準備
「そういえば、この街で怪しい動きがあるのはご存じですか?」
そろそろ解散、というタイミングでカリスが切り出した。
「マフィアとか名乗る連中には会ったことがあるが……」
「それはいつも通りですね。もう少し大きな話です」
「いや、わからないな……」
「もしお話ししたら、ご協力いただくことはできますか?」
真剣な表情のカリス。
「Sランクは高いぞ」
「今は安いですよね」
「そういう意味ではないな……」
レンは肩をすくめる。
「真面目な話、今のところ変な影響は感じていない。周りに何か悪いことが起きそうな時、言ってくれれば条件次第で考える。ただ、俺を巻き込まないようアイルーンに釘を刺されているんじゃなかったか?」
「ありがとうございます。巻き込むわけではないので大丈夫です。また、その時はお願いしますね」
「では、本日はありがとうございました。最後に――『神隠し』にはご注意ください。レン様は心配ないと思いますが、周りの方です」
「ああ、わかった。ありがとう」
ややこしそうだ。聞かなかったことにしよう。レンは、意識的にその話題を切り捨てた。
背後で苦笑していそうなカリスを残し、帰路につく。そもそも餅は餅屋だ。陰謀や悪意は依頼があれば対処するが、そうでなければ手出しできない。そういう技術は持っていない。
(力技で解決できるならまだしも、なあ)
次の日の朝。テオとソフィアが泊まっている宿へ向かう。受付で教えてもらったテオの部屋をノックすると、出てきたのは顔色の悪いテオだった。
「ああ、朝か……すまん、気持ち悪い」
「飲みすぎたか?」
「そうだな……今日は寝る。ソフィアは向こうの部屋だ」
そう言って指をさし、テオは部屋に引っ込んだ。
ソフィアの部屋をノックすると、元気な顔で出てくる。
「おはよー。テオはどうせ二日酔いでしょ?」
「ああ、寝るってさ」
「あいつ、酒好きだけど弱いからね。調子に乗るといつもああ。ちょっとギルドでも行って話でもしよっか」
「そうだな。次の依頼でも探すか」
「もう次の依頼? 元気すぎだよ」
朝のギルドはすでに賑わっていた。依頼を受ける者、訓練する者、酒を飲んで騒ぐ者。言い争いを始める者もいる。
「元気だねえ」
「ソフィアもテオも落ち着いているもんな」
「そう? まあ、のんびりした田舎生まれだからかもね。レンもそうでしょ?」
「そうだな。ザヴィル生まれなら、もっと賑やかになるかもな」
「そういえば、剣を買わないといけないんじゃない?」
「ああ、そうだった。後で武器屋に行かないと」
「普通の剣でいいの? 戦術も考えないとね。剣にこだわりはあるの?」
「いや……ないな。慣れているだけだ」
「じゃあ、それも含めて武器屋で話しましょうか。ミナさんに教えてもらったいいお店があるから、軽く何か食べたら行きましょう」
――王都。
「フィエル、ちょっとお願いがあるんだけど、いい?」
「うん、どうしたの?」
「あなたのところのチームを貸してほしいの」
フィエルは首を傾げる。
「いいけど……どんなチーム?」
「個々が強いチーム。一つでいいわ。Aランクでお願い」
「わかった。今、王都にいるのを探しておくね。依頼?」
「ええ、そうよ。よろしくね」
「ガドル、いくよー。ついてきてー」
「一人で行けよ」
「いいじゃん、暇でしょ」
フィエルとガドルはギルドへ向かう。セリーナは情報やスパイなどの領域を担当し、フィエルはエルフの繋がりを軸にした冒険者領域を担当している。ガドルは付き添いだ。リリィは、怖がられるので留守番である。
「フィエル様、ガドル様、ようこそいらっしゃいました。ご用件でしょうか?」
受付が慌てて駆け寄る。
「いや、探しているだけだから……あ、いた。大丈夫」
フィエルは目的のチームを見つけ、受付を軽くいなした。
そこにいたのは『猫の門番』。エルフと獣人で構成された五名のチームだ。
「ねえ、あなたたち今、暇?」
「は、はい! 今は依頼を受けていません」
「そう。じゃあちょっと付いてきてくれる?」
「今ですか……? 食事が終わったらでよければ――」
スパッ。
机が真っ二つになり、並んでいた食事が床に落ちる。
「よし、終わったから行きましょう?」
青ざめた五人は無言でうなずき、慌てて出発の準備を始めた。
「いつもごめん、これで許して」
ガドルが受付に金貨を渡す。
「は、はい、大丈夫です……」
これが格好いいと評価されるのが冒険者界隈だ。不思議な世界である。
(これよりアンデッドの方が怖い、ってのも変な話だよなあ)
ガドルはそう思いながら、フィエルと『猫の門番』の後に続いた。




