一条美琴とネッ友
翌日、家を出るとそこに凛が立っていた。
「あんた…あんたのせいでっ!!」とか言ってきた。
昔からそうだ。
何か都合が悪い事が起きるとそうやって何でも俺のせいにしてきた。
まぁ、今回は俺のせいだからいいんだけどな。
「だから何?お前も殴って退学になるか?」 「調子に乗ってられるのも今のうちだから…絶対…許さない!」
そらこっちのセリフだ。
悪いけどお前のことは一生許す気はない。
そんな元許嫁の真横を通り、学校に向かった。
1人で歩いていると、前から黒塗りのリムジンがやってきた。
かぁー、すげー…リムジンかよ。とか考えながら歩いていると、そのリムジンが止まる。
そして窓が開くとそこから顔を覗かせたのは一条さんだった。
「…あ、ども…」と、頭を下げると「…乗る?」と聞かれた。
「…え?いやー…じゃあ…お願いします」と、車に乗り込んだ。
一条美琴。
あの一条グループの一人娘だ。
父親はあの何をやっても成功しちゃうで有名な一条グループの社長であり、確か母親はロシア人でいくつかの貿易会社を経営している超大金持ち…だっけか。
その母親の遺伝子を強く受け継いだ彼女は何とも美しい女性であった。
しかし…無口で有名でありほとんど声を聞いた事がない。
一応、彼女とは去年同じクラスだったが、結局一言も話す事なく2年のクラス替えでバラバラになったわけだが…。
俺に好かれる要素とかないんだよなー…。
てか、なんか話したほうがいいのかな。
「あ、一条さんは…いつも車で登校してるの?」
コクリと頷いた。
「そ、そっかぁー!ぶ、部活大変そうだよね!去年も全国大会出てたんだっけ!」
コクリと頷く。
「なるほどねー!…す、好きな食べ物は何?」 「…スイカ」
なんか意外な回答が来た。
「ていうか…その…本当にあの人は退学になったんですか?」
「うん…もう学校にも来れないから…安心して」
「は、はぁ…」
この人たちに目をつけられたら本当に人生が終わりそう。
結局、話が盛り上がることはなく、そのまま学校に到着してしまった。
というか、結局あのラブコメ宣言はなんだったのだろう…。
教室に行くと、視線が痛い。
そりゃそうだ。
あの大人気イケメンヤリチンが退学になったのは、不人気フツメン童貞が原因なんだから。
こう書くと自分があまりにも男としてダメすぎて嫌になってくる。
本当、この学園は色々と腐っている。
この学校──正式名称は『私立聖凛学園』という、超お金持ち名門校。
学力特化の特進コース、スポーツ専攻のプロコース、その他芸術やビジネス、国際関係なんかの様々な専門コースが存在している。
入学にあたり学力以外の部分も審査の対象となり、それはそれは厳しい条件を潜り抜けたもののみが入る事が許される…とされているが、その内情はなかなかに腐っていた。
まぁ、金持ち同士の賄賂や婚約だ権力争いだ…と、なかなかにドロドロしていた。
特に俺みたいな落ちぶれた元名家の人間や、新参者には口に出さずとも明確に差別が存在した。
授業料の減免を受けている生徒は陰で「乞食組」と呼ばれたり、親のコネで入ったヤツが堂々と優遇されたり。
つまるところ、身分だなんだで差別する16世紀くらいの価値観で生きているバカが多いという事だ。
表向きは「平等と努力の学園」なんて標榜してるけど、実際は家柄と金が全て。
凛みたいな名家の娘が幅を利かせてるのも、そういう土壌があるからこそだ。
そんな腐った学園で、今日も俺は授業を適当にやり過ごした。
放課後、生徒会室に呼ばれなかったのがせめてもの救いだ。
広報の仕事とか言われてたけど、まだ具体的な指示がないみたいで、俺はそそくさと帰宅した。
家に着くと、母さんは仕事で出かけていて留守だった。
安心して俺は部屋にこもり、いつものようにPCを起動してネトゲにログインした。
このゲームはMMORPGで、ファンタジー世界を冒険するヤツ。
俺のキャラは地味なサポート職で、目立たず後方から仲間を助けるのが性に合ってる。
ストレス発散にはもってこいだ。
ログインすると、いつものネッ友がオンラインだった。
ハンドルネームは『ミコ』。
顔も住むところも知らないけど、かれこれ出会って4年くらいが経過しており、親友と呼んでもいいくらいの関係性になっていた。
出会いは数年前のランダムパーティーで、それ以来よく一緒にクエストをこなす仲になった。
通話しながらやってるから声は知ってるけど、女の子だってわかった時はびっくりしたなー。
けど、俺の愚痴を聞いてくれるいいヤツだ。
そして、いつも通りゲーム通話に入る。
「ういっす。相変わらずログインはえーな。学校は?」
ヘッドセットからミコの声が聞こえてくる。いつもの軽快なトーンで、俺のハンドルネーム『K』と呼ぶ。
『Kこそ、最近ずっと疲れた声してるけど、大丈夫?』
「あー、聞いてくれよ。今日も学校が最悪でさ。元許嫁のヤツが朝から絡んできて、挙句に教室じゃみんなの視線が痛いんだよ。あのイケメンが退学になったの、俺のせいみたいになってるし。いや、俺のせいではあるんだけど」
『まぁ、ストレスが減ったならいいんじゃない?許嫁さんのことも好きじゃなかったし、その厄介な彼氏さんもいなくなったならいいことづくしじゃん』
「そりゃそうなんだけどさ。俺はもっと…平凡な青春ライフを…ってあぶね!?めっちゃ攻撃されてたわ!」
『平凡な青春ライフ…ね。それで?あの生徒会の3人の人に好みの人とかいるの?』
「…好み?好みねぇ…。元許嫁も顔は相当いい方だったけど、あの3人は完全にそれ以上だし。高嶺の花っていうか…俺とは釣り合わないからな。あんまそういう目で見たことないけど…強いていうなら…副会長かな?」
すると、何か大きなものが落ちたようなすごい音が聞こえる。
「ちょっ、おい!大丈夫か〜?」
『…ご、ごめん!ちょっと…椅子から転げ落ちて…!』
「どんなドジだよ…。つか、そういうミコは好きなやつとはどうなったん?」
『…今日は一緒に登校した』
「まじ?それは進展だな」
『…うん』
それから2人で夜遅くまでゲームをやるのであった。
◇
「…私のこと…タイプだって…ふへへ…タイプだって…ふへへ」と、気持ちの悪い笑みを浮かべて、枕に抱きつく一条美琴であった。




