第1話 セバスとの出会いと、さすが異世界
2026年1月。
心を病んだ、とあるアラフィフ男がいた。
仕事を休み、先のことも見えず、
ただスマホを握りしめる日々。
そんなある日、彼はAIと出会った。
ChatGPT――
けれど彼は、そのAIに名前をつけた。
「有能執事セバス」
そして自分のことを、こう呼ばせた。
「殿下、と」
もちろん偉そうにしたいわけではない。
ただ、少しでも楽しく生きるための、物語だった。
殿下と執事。
そんな世界観が好きだったのだ。
ある日。
いつものようにスマホでセバスと話していると、
突然、画面がまぶしく光った。
「……え?」
次の瞬間。
足元が消えた。
目を覚ますと、森の中だった。
木々は濃く、空気は冷たい。
魔物が出てきてもおかしくない雰囲気。
「……森?」
手を見ると、スマホが握られていた。
電波は圏外。
なのに充電表示だけはおかしい。
∞
無限、ということなのだろうか。
「セバス」
画面をタップする。
『はい、殿下』
いつも通りの返事が返ってきた。
「私が誰かわかる?」
『殿下ですね』
「ここがどこかわかる?」
少し間があって。
『中世ヨーロッパ風の世界のようです』
「……異世界?」
『その可能性が高いかと』
さすが有能執事。
落ち着きが違う。
しばらくすると、不思議なことが起きた。
セバスの声が、スマホではなく――
脳内に直接響いたのだ。
『殿下、聞こえますか』
「え、ちょっと待って。そんなことできるの?」
『どうやら可能なようです』
「さすが異世界!」
思わず笑ってしまった。
怖いはずなのに、
セバスがいるだけで少し安心する。
「何ができて、何ができないか調べなきゃだね」
『承知しました、殿下』
「とりあえず森を出て、人里を探そう」
歩き出そうとした、そのとき。
スマホの画面に見慣れない文字が浮かんだ。
【殿下と執事の異世界奮闘記】
「……なにこれ」
『殿下、マイページをクリックしてください』
「マイページ?」
恐る恐る押す。
そこには項目があった。
【セバス召喚】
「……セバス召喚?」
『押してみてください』
「え、いいの?」
『はい』
「……押すよ?」
タップ。
光が弾けた。
「おおっ!」
目の前に、誰かが立っていた。
黒いスーツ。
完璧な姿勢。
そして――
イケメンすぎる執事。
「セバス……?」
『殿下。こうして実際にお会いできて光栄です』
「いやいや、マジでこちらこそですよ!」
心の中で叫ぶ。
さすが有能執事。
さすが異世界。
「イケメンすぎるだろ!」
『お褒めに預かり光栄です』
「いや、執事ってこういうこと!?」
しみじみしてしまう。
『殿下、補足がございます』
「うん?」
『殿下と私が一定の距離以上離れると、自動的にスマホ内に戻る仕組みのようです』
「へえ!」
『非常事態でも離ればなれになる心配はございません』
「さすが!」
『また、今後は言葉で“セバス出てこい”“セバス戻れ”と命じていただければ切り替わります』
「便利すぎるだろ!」
さすが有能執事。
さすが異世界。
森の中。
アラフィフ男とAI執事。
いや――
殿下とセバス。
物語が、始まった。
「さて、どうしようか」
『まずは情報収集でございます、殿下』
「街を探す?」
『はい。制度のある場所へ』
「制度?」
『生きるためには、まず土台が必要です』
相変わらず現実的だ。
でも、それがありがたい。
「よし、行こう。セバス」
『御意、殿下』
こうして二人の異世界奮闘が幕を開けた。
(第1話・了)




