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高飛車な許嫁に見限られ、ようやく青春できると思ったら密かに狙っていた御三家美令嬢にラブコメ宣言されたのだが?  作者: 田中 又雄


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許嫁に見限られたのに…【修正版】

『最後に…神谷圭、あんたとの許嫁契約は今日を持って破棄させてもらうわ』


 体育館の壇上でそう告げられた。


 全校生徒が集まる入学式の在校生代表の挨拶の最後に、おまけ程度のテンションで千堂凛はマイクを握り、堂々と告げた。


 完璧な黒髪ロング、制服の着こなしまで隙がない、間違いなく美少女な才女。

俺の幼馴染であり、幼い頃から決められていた許嫁。


 その彼女が、俺を指差して、冷たい笑みを浮かべていた。


 会場が一瞬でざわめいた。

周りの生徒達がくすくすと笑ったり、俺の方を見て何かを呟いたりしていた。


 ったく、昔から自分勝手で我儘で高飛車で、うちは元名家が故にいつも見下されてきたからな。

これで解放されるならまぁいいだろう。


「……了解」


 俺は小さく頷いた。

俺の人生はあいつのためにあるようなものだった。

ある種の奴隷解放宣言であった。

これでようやく、俺は自由になるのだ。


 凛は満足げに微笑むと、マイクを置いて壇上を降りた。


 誰にも見えないように小さくガッツポーズをした。


 

 ◇


「この子があなたの許嫁の女の子よ」


 そんなことを言われたのを何となく覚えている。


 恥ずかしがり屋で可愛い感じの女の子だった。


「あなたは絶対にこの子と結婚するの。これは絶対なの。だから、あなたは努力をし続けなれければならない。永遠に」

「分かりました、お母さま」


 うちは元名家。

現在ではまぁ落ちぶれに落ちぶれてしまっていた。

そして、凛の家は名家であり、母は何とか俺と凛をくっつけようと必死にもがいていた。


 小さい頃の俺はよく分からないけど、それでも母さんの言うとおり頑張ってきた。


 凛は大きくなるにつれ、我儘に傲慢になっていった。

一人娘ということもあったが、何かあればうちの母が出しゃばって、何でもいうことを聞いたがために、凛は高飛車になり、調子に乗り続けた。


 そして、いつの間にか許嫁という関係は奴隷とご主人様の関係になっていた。


「ねぇ、肩揉んで。はやく」

「学校では話しかけないでね。気持ち悪いから」

「ねぇ、あんた悔しくないの?こんなふうにバカにされて」


 そんな言葉が毎日のように続いていた。


 それでも母に言われるがまま俺は従い続けた。


 これが永遠に続くのだと俺はそう思っていた。



 ◇


 教室で俺は、予想通りの光景を目にしていた。


 凛がクラスメイトの黒柴秀太の膝の上にちょこんと座って、耳元で何か囁いている。


 黒柴は名家の人間で、凛と同じく成績優秀・スポーツ万能のエリート。

俺とは正反対の、目立つタイプの人間。

女癖が悪いともっぱらな噂だったが、格好良さと家柄の良ささえあればそんな噂はなんの弊害にも無らなかった。


 周囲の女子たちが黄色い声を上げ、男子たちは羨望と嫉妬の混じった視線を送っている。


 凛は俺の視線に気づくと、わざとらしく悠真の首に腕を回して、「ねぇ、秀太〜。昨日は本当にたのしかったわね」と甘い声で呟くわ、


「そうだな。ようやくあんな落ちこぼれと縁が切れたんだもんな」


 二人が俺の方を見て、わざと大きな声で笑う。

教室中が俺に注目する。


 いや、俺が切られたんですけど。

まぁ、そんなことは2人にはどうでもいいことなんだろうが。


 しかし、許嫁というレッテルがなくなれば、俺はただの「神谷圭」でいられる。


 誰にも注目されず、誰にも干渉されず、放課後はゲーム三昧、休日はアニメ見まくり。

そして、地味ーなクラスメイトとひっそりと付き合って…。


「ふふっ……ようやく、始まるな」


 俺は席に座ったまま、窓の外を眺めて小さく笑った。


 その日から一週間。

俺は本当に、待ち望んだ平穏を手に入れていた。


 朝は寝坊してギリギリに登校。

授業中は寝て、放課後は部活も委員会も入っていないので、即帰宅してゲームか、図書室の奥でスマホで小説を読みふける。


 なんて幸せな日々だ!!

