消音
群体としての数も、戦略性も、すでに十分すぎるほど分かった。ここから先、全てを倒し切るのは現実的ではない。
ソフィアの炎魔法も、当て所を誤れば即座に崩落や巻き込みにつながる。子供を殺しすぎれば親個体がさらに強化される可能性があるし、逆に親を先に殺せば、統率を失った子供たちが暴走する危険もある。
詰みかけている――そう感じるほど、選択肢は限られていた。
「……とにかく、鳴き声をなくしたい」
ソフィアが吐き捨てるように言う。苛立ちを隠しきれず、足元に転がっていた死骸を蹴り飛ばした。
きゅう。
小さく、かすれた音がした。
「……生きてる?」
まだ完全には死んでいなかったらしい。転がった個体が、わずかに身をよじっている。テオがそれを拾い上げた。
「喉が……震えてるな」
そう言いながら、指で喉元を軽く引っ張る。皮膚が妙に伸びる。
「……変だな」
レンは無言でナイフを抜き、喉元を浅く切り裂いた。個体は暴れ続けているが、先ほどまで確かにあった喉の震えが止まっている。
「……これ、鳴かなくなったんじゃない?」
ソフィアが半信半疑で言う。
「喉を切り裂けば、鳴けなくなる……ってこと?」
「全部やるのか?」
テオが眉をひそめる。
「それに、殺した方が早いだろ」
「親個体だけやればいいかもしれない」
レンは視線を親個体へ向けたまま言った。
「鳴き声は、連携を取るためのものだ。親と子の間でコミュニケーションをしている可能性が高い。親が鳴けなくなれば、子供たちが鳴く意味もなくなる」
「……でも、子供たちが暴れ出したらどうする?」
ソフィアが不安そうに尋ねる。
「その時は、親を殺して撤退する」
レンは即答した。
「廃坑を埋める方法はいくらでもある。やりようはある」
頭の片隅で、「虚無の王」を使う最悪のケースも計算に入れる。ここで全てを終わらせる手段はある。ただし、それは最後の一線だ。
まだ、そこまで追い込まれてはいない。
羽に剣が突き刺さったまま、親個体は苛立つように壁に張り付いている。苦しんでいるというより、異物を嫌がっているような動きだ。
「行くぞ」
テオとレンは視線を交わし、同時に動いた。
テオが前に出て、ソニックブレードを放つ。風圧で子供たちを吹き飛ばし、道をこじ開ける。
レンはその隙に一気に距離を詰め、ナイフを構えた。狙いは一点、喉。
刃が走る。
親個体は大きく身をよじらせるが、致命的なダメージは入っていない。苦痛というより、不快感に対する反応に近い。
――鳴けるか?
レンは、次の変化を待った。
バタバタ。
親個体は羽ばたいているだけのように見える。耳栓越しでも伝わるような大音量はない。小さな声が出ているのかどうかも分からない。そのまま天井付近へ飛び、旋回している。子供たちは……戸惑っているようだった。
「どうだ!?」
テオが叫ぶ。耳栓越しでも分かる大声に、レンは思わず耳を塞ぐ。
「「うるさい」」
レンとソフィアが同時に叫んだ。
「お前らもうるせえ! ……って、静かになったのか……?」
耳栓を外す。鳴き声は消え、聞こえるのは羽音だけだった。
「静かになったみたい。レンの予想、当たってたのね」
「すげえな」
「まだ分からない……一旦、落ち着いただけの可能性もある」
「そうね。ただ、ちょっと疲れたわ。そろそろ撤退してみない?」
「下がりながら様子を見るか! レンも、大丈夫だと思うか?」
「そうだな。入口近くまで戻って様子を見よう。最後にどうするかは、村の人に相談だな」




