく慌てていた。
「ちょっ……!!保安官挑発する奴がいるか!!しかもあの男、まだ22で若手だが、安全庁でも冷酷ってことで悪名高い奴だぞ!!」
しかし、アッシュの返事はあまりにも冷たかった。
別人のように。
「知りませんよ。僕だって、嫌味を言われて黙っているほどお人よしじゃありません」
まるで吐き捨てるようだ。
だが、と、彼は一人思う。
(あの人、涙のにおいがしたな……)
夜、高野の店に行って、サブマシンガンと拳銃、ライフルを購入した。
「軍の奴は使いにくいです」
「いや、これ、最新式だぞ?」
「無駄な機能が多すぎです。日本の携帯電話みたいに」
「まあな。そうでもしねえと売れねえし。第一、最近は物がアホ共に合わせていかないといけねえようになってきてるからな……。てか、お前って意外とこいつら使い慣れてんだな。玄人か?」
「いえ、ただの戦死した軍人の息子です」
アッシュは、新しい武器を撫でて高野に向き直る。
「試し打ちさせて頂いていいですか?」
「おう。奥に入ってくんな」
店の奥には、西部劇みたいな射撃場があった。
「防音はバッチリだ。思いっきりぶっ放してくんな」
「はい」
拳銃に弾をセットし、標的に向き直る。
「……いきます」
そして、
鉛の玉と、標的が引き合った。
そうとしか言えなかった。
「ほぅ……」
射撃は見慣れてるであろう高野も思わず息を呑む。
「なかなかだな」
「そうですか?」
本人は何とも思ってないようだ。
「これ、すごく使いやすいですね!」
「そうか。そりゃ良かった」
実際は、かなり旧式のブツなのだが。
「旧式だから良いんですよ。持ち主が味を出せる」
「……普通は味を消そうとするんだけどな……」
「そうですか?」
彼は気にも留めずに次々と鉛を放つ。
ライフルも、マシンガンさえも標的の中央を射抜く。
ついには、的自体が破壊されてしまった。
「よし、みんな調子良いみたいですね。ありがとうございます」
「あ、ああ……」
何事も無かったかのように微笑むアッシュに、高野の笑顔は引き攣っていた。
店を出て、既に暗くなってしばらく経つ路地を歩く。
と、
「……また!?」
再び、血の臭いを嗅ぎ取った。
今度は、嗅いだ事あるにおい。
「クレイソンさん!?」
よりによって、クレイソン第二歩兵連隊長だった。
すぐさま、においの方向に急ぐ。
そこには、ナイフを持った男と、肩から鮮血を流したクレイソンがいた。
「大丈夫ですか!?クレイソンさん!!」
アッシュは拳銃をぶっ放した。
ナイフの男の右手からおびただしい鮮血が漏れ出す。
「――っ!!」
男は右手を押さえて蹲った。
「んじゃ、駄目押し」
今度は、右足を撃つ。
「これくらいしていた方が良さそうだね……」
一人で納得すると、隊長のもとに駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
「ああ。何とかね……」
隊長は立ちあがり、血をシャツで拭った。
「うん。傷は浅い」
そして、新兵に向き直る。
「ありがとう。助かったよ」
「いえ。たまたまばったり出会っただけです」
「いやいや。謙遜はいらないよ。あのままじゃ確実にやられていた。本当にありがとう」
「そんな、大したことじゃないですよ。……とりあえず、ここは出ましょう」
大通りに入り、クレイソンがアッシュを見る。
「……いつもこんな所をぶらついているのかい?」
「はい。今日は武器を調達に行ってました」
「支給された武器があるのに?」
「使いにくかったんです」
「そうか?」
[XXXX]
……と、二人が談笑している、その横を、黒服の男達が通り過ぎる。
「…………あれがドワイト・カッセルですか……」
「……その横がアッシュ・クロードだな」
「あのC級リストの…………」
「……ああ。どちらも危険人物だ……」
「……捕らえますか?それとも――」
「いや、二人では危険だ。様子を見るか」
「ですか……」
夜の街は、闇より深い漆黒に染まる。
少しずつ、しかし、確実に。
まるで、黒い妖魔のように――
やっと終わったぜ!!
次は別名「アッシュ無双」になる予定。
てか、S覚醒だったりして。