流れ着いた者たち
数日間、レンは特に依頼を受けることなく、のんびりとした時間を過ごしていた。ザヴィルの街を歩き回り、食堂を巡り、時には市場を眺める。
(こういう時間も悪くないな)
そんなことを思いながら、宿の部屋で装備を手入れしていると、朝早く扉が叩かれた。
「さて、レン。依頼を受けよう」
扉を開けると、テオとソフィアが立っていた。
「ずいぶん急だな」
「ミナからの希望だ。依頼を受けてほしいってさ」
「ミナが?」
少し嫌な予感がする。あの受付がわざわざ指名してくる依頼。
「依頼の内容は?」
「連邦から流れてきた村人たちの保護と輸送だ」
テオは紙を取り出し、軽く叩く。
「魔物に襲われたらしくてな。逃げているうちに川に流されて、こっちまで来たらしい」
「今はどこにいるんだ?」
「ザヴィルから少し離れた川沿いの小さな集落。もうすぐ街に着くところだったらしいんだが、病人が複数人出て動けなくなったんだと」
「なるほど」
レンは頷く。逃亡と疲労、さらに環境の変化。体調を崩すのは珍しくない。
「人数は?」
「二十人くらい。ただ――」
テオは少し言葉を濁した。
「二人、行方不明らしい」
レンは眉をひそめた。
また行方不明。
最近やたらと耳にする言葉だ。
「集落からの要請は、保護と輸送。病人の様子を見ながら、できるだけ早くザヴィルまで連れてくる必要があるらしい」
「それなら、普通の護衛依頼じゃないのか?」
「そうなんだが……」
ソフィアが苦笑する。
「向こうの人たち、冒険者にトラウマがあるみたいなのよ。過去に何かあったらしくてね」
「それで?」
「“冒険者っぽくない人”を希望しているんだって」
レンは思わず苦笑する。
「それで俺たちか」
「田舎から出て来たばかりの若者で、悪ぶってもないからな」
「場所的にも危険度は低いし、Fランク扱いで大丈夫ってことらしいわ」
「他のチームは?」
「もう一組いる」
テオが言う。
「高ランクのチームが別ルートで動くって聞いてる」
「どこだ?」
「それが……」
ソフィアが肩をすくめた。
「ミナが教えてくれなかったのよ。“気にしなくていい”って」
レンは少しだけ考え込む。
(ミナが隠す依頼……か)
ただ、内容だけ見れば単純な救助だ。魔物の危険も低い地域。
だが、最近続いている“行方不明”という言葉が、どうにも引っかかる。
「まあ、行けば分かるか」
レンは立ち上がった。
「準備する。出発はいつだ?」
「今日の昼には出たいってさ」
「急だな」
「ミナの依頼だからな」
三人は顔を見合わせ、小さく笑った。
どうやら今回も、簡単な仕事にはならなそうだった。