完璧だ。


 前ならあのうるさい許嫁に色々文句を言われていたからな。

まぁ、あいつに尻を叩かれたおかげでこの名門校に入学できたわけだから、そこは感謝してる。


 それからは平凡な青春ライフを送れるかとワクワクしていた。


 しかし…それから約2週間が経過したのだが、教室ではあの2人が何度も何度もしつこく絡んできては馬鹿にしてきて、見下したりしてきた。


 何がそんなに気に食わないんだか、いつまでも終わることはなかった。


 それから精神的にくたくたになりながら、先生の呼び出しがあった後に教室に戻ると、何やらヒソヒソ話をされた。


 そして、黒柴が嬉しそうな顔で近づいてくる。


「もしかして退学でも宣告されたか?神谷ぁ」と、ニヤニヤとしている。


 その半歩後ろからついてきて、いつもの馬鹿にしたような笑顔で見下す凛。

3歩後ろを歩かれへん女は背中刺されて死んだらええからだろうか。


「まぁ、この学校にも私のおかげで入れたわけだし?あんたなんか本来、この学校にふさわしくないわけで、退学は必然よねw」とか追撃してくる。


 あーこいつらめんどいな。

もう俺と関わる必要ないんだから絡んでくるなよ。


 もう…なんかどうでもいいや。

この学校では元名家で、更に名家である凛の幼馴染ではなくなった俺はまともに扱われることはない。


 結局、ここでは平凡な青春ライフすら送ることはできないのだ。


 だから、もういいかと吹っ切ることにした。

そう、退学になってもいいかと。


 なので、大きく息を吸い込んでからこう言った。


「あーそうそう退学になるってーw」と、めちゃくちゃバカにした顔で言い返してみると、いきなり胸ぐらを掴んでくる。


「てめぇ、舐めてんのか?」


 こいつ、本当単細胞だな。

都合のいい回答だけ欲しいならAIとでも喋ってろよ。


「どういう回答なら黒柴様は納得するわけ?俺になんて言って欲しいわけ?そこに居るめんどくさい女じゃないんだからさ、はっきりいいなよ。それに殴りたいなら殴ればいいのに胸ぐら掴むだけとか。ほら、殴ってみろって。そして、ママに泣きついて『もみ消してください〜』って言えよ。すげーのはお前の親であってお前じゃないんだよ、親の七光くん」と、全力で煽ってみた。


「てめぇ…!!」と言われて、思いっきり顔面を殴られた。


 あー、美少女に殴られるならご褒美だが、ムカつく男に普通に殴られるとかムカつくだけであった。


 それから、教室に先生達が入ってきて、取り押さえられる黒柴。


 俺はそのまま保健室に行くのであった。

多分、また都合よく事実を書き換えられて、俺は晴れてこの高校を退学になるんだろうなと思っていた。


 まぁ、いつものことだ。


 保健室の扉を開けると、いつも通り竹下先生が居た。


「あら?今日は珍しく出来立ての傷ね」と、微笑む。


 爆乳独身美人保健室の先生という、エロ漫画要素を豊富に詰め込んだ先生がそこにいた。


「はい、ついさっき顔面グーパンを食らいましたので」

「青春ね」

「いや、どこがですか。俺はアオハライドとか花男とかそっちの青春したいんですよ。クローズしたくないんですよ」

「あら、意外と古めの漫画知ってるのね。ちなみに花男は最初の方に顔面グーパン喰らうわよ」

「…細かいことはいいんですよ」


 そんなことを言いながら、目のところにガーゼを貼ってくれる。


「…それで?平凡な青春ライフを送ることを目標にしてきた君が何をしでかしたの?」

「あー、まぁ…。全部、面倒になっただけです。許嫁とか家のこととか。まぁ、色々あったんですよ。だから…面倒になったんです。いろいろと」

「…そう。それが君の選んだ選択だというなら、先生は止めないけど」

「最初から俺に選択肢なんてあってないようなものでしたけどね」


 そうして、治療をしていると、保健室の扉が開く。


 そこに立っていたのは…生徒会長だった。


 九鬼桜──生徒会長。

黒髪の超絶美少女で、学年トップの成績、容姿、品格、全てを兼ね備えた完璧超人。

ハッキリ言って、全ての面で凛の完全上位互換であり、凛が最も尊敬していた美少女であった。


 もちろん、俺はクラスも違うし、話したことなんて一度もなかった。


「…あら、独眼竜のコスプレかしら?」

「そんなカッコよく見えます?」

「えぇ、あなたはとてもかっこいいわ。独眼竜でも写輪眼じゃなくても」

「…なかなかいい返しですね。それで何しにきたんですか?退学の宣告ですか?」

「えぇ、そうよ」


 まぁ、そりゃそうか。

この世の中、常に都合の悪い方向に行くことばかりだから。


「黒柴秀太の退学が決まったわ」

「…は?」


 こうして、俺の青春は少しずつ動き始めた。

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