情報交換
カリスは、落ち着いた雰囲気の女性だった。金色のロングヘアは柔らかく波打ち、切れ長の目は涼しげで、笑っていてもどこか距離を感じさせる。派手ではないが、目に留まるタイプだ。
(……やっぱり、普通の店員って感じじゃないよな)
「何か……聞いている?」
レンが恐る恐る尋ねると、カリスは一瞬だけ目を細め、それから穏やかな笑みを浮かべた。
「そうですね。こちらのお店にいらっしゃるとは思いませんでしたが」
含みのある言い方だったが、それ以上踏み込んではこない。
視線を向けると、テオとルミナはすっかり意気投合している。酒も進み、二人で笑いながら身振り手振りを交えて話していた。
「この後、二人で食事でもどうでしょう?」
カリスがふと、そう切り出す。
「近くに、良い店があるんですよ」
「あ、ああ……」
反射的に返事をしながら、レンの頭には二つの名前が浮かぶ。アイルーンか、アンか。前者なら問題ないが、後者だった場合は少し面倒だ。
「まあ、それはさておき」
カリスは話題を切り替えた。
「どうですか、ザヴィルは?」
「賑やかでいい街だな。気に入ってるよ。カリスは長いのか?」
「ええ、結構経ちます。賑やかですけど、住みやすい街なんですよ。食事も美味しい店が多いですし」
海の話になると、彼女は少し饒舌になった。
「海沿いなので、魚が特に美味しいんですよね」
「それは分かる。釣りとかもしてみたいな」
「釣り場なら、おすすめがありますよ」
気づけば二人で街の話題に花が咲いていた。生まれがザヴィルなのか、それとも長く住んでいるのかは分からないが、細かい路地や店の話までよく知っている。
「二人、なに話してるのー?」
ルミナが身を乗り出してくる。
「この街のおすすめの話だよー。レンさん、最近来たばかりらしくてね」
「そうなんだ! テオさんもレンさんも来たばっかりなんだね。いい街だからおすすめだよー」
「最高だー。レン、まだまだ色々なところに行くぞー」
「まだ行きたいところがあるのか?」
「そりゃいっぱいあるぞー。例えばな……」
賑やかな夜は、あっという間に過ぎていった。
「「ありがとうございましたー」」
完全に酔ったテオを連れて店を出る。
「いやー、楽しかった。また行きたいなあ!」
「そのためにも、ちゃんと依頼受けないとな」
「そう考えると大変だなー。まあ、なんとかなるだろー」
ふらつきながら歩き、宿の前で立ち止まる。
「よし、じゃあ宿はここだ。明日、こっちに来てくれるか? これからの話をしよう」
「分かった」
じゃあな、と手を振りながら、テオは宿の中へ消えていった。
レンはそれを見送り、踵を返す。次に向かうのは、カリスに伝えられた店だ。こじんまりとしたバーだった。
カウンターを見ると、すでにカリスが腰掛けている。レンはその隣に座った。
「わざわざありがとうございます。こちらの方が、落ち着いて話せるかと思って」
「俺たちが出た後、すぐ店を出て大丈夫なのか?」
「はい。そのあたりは、我々の優先事項が店ではありませんので」
「……我々?」
「三足の鴉と繋がっている者、という意味です」
カリスは静かに説明を続ける。
「働いている女の子の九割は一般の方です。ただ、その多くが“手配師”を兼ねており、仕事や人を紹介してマージンを得るのも重要な役割になっています。接客をしながら情報を集め、必要に応じて繋ぐ……そういう仕事ですね」
「それに対して、私たちの仕事は……まあ、そういうことです」
「アイルーンと繋がっている? アン?」
「そこは人によりますね」
カリスは肩をすくめる。
「アイルーン様担当は、私とマニーという女性です。アン様担当もいます。今日は来ていませんでしたが。ちなみに、詳細は特段聞いておらず、『来たらよろしく伝えるように』と指示されているだけです」
「へえ」
「本当ですよ。アイルーン様も、色々釘を刺されているようでして。私には『何もするな』と言われています」
少し間を置いてから、彼女は付け加えた。
「とはいえ、何かあれば相談していただければ対応します。情報のご提供も可能です。王都の情報もお届けできますよ」
どうやっているのかは分からないが、各地の情報がほぼリアルタイムで行き交うのが「三足の鴉」の強みだ。確かに、他のメンバーがどうしているのかは気になるところではある。
ここでレンは、ふと思いつき、ミナのことを聞いてみた。
「ギルドの受付のミナについて、何か分かるか?」
「有名ですね」
カリスは即答した。
「腕のいい受付です。死亡率は高いですが、成長速度も異常だと。極端な成果を出す担当として注目されています」
少し考え込むようにしてから続ける。
「ただ、裏の繋がりや悪い噂は聞きません。特殊な魔法を持っている可能性はある、と言われていますけど……保有魔法を明言したがらない人も多いですから、何とも言えません。知識や経験、あるいは勘だけ、という可能性もあります」
変な魔法を持っていることを公にするのは、デメリットばかりだ。同じチームの冒険者でもない限り、保有魔法を詮索しないのが暗黙のマナーになっている。仮に「透明化の魔法」などが知られれば、警戒されるのは間違いない。もっとも、そんな魔法は存在しないらしいが。
「気になることがあれば、調べましょうか?」
「いや、今は大丈夫だ。今は普通に、この街を楽しみたい。おすすめの過ごし方の方が知りたい」
「分かりました。では、お店で話した通りですが……」
しばらく話した後、カリスは穏やかに微笑んだ。
「時々、お店に来ていただければ、情報交換にちょうどいいと思います。その際は、王都の情報も共有しますよ」
「ありがたい。が……支払いは?」
「情報の価値で判断してください。チップも歓迎です」
その笑顔を見ながら、レンは内心でため息をついた。
(情報屋は、どこでも同じだな)




