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ギリギリの依頼

(体が重い……腕輪の影響か)

立ち去ってしばらくすると、レンは全身にじわじわと重さがのしかかってくるのを感じた。魔力の流れがせき止められ、体の芯から力を抜き取られていくような感覚。どうやら腕輪に魔力を吸い取られている影響らしい。

体が重いと感じるのは、何年ぶりだろうか。

確かに、上級冒険者にこの腕輪を付けておけば、一時的に脱走されたとしても長くはもたないだろう。動きが鈍れば、捕縛は容易だ。

理屈ではわかる。だが、実際に体験すると話は別だった。

違和感と不調感が、はっきりと身体に残っている。

頭も少し重い。思考が鈍るというほどではないが、普段の感覚と比べると確実にズレている。

(……これは、長時間付けたまま動くもんじゃないな)

もう頭の中は、宿に帰って寝ることしかなかった。

レンは寄り道もせず宿に戻り、風呂にも入らず、そのままベッドに倒れ込むように眠ってしまった。


次の日の朝。ギルド。

「おはようございます! 良い依頼を見つけましたよ!」

テオ、ソフィアと合流してミナの元へ行くと、相変わらずの満面の笑みでミナが迎えてきた。その笑顔を見た瞬間、レンの脳裏に小さな警戒心が浮かぶ。

(“良い依頼”って言い方が、もう怪しいんだよな……)

「良い依頼だといいんだけどな……」

テオが苦笑しながら応じる。

「もちろんです! とある村からの依頼です。近くの廃鉱で、夜になると日に日に大きな音がするそうで。その原因を突き止めて、可能であれば解決してほしい、とのことです」

ミナは淡々と説明を続ける。

「昨日出たばかりの依頼ですが、原因追及だけであればFランク。原因次第ではランク要相談、という扱いになっています。今の皆さんには、ちょうどいいと思いますよ」

「原因追及中に、強敵と遭遇したらまずくないか……?」

テオが慎重に問いかける。

「その時は逃げてください!」

即答だった。

「自分たちでは勝てない敵と出会った時、どう振る舞うかも大事ですからね。無理に戦う必要はありません。もちろん、倒せそうなら倒してもらって構いませんが」

一拍置いて、ミナは付け加える。

「私の経験上ですけど……おそらく、倒せる相手だとは思います」

その言い方が、逆に引っかかった。

「魔物なんだ。弱いのかい?」

「内緒です!」

即座に返される。

「それも含めて経験です。自分たちで探ってきてください。報酬は、原因追及で銅貨30枚。解決までいけば銀貨1枚です」

「いいじゃないか。それなら受けよう」

テオが頷く。

「まあ、どうせ大変な依頼なんだろうけど……ミナさんなら、ちゃんと“ギリギリ”を見極めてくれているだろうしね。レンも大丈夫か?」

(鳥の魔物か、音を出す虫か……記憶にはないが、まあ問題はないだろう。

……いや、“ギリギリ”って言葉が一番引っかかるんだが。最悪、全力を出せば何とかなる――その考え方自体が、もう地雷な気もする)

「ああ、とりあえずやってみたいな」

「ありがとうございます! では、こちらにサインをお願いしますー」

ミナは書類を差し出しながら、さらりと続ける。

「当然ですが、原因分析で嘘や不正確な情報が多い場合は失敗扱いになりますので、きちんと分析してきてくださいね。

あと、暗い場所なので松明は必ず用意してください。ソフィアさんが炎魔法を使えると思いますが、火種も念のため揃えておくと安心です」

(失敗扱い、ね……)

その言葉が、妙に重く残った。


ミナから地図を受け取る。ザヴィルから歩いて半日ほどの距離だ。

「じゃあ、松明だけ買って、もう行くか。途中で食事をすれば、ちょうどいい時間になりそうだ」

「日没後すぐ着いて、調査して、終わったら近くの村で泊まる。そんな流れがいいわね。隣の村には宿もあるみたいだし」

「よし、わかった。松明はちょっと外より高いけど、そこまで差はない。安物で火がつかない、なんてことになったら洒落にならないからな」

「そうだな、そうしよう」

三人はギルド内の店舗で松明と火種を購入し、そのまま歩き出した。

「なあ、ミナの依頼って“ギリギリ”が多いって聞いたんだけど、本当なのか?」

レンが歩きながら尋ねる。

「そうだよ」

テオが即答した。

「おかげで、依頼の後はしばらく宿で休憩になる」

「理論上は達成可能で、失敗しても即死ではない依頼を見極めるのが上手いのよね」ソフィアが補足する。

「チームで力を合わせて、きちんと取り組めば達成できる。でも、どこか一つ判断を間違えると、一気に崩れる……そういう依頼を、的確に選んでる」

「誰かが独断専行したり、誰か一人に負荷が集中したりすると、一気に失敗だ。場合によっては大怪我にもつながる」

テオが肩をすくめる。

「俺たちはまだないが、そういう話は何チームかから聞いたことがある」

「その見極めができるのは、すごいな。何かの魔法なのか?」

「いや、感覚と理論の組み合わせらしい。昔は感覚だけだったが、勉強して理論も身につけてきたんだとさ」

「……すごい人だな」

「プライベートでもそうらしいぞ。噂によると、彼氏にもギリギリのお願いをするんだとか」

「怖い」

「なにそれ……」

レンは乾いた笑いを漏らした。

(なるほどな……。“倒せるかどうか”じゃなくて、“どう動くか”を見られてる、ってわけか)


その頃、王都。

「ねえ、アン? ザヴィルはどう?」

「ようやく二名、配置できた状態です。先日、レン様をギルドで目撃したという報告も入りました」

「へえ。もう報告体制ができているのね。さすがだわ」「ザヴィルは、私としてもメリットが大きいですから。ただ、やはりアイルーンがしっかり押さえていますので、活動は徐々に広げる形になりますが……」

アンは一拍置いて続けた。

「特に厄介なのは、現地の二次組織やフリーの情報屋です。緩やかに連携しているケースも多く、単純には崩せません」

「まあ、それは仕方ないわね。今のところ、トラブルは?」

「地場の情報屋が一人接触したようですが、ただのセールスで終わっています。それ以外は特に問題ありません」

「わかった。また何かあれば知らせて」

セリーナは小さく頷く。

「じゃあ、本題よ。連邦について調べてほしいことがあるの」

「連邦、ですか。セリーナ様が連邦に興味を持たれるとは、珍しいですね」

「ちょっと、ね」

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