失敗の条件
「じゃあ、レン。改めてだけど、依頼のルールについて知っていることを教えてもらえるか? 初めての依頼だと聞いているから、念のためな」
(依頼対応、最近はセリーナに任せっぱなしだったな……。なんだっけ)
「えーっと……確か、指定された期限内に達成できない、もしくは途中で諦めると失敗になる。失敗になると、ペナルティとして報酬に応じた罰金と、内容次第で一定期間の依頼受託不可がある……だったかな?」
「失敗については、ほとんど正解ね」
ソフィアが頷きつつ、指を一本立てる。
「あと、もう一つ失敗のケースがあるわ。それは、依頼内容を達成していても、目的から逸脱した場合」
「例えば?」
「畑の野菜を食べる魔物を退治してほしい、という依頼。目的は“畑の野菜を収穫できるようにすること”よね。でも、畑ごと全部焼き払ってしまったら……依頼は失敗になるの」
「ソフィア、よくそんなこと知ってるな。俺も知らなかったぞ」
「依頼書を、ちゃんと読みなさい?」
淡々と言い返され、テオは肩をすくめる。
「書いてあるわよ」
三人で依頼書を覗き込む。
「……確かに、注意事項に書いてあるな。普段から、こんなのあったか?」
「あったと思うけど……今回は赤字になってるから気づいただけかしら。要は“気をつけろ”ってことね」
ソフィアは依頼書の該当箇所を指でなぞる。
「今回の目的は、“廃坑周辺の生活環境を改善する”。……正直、この文言が赤字になってる理由、あまりピンとこないわね」
(生活環境の改善に失敗……? どういうケースだ)
「もしかすると、魔物を外に逃がすのは避けろ、って意味なのかもな」
テオが考え込むように言う。
「廃坑の中は静かになっても、外で騒がれたら意味がない、とか」
「テオの言う通りかもしれないな」
レンも頷く。
「やはり、鳥や虫みたいな、逃げ足の速い魔物の可能性が高そうだ」
「確かに……きちんと戦略を練らないといけないわね。原因分析の段階で逃げられたら、大損よ」
「とはいえ、現地に行かないと廃坑の様子もわからないしな」
テオが顔を上げる。
「着いてから、詳しいことは考えよう!」
その一言で場の空気が少し緩んだ。その後は自然と雑談に移る。テオとソフィアは、内陸にある花の街「リリウム」の出身らしい。のどかで有名な広大な花畑と、薬草の産地として知られる街だという。
「父が街の自警団で働いていたんだけどな……魔物に襲われて死んでしまってさ」
テオは少し視線を落としながら続ける。
「その時は、数日後に来てくれた冒険者が魔物を倒してくれたんだ。感謝もあったし……俺も、こういう冒険者になって命を救える人間になりたいと思った。それで冒険者になったってわけさ」
「私の父も自警団でね」
ソフィアが静かに言う。
「それで、よく一緒に遊んでたの。テオは向こう見ずなところがあるから心配だったし……私も、テオのお父さんのこと、何もできなかったのが悔しかったしね。それで一緒についてきた、ってわけ」
「それで、ザヴィルに来たのか?」
「比較的近くて大きな街だし、そこまで強い魔物が出ないって聞いてたからな。ここである程度強くなれたら、もっと辺境に行くことも考えてる」
「あと、仲間探しもしたかったの」
ソフィアが続ける。
「さすがに二人だけじゃ限界があるし。ザヴィルは人の行き来も多いからね。……レンは?」
「俺は……」
一瞬、間が空く。
「トト村っていうところの出身でな。両親を亡くして、村での生活に限界を感じた。それで食い扶持を求めて、冒険者を目指して出てきたってわけだ。まあ、よくある話だろ?」
「理由に、良いも悪いもないさ」
テオがすぐに言う。
「気にすることはない」
「私たちだって、よくある話でしょ?」
ソフィアも微笑む。
(……そういえば、俺も同じだったな)
レンは、かつて自分が冒険者を目指したきっかけを思い出し、懐かしい気分になる。冒険者という職業は、何歳になっても名乗ることはできる。だが、実際に活動を続ける者は、年を重ねるごとに減っていく。年に数回、顔を出すだけの者も珍しくない。
(もし、まだ現役なら……どこかで会えるかもしれないな)
そんなことを考えながら、二人の話を聞いていた。
「そういえば」
ふと、レンは気になったことを口にする。
「二人は……一緒に寝てるのか?」
「そんなわけないだろ」
即答だった。
「当然、別の部屋よ」
ソフィアも間髪入れずに言う。
「そうか……じゃあ、三部屋必要か」
「あー……宿次第では、検討しましょう」
ソフィアが少し考える。
「一部屋しか空いてないなら仕方ないわ。それに――」
ちらりとテオを見る。
「男同士で一緒に泊まりなさい。節約よ」




