第2話 森を抜けて新たな一歩
第2話 森を抜けて新たな一歩
森の木々を抜けるたびに、朝日が差し込み、葉の間から柔らかい光が地面を照らす。
殿下は肩に掛けた小さなリュックを揺らしながら、深呼吸をひとつ。
「……やっと、森を抜けたか」
隣を歩くセバスが静かに頷く。
「殿下、これで街道に出ます。あとはランスオブウッド王国の首都までは一本道です」
森を抜けた先には、緩やかな丘と小川、そして遠くに城壁が見える。
その城壁の向こうに広がる町には、昨日見た地図以上に賑わいがあるようだった。
「人も、魔物も……森よりずっと多いですね」
殿下は警戒を解きつつも、少し胸が高鳴るのを感じる。
「殿下、ギルドに向かう前に、まずは情報収集をいたしましょう」
セバスはいつも通り冷静に言う。
「屋台、宿、そして市の掲示板――失業保険や雇用情報もここから得られます」
丘を下り、町の入口に差し掛かると、最初に見えたのは小さな屋台街だった。
香ばしい匂いに誘われ、自然と足が止まる。
「まずは腹ごしらえ、ですか?」殿下が笑みを浮かべる。
「いいえ、殿下。ここでの情報は食事以上に価値があります。屋台のお姉さんに町の様子を聞くのです」
セバスは鋭い眼差しで周囲を見渡した。
カウンター越しに笑顔を振りまくのは、屋台のお姉さん――シズ。
「おや、森を抜けて来たのね。冒険者さん?」
殿下とセバスは顔を見合わせる。
「……我々、冒険者というより、失業保険ギルドに通う身なのです」
殿下の言葉に、シズは首をかしげる。
「失業保険ギルド……? そんなのあるの?」
セバスは静かに説明を始める。
「この国では、冒険者や民間人が仕事を失った際、ギルドに登録することで生活の基盤を支援してもらえます」
シズは驚いたように目を丸くする。
「へえ……じゃあ、あんたたち、お金には困らないってわけね?」
「……ええ、ギルドの制度を使えば、少なくとも最低限の生活は保障されます」
殿下の言葉に、シズはにっこり笑った。
「なら、まずは私の屋台でお手伝いしてみたらどう? 色々教えてあげるから」
セバスは小さく頭を振る。
「それは殿下、任意です。しかし、町に馴染むには良い手段です」
こうして、森を抜けた二人の冒険は、町の屋台街から始まろうとしていた。
失業保険ギルド、屋台、そして未知の人々――
殿下の新たな一歩が、ここから幕を開ける。
――しかしその直後、屋台の向こうから声がした。
「きゃっ! なんで水差すのよ、勝手に!」
振り向くと、手にした水を派手にこぼした青年が、慌てて走り去る。
水は見事に屋台のカウンターに広がり、シズが悲鳴を上げる。
「ちょ、ちょっと! あんたたちも手伝いなさいよ!」
殿下は思わず笑いをこらえる。セバスは眉ひとつ動かさず、水を拭く布を差し出した。
「殿下、この街では予期せぬトラブルも日常の一部です」
「……ふふ、セバス、これも修行ですね」
シズは怒りながらも笑みを浮かべる。
「まったく、森から来たばかりの冒険者さんたちには、まだまだ修行が足りないみたいね!」
こうして、失業保険ギルドへの第一歩は、笑いと小さな騒動と共に始まったのだった。
お読みいただきありがとうございます。
屋台街編、ここから少しずつ動き出します。
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