幼なじみペア
「こちらがレンさん。そして、こちらが『暁の足跡』のお二人です」
ミナが引き合わせてくれた二人は、レンと同年代に見える若い男女だった。 「いい人そうだ」というのが第一印象だ。シオンが彼らをおすすめした理由は、単なる善人だからではなく、その実直ゆえの「賢さ」と、無茶をしない「立ち回りの良さ」にあるのだろう。
「初めまして。俺はリーダーで剣士のテオ。こっちは治癒術師のソフィだ」 「レンだ。よろしく」
「レンさんは、自己加速魔法を使う前衛です。先ほど訓練場でニコさんを軽くいなしていましたし、私の予感通り、腕は確かですよ!」
ミナの推薦に、テオが目を輝かせる。
「おお、あのニコに勝てるなら期待できそうだ。前衛が二人になれば戦術の幅も広がるし、何よりソフィを守りやすくなる」
「そうね。……これまでの人たちと違って、怖くなさそうで安心したわ」 ソフィもホッとしたように頷いた。
「これまでの人?」 レンが首を傾げると、テオが苦笑しながら答えた。
「ああ、何人か紹介してもらったんだが、どうも『難あり』ばかりでな。実力はあっても、新人を使い潰そうとするような……まあ、冒険者らしいと言えばらしい奴らばかりで、全部断っていたんだ」
「皆さん、悪い方ではなかったんですけどね。ただ、少し……攻撃的すぎると言いますか」 ミナも言葉を濁す。要は、この二人の「真っ当さ」に合う人材がいなかったのだろう。
「レンさんは、何か質問はありますか?」
「そうだな。普段はどういう戦術で動いているのか教えてほしい」
「戦術か。それほど複雑なことはしてない。俺が前で引きつけて、ソフィが後方から支援と回復。余裕があればソフィも炎魔法で援護射撃をする、っていうオーソドックスな形だ」
「私の魔法は、それほど威力があるわけじゃないから、あくまでサポートだけどね」
(なるほど。基本に忠実だ。悪くない) これ以上の細かな連携は、実際に動いてみなければわからないだろう。
「もし良ければ、明日一緒に依頼を受けてみないか? テストとして、簡単な魔物退治の依頼をミナさんに探してもらおうと思うんだが」
「俺は構わない。よろしく頼む」
「決まりね! じゃあ、朝八時にギルド前で。ちなみにレン、宿はどこなんだ?」
「『波止場の三毛猫亭』だよ」
「わあ、あそこ! お風呂が有名な高級宿じゃない! 羨ましいわあ」
ソフィが声を弾ませる。テオも感心したように頷いた。
「いい所に泊まってるんだな。俺たちはそこの『たそがれの錨亭』だ。安くて清潔だが風呂がなくてな……。もし明日、俺たちが寝坊して現れなかったら、そこまで叩き起こしに来てくれ。銭湯帰りの一杯が楽しみで、たまにやらかすんだ」
テオとソフィ、そしてミナと別れてギルドを出る。 いい仲間に出会えたようだ。ザヴィルに来てから、まだ本当の意味で「悪い人間」に会っていない。それは単なる幸運か、それともこの街の治安がそれほどまでに保たれているのか。 王都の貴族たちの陰湿な足の引っ張り合いや、カノンの無邪気な破壊衝動に比べれば、この街の空気は驚くほど穏やかだ。
……そう、思っていた矢先だった。
「どんっ」と、肩に強い衝撃が走る。 「痛ってぇ……。おい、兄ちゃん。何やってんだ?」
振り返ると、そこには不機嫌そうな顔をした大柄の男が立っていた。
「すまない。考え事をしていた」
「謝って済むかよ。……おい、こっち来い」
そのまま通り過ぎようとしたレンの肩を、男が太い指で掴む。周囲の通行人がサッと目を逸らし、足早に去っていくのを見て、レンは悟った。これは「よくあること」なのだ。 大人しく男に連れられ、人通りのない路地裏へと入る。誰もいない場所の方が「話し合い」がスムーズなのは、レンにとっても同意見だった。
「さて。ぶつかられて気分が悪りぃし、腰を痛めたかもしれねえ。治療代を払ってもらおうか。銀貨五枚で手を打ってやるよ」 男の後ろから、さらに五人の男たちが現れた。袋小路を塞ぐようにニヤニヤと笑っている。
「ぶつかっただけで怪我をするほど、あんたの体はやわなのか?」
「あぁ? 舐めてんのか。俺たちは『バザルト』だぞ。知らねえのか?」
「あいにく、来たばかりでね」
「マフィアだよ、マフィア。この街で長生きしたいなら、俺らと揉めないことだ。特に兄貴は、過去にCランク冒険者を一人で仕留めたこともあるんだぜ?」
取り巻きの言葉を聞き流しながら、レンは腕輪の感触を確かめる。 (Cランクを倒した、か。……まあ、その話が本当なら、丁度いいテストになるか)
「んじゃ、とりあえず銀貨を……あ?」
リーダーの男が、言葉を最後まで紡ぐことはなかった。 一瞬。 レンが踏み込んだ自覚すら与えぬ速度で、男の喉笛が潰れる。
「兄貴!? お前、やりやがっ――」
続く五人の意識が途切れるのも、ほぼ同時だった。 レンは抜刀すらしていない。手近に落ちていた薪の破片を拾い上げ、急所を正確に叩いただけだ。 崩れ落ちる六人の体を見下ろし、レンは冷静に分析する。
(魔力を封じられていても、「この程度」か。腕輪の制約下でも、護身には困らなさそうだな)
マフィアを名乗る連中だ、死体を放置しても騎士団が動くまでには時間がかかるだろう。目撃者の気配もない。レンは服の埃を軽く払い、何事もなかったかのように路地裏を後にした。
「……うーん、思った通りだ。あんなの見せられたら、気にならないはずがないじゃない」
レンに「金持ちの新人」という情報を流し、その結末を見届けていたシオンは、建物の屋上で独りごちた。 使用時間が限られる高価な隠密魔法を使ってまで彼を観察していたのは、単なる「勘」だったが、それは見事に的中した。
「組織が彼に無関心だったのは、関わりがあるからじゃなくて、関われないほど『上』の存在だから……? いや、それとも……」
これほど面白い「観察対象」が手に入ったのだ。今日は、ここ数年で一番の当たり日かもしれない。




