劇薬を連れて
「セリーナ、連れてきたよー」
フィエルとガドルが「猫の門番」を連れてチームハウスに現れた。
「ありがとう。猫の門番の皆さんですね。急にごめんなさい」
「いえ、大丈夫です。どうされましたか?」
緊張した様子で答えるのはリーダーのラウルだ。
「先遣として調査してほしいの。依頼主は宰相。行き先はヴァルディア」
「ヴァルディア。連邦の街ですね。聞いたことはありますが、行ったことはありません」
「ええ」
「ヴァルディアってどこだっけ?」
首を傾げるフィエル。
「王都からでいうと、ザヴィルの向こうだな。山を越えた先にある大都市だ。いろいろな地域と面しているから“連邦”って感じはあまりしないけどな」
ガドルが補足する。
「私たちも入れるけど、それだと警戒させることになるから最後に、といういつものやつよ。Aランクなら大丈夫だわ」
「失礼ですが、Aランクでも警戒されるかと思いますが……」
「いえ、大丈夫。あの街には今、Sランク『魔術工房』が滞在しているわ。最悪、力で押し切れる、と思われるはず」
「なるほど。ただ、そのチームはお姫様のチームのはず。警戒が厳しいのでは?」
「ええ。だからこそ、あくまで“普通に”過ごしてほしいの。怪しいことが起きていないか、違和感はないか。それを探ってほしいわ」
「かしこまりました。金額と期間は……」
「後で依頼主を交えて詰めましょう」
セリーナは調査依頼を出す際、「何を調べてほしい」と具体的に指示を出さない癖がある。本人曰く、具体的なお題を与えると先入観が生まれるから、とのことだ。
「かしこまりました。では、またお呼びいただ――」
「そうだ、もう一つお願いがあるの。リリィとガドルを一緒に連れて行ってくれないかしら?」
「俺?」
「リリィ様とガドル様、ですか」
「ええ。お願いできる?」
「……金額は調整させてください」
チームハウスを出た猫の門番たち。
「とんでもないことになりましたね」
「ああ」
シェルのぼやきに、ラウルは短く頷く。
「よりによって“ネクロマンサー”リリィですか。入国で揉めそうだ。いや、入国前に揉めるかもしれません」
エルナも天を仰ぐ。
「悪い人ではない、んですけどね……」
「まあ、無邪気というか天真爛漫というか。ある程度は面倒を見てくれそうなガドル様がいるのが救いだよ」
ラウルは自分でも信じていない慰めを口にした。
「しかし、お二人を連れて行くということは、トラブルもやむなし、ということなんでしょうか」
「でしょうね。セリーナ様は何かを起こして反応を見たいのでしょう。Sランクのお姫様がいる街で試すには、少々劇薬な気もしますが」
「そもそも、我々は生きてヴァルディアに辿り着けるんですかね」
シェルの言葉は冗談に聞こえない。
“ネクロマンサー”が二つ名として定着しているリリィ。気まぐれで自由奔放、その魔法は強力すぎて制御不能とまで言われる存在だ。「機嫌を損ねるとアンデッドにされる」という噂は有名であり、真偽は不明だが、ラウルは過去の体験から“ほぼ事実”だと確信している。
「そもそも、どんな理由で入国するんですかね」
「まあ冒険者だからな。いくら悪名高くても、入国拒否は基本的にはできないだろう」
冒険者は“冒険者”という一つの組織に属し、国には属していないという建て付けだ。そのため敵対関係にある国であっても、入国拒否は原則認められていない。ただし、入国後に何が起きるかは別問題だ。“たまたま”トラブルに巻き込まれて生きて帰れなくても、自己責任。Aランクともなればあらゆる出来事に慣れているとはいえ、面倒な依頼だとラウルは感じていた。
――一方その頃。
「ヴァルディア、行ったことないんだよねー。楽しみ!」
「普通に過ごしてくれればいいわ。追い出されないようにだけしてちょうだい」
「大丈夫だよ、任せて!」
「俺は行きたくないな……」
「えー、いいじゃん。初めての街だよ? どんな料理があるか、どんな人がいるか、どんな実験ができるか。今から楽しみ」
「お前の実験が面倒なんだよ……」
「大丈夫、レンとの約束通り“正当防衛”だけだから」
「正当防衛でヴァルディアのやつを殺して、どれくらいの力を持ってるか知りたいってことだろ? 俺は付き合わないからな」
「えー、付き合ってよ。ヴァルディアはいろんなのがいると思うんだよね。試しがいがあるよ? 山が近いから脚力があるのかな。それとも寒さに強いのかな?」
ガドルは深いため息をついた。




