廃坑
夕方、予定通り依頼を出していた村に到着する。村といっても、それなりの大きさがある。入り口で依頼書を見せると、門番は歓迎しながら宿まで案内してくれた。
「いやー、ありがたい。最近みんな困っててなあ。とにかく夜になるとうるさくて、耳栓なしじゃ寝られやしない」
「何が鳴いているかは分かりますか?」
「それが、わからないのよ。今までなかったことだし、あそこに行くのも大変でな。夜の森は、わしらには荷が重くて」
「なるほど……魔物が森に出るのですか?」
「そうそう。と言っても、そういう話がある、って感じだけどなあ。みんな、できる限り夜は出歩かないようにしているのよ。まあ、どこの村でもそうだろ?」
「そうですね。私の生まれたところもそうでした。夜は危ない、って言われますよね」
ソフィアはうまく門番と会話をしているが、テオは少し緊張しているようだ。テオのコミュニケーション能力が低いのか、それともソフィアが高いのか。レンは後ろで二人を見ながら、そんなことを考えていた。
「この村は、昔は銀の採掘をしていてな。とはいえ、それほどたくさん取れたわけでもないから、昔はもっと村が大きかった、ってわけでもないんだが。その時の名残として、廃坑だけが残っているんだな。それなりに大きいと思うが、どれくらい深いかは……たぶん、もう誰も知らないと思うな」
「分かりました。ありがとうございます」
「おう。じゃあ頑張ってな! 何か聞きたいこととか、必要なものがあったら言ってくれ」
宿に到着すると、門番はそう言って去っていった。部屋はちょうど三部屋空いていた。節約しようと意気込んでいたソフィアだったが、「あの音を解決しに来てくれたなら」と、宿の方が一部屋分の料金でいいとサービスしてくれたため、自然解決となった。全員がハッピーな結論である。
明るいうちに見に行こう、と三人は廃坑へ向かう。通る森は、当然だが薄暗い。
(魔物はいそうだが、それほど強力な個体はいなさそうだな。猪クラスが最大か)
「この森はどうだろう? 夜、暗くなってから通っても問題ないかな?」
「大丈夫だと思うぞ。レンはどう思う?」
「あまり強力な魔物がいそうな雰囲気はないな。人里も近いし、もしいるなら、もう問題になってるはずだ」
不安そうなソフィアと、直感で大丈夫そうだと判断するテオ。レンは二人をフォローするようにしながら進んでいく。
一時間ほど歩き、たどり着いた廃坑は、思ったよりも大きかった。はるか昔に廃坑になったという話の通り、長い年月を感じさせる外見をしている。
「思ったより大きいな……ただ、巨大な魔物が中にいる、ってほどでもなさそうだ。三人で一緒に行動するのは、少し厳しそうだな」
「二人が前で、私が後ろなら問題なく入れそうね。ただ、中はどうなっているのかしら。迷って出られなくなる、なんてことはないといいんだけど」
「銀の採掘場なら、そこまで複雑な構造じゃないだろう。奥に掘り進めて、採れた鉱石を運び出すだけだからな。奥深く行かない限り、一本道のはずだ」
「そうなんだ。レンは経験あるの?」
「廃坑じゃないが、銀の採掘場ならな」
「いいなあ。銀って綺麗だもんね。掘ったら、まだ出てこないかなあ」
「廃坑になったのは大昔だろ。こんな遺跡みたいになってる場所に、もう銀は残ってないはずだ。やめておけ」
「時間が経って、増えてるかもしれないじゃん」
銀探しをしようとするソフィアと、それを止めようとするテオ。
レンは、貴金属好きの巨大なワイバーンたちが襲ってくるから助けてくれ、という依頼で、Bランクの頃にこの手の場所を訪れたことがある。女性陣が銀製品好きだったため、ワイバーンを倒した後もしばらく滞在し、話を聞いたり買い物をしたりと、あちこち連れ回されたのだった。
(女性は貴金属好き、というのは共通なのかもしれないな)
「ねえ、フィエル。今度のオークションで、昔の貴族が使ってたコップが出るらしいよ! 銀でできてて、ルビーがいっぱい埋め込まれてるんだって。良くない?」
「すごそう。それ、どれくらいの値段になりそう?」
「わからないけど、目玉品らしいよ。目玉は大体、大金貨五枚くらいになるから、それくらいはいくんじゃないかなあ」
「いいね。頑張ってみよっか」
「またお前ら、いらないもの買うのかよ……もっと意味のあるものを買えよ」
「じゃあ、ガドルは何が欲しいの?」
「馬だな。速く走れるやつ。移動が楽になるぞ」
「えー、そんなのつまらない。走ればいいじゃん。ね、メリッサもそう思うでしょ?」
「そうねえ。馬はいらないけど、遠くまで一気に行ける魔道具は欲しいわね。少なくとも、コップよりは役に立つわ」
「まーた始まった。どうせレンなら、そのうち俺らが必要になる何かを起こすんだから、待っとけよ」
「そう。綺麗なものを眺めて、のんびりする。それで備えておくの」
「別に、宝石が必要だとは思わないが……」




