親個体
一直線の道を進んでいく。テオが前を切り開き、ソフィアは待機、レンは周囲を警戒しながら進む。
バサバサ。
前方に黒い塊が見える。魔物が多数、待機しているようだ。テオはそれを視界に捉えると、そのまま走り出した。
(おい、松明から離れると見えなくなるだろ)
レンは慌ててソフィアの手を取り、後を追う。
バサバサバサ。
だが、テオに追いつく前に、上から大量の魔物が降ってきた。瞬く間に挟まれ、テオと分断されてしまう。
「ソフィア、軽めに魔法を! 追い払ってくれ!」
「わかった!」
ソフィアが炎魔法を周囲に放つ。威力は弱いがダメージはあるようで、魔物の密度がわずかに薄くなる。レンはソフィアを守りながら前へ進み、テオの姿を探す。
「痛い! こいつら、痛すぎるでしょ!」
ソフィアは噛まれたらしく、痛みに叫んでいる。レンも自分の腕を見ると、魔物に噛みつかれていた。即座に殴りつけると、魔物は地面に落ちる。
(痛みに関しては、腕輪の弱体化効果はないようだな)
腕輪の力は、あくまで出力を抑えることに特化しているらしい。そんなことを考えながら剣を振るっていると、ようやくテオの姿が見えた。
「すまない、助かった! ここは逃げるぞ! 二人とも目を閉じろ!」
そう言うと、テオは地面に球体を投げつけた。次の瞬間、視界を焼き尽くすような光が溢れる。閃光弾だ。
「ねえ! こいつら、なんで倒さない方がいいの!」
「群体型の魔物は、数が減ると個体あたりの力が強くなったり、親個体が強化されることが多い! 中途半端に数を減らすと、逆に厄介になる!」
「そうなのか! じゃあ、どうするんだ!」
「まずは親個体を探して倒す! 大きさや見た目ですぐ分かるはずだ! 親がいなくなれば、各個撃破しても問題ない!」
レンは、かつてアンデッドの群れと戦った時のことを思い出す。子供ほどのアンデッドを気軽に倒していたら、後から巨人が現れ、大惨事になった。全員が全力を出し、数時間にわたる戦闘の末、体力と魔力の限界まで大技を連発して、ようやく勝利したのだった。その後、群体型魔物の特性についてギルドの受付に説教されたのも、苦い記憶として残っている。
(「群体型は多くはないけど、それなりにいるから、ちゃんと覚えておいてください。恥ずかしいですよ」……だったか。覚えておいてよかったな。ここで大技を使うわけには、色々な意味でいかないし)
進むこと一時間。松明の光がよく通る、広い空間に出た。ここから先も道は続いているが、かなり狭い。親個体がいるとしたら、この場所だろう。
(いたな)
「レン、あいつか!」
「ああ、そうだと思うぞ!」
「オッケー、戦うのね! 逃げるって選択肢はないの?!」
現れたのは、十メートルはありそうな巨大なコウモリだった。明らかに親個体だ。壁に張り付き、その下には、これまで遭遇した個体たちが無数にいる。今も産み落としているのだろう。そして、こちらの存在に気づいているようで、警戒するように口をカチカチと鳴らしている。
「分からないことが多すぎる! 逃げるのもありだが、帰り道を破壊しながら追ってきたら、生き埋めになるぞ!」
「確かに……とりあえず戦って、まずそうなら逃げましょう! いいよね、テオ!?」
「ああ! ここなら俺の魔法も使える! 一当たりしよう! 小さいのも倒していいよな!?」
「もう、ここまで来たら気にしてる場合じゃない!」
テオはうなずくと剣を構え、風を生み出して親個体に叩きつける。ソニックブレードだ。オーソドックスだが威力の高い斬撃で、広いこの空間では効果的だろう。
ぎゃああ。
親個体にもダメージが入ったようだ。子供たちは切り裂かれ、地面に落ちていく。撃ち漏らした個体が襲いかかってくるが、そこはレンの担当だ。ヒットアンドアウェイを徹底し、とにかくソフィアに攻撃が届かないよう立ち回る。
ソフィアは様子見に徹している。親個体が飛び込んできた瞬間を狙っているのだろう。壁に影響が出ないよう、タイミングを計っているのが分かる。
バサバサバサバサ。
親個体が激しく羽ばたきながら突進してきた。想像以上に素早く、テオの放ったソニックブレードを回避する。やはり、炎魔法を警戒しているのだろう。子と親が連携する群体型らしい動きだ。
(まずい)
レンは即座にソフィアの前へ出る。剣を構え、突進してくる親個体を正面から受け止める。牙が届かないよう、剣で押さえ込む。牙の長さは予想以上だったが、体重は思ったより軽い。両手で剣を握れば、十分に耐えられる。
「レン、どいて!」
レンが身を引くと、ソフィアが炎魔法を放つ。直撃。
ぎゃああああ。
親個体が悲鳴を上げた。耳栓越しでも鼓膜を揺さぶる音だ。テオもソフィアも耳を押さえている。ただし、まだ致命傷には至っていないようだった。
キュウウウ。
続けて、親個体は先ほどと同じ音量で、明らかに異なる声を発した。
(鳴き方が変わった……?)




