政治
自己紹介の後は歓談の時間となった。 連邦の大臣が何かを言って笑い、王国の側近がにこやかに応じている。互いに自国をアピールしているのか、あるいは単なる雑談か。 レオナード王を盗み見ると、微笑を浮かべながら優雅に杯を傾けていた。……どういう感情なのだろう。とりあえず真似をして一口飲んでみる。ん? お酒じゃない?
傍らに控えるスタッフに視線を送ると、彼は私の手元のグラスを見てすぐに察したようだ。音もなく歩み寄り、耳元で囁く。
「レン様、酔わないよう中身はお酒ではございません」
「そうなの?」
「はい。宰相閣下のご指示です」
左様で。どうやらただのグレープジュースらしい。辛い(つらい)。とりあえず一気に飲み干し、お代わりをもらうことにした。
「ところで、カノン様は防御魔法が得意とのことですが」
「ええ、硬さには自信がありますわ」
シエラ姫とカノンの会話が始まった。双方の間に少し剣呑な空気が流れているが、何か因縁でもあるのだろうか。 助けを求めてスタッフの顔を見たが、彼は斜め上の一点を見つめたまま頑なに目を合わせようとしない。Sランク同士が威圧感を放ちながら会話をすれば、それだけで空気が重くなる。無理もないが、私としてはたまったものではない。
「私は狙撃が得意です。後で模擬戦でもいかがですか?」
「ご依頼があれば検討いたしますわ」
「あら、依頼がないと受けていただけないのですか?」
「『依頼を受ける』というルールを厳格に守らなければ、Aランク以下の冒険者に示しがつきませんので。申し訳ありませんが、ギルドを通してくださいませ」
「そうですか、それは残念。王国は仕組みがしっかりしているのですね。連邦では好敵手がいなくなってしまったので、王国なら楽しめるかと期待しておりましたのに」
「Aランクなら手続きも簡単ですので、すぐにお呼びできますが……いかがいたします?」
「お気遣いありがとう。ただ、Aランクだと(手加減を誤って)殺してしまいかねません。外交問題に発展しては困りますから、やめておきましょう」
「左様でございますか。こちらも、もし姫様を傷つけようものならどのような騒動になるか……。お互い、やめておくのが賢明ですね」
笑顔の裏に「怒」のマークが見えるような、凄まじいプレッシャーだ。周囲の面々は、何も聞こえていないかのように黙々と食事を続けている。
「ねえレン、あんたのところで模擬戦をするのはどうかしら? セリーナならルールなんて無視するし、いい勝負になるんじゃない?」
「確かに、あいつに説教する奴はいないだろうな……。ただ、判断は俺にはできない。セリーナ本人が良いと言えば、いいんじゃないか?」
「まあ、あのかの有名なセリーナ様。カノン様とはどちらがお強いのかしら?」
「一度戦った時は引き分けだったよな?」
「実質、私の勝ちだったけれどね」
「寒すぎて観客全員が凍死しかけた状況で、勝ちも負けもないだろう……」
「素敵な方ですこと。もしよろしければ、ご紹介いただけますか?」
「わかった。後で会いに行こうか」
「調整はこちらで行いますので、お任せください。万が一、姫様の御身に何かあっては大変ですので」
そこで宰相が割り込んできた。これ以上勝手に話を進めるな、という牽制だろう。
その後、話題は両国の文化、美術や音楽へと移っていった。 ……正直、何もわからない。しかし、安易に誰かを見るわけにもいかない。以前の会合で、ある大臣の髭に白いものが混じっているのが気になって眺めていたら、「『宵闇の極光』は先月の税制改正に不満を抱いている」という噂に発展したことがある。
セリーナいわく、その大臣は財務担当で、先日賛否両論ある増税を発表したばかりだったらしい。抗議の無言劇だと思われたのだ。税金のルールなんてこれっぽっちも知らないというのに。
ましてや、今の空気でシエラ姫を凝視しようものなら、どんな大騒動になるか分かったものではない。……やはり、この場所は気を使うべきポイントが多すぎやしないか?




