チーム探し
ザヴィルに到着してから、早いもので一週間が過ぎた。
「レンさん、そろそろ……依頼、受けませんか?」 ギルドの窓口で、ミナから遠慮がちに、けれど逃がさないという意志を込めて切り出された。
「ああ、確かに。すっかり忘れてたよ。普通はどれくらいのペースで受けるものなんだ?」
「人によりますけど、新人の頃は毎日受ける方も多いですよ。普通は路銀が尽きる前に、最初の依頼へ飛びつくものですし……」
ここ数年、短くても月に一度、重い腰を上げて高難度依頼をこなすだけだった生活に慣れきっていた。普通の冒険者は、日銭を稼がなければ食い扶持がなくなるのだという当たり前の事実を、失念していた。 この一週間、特に何もせず風呂に入り、食事を楽しみ、街を散歩する。時折ギルドでミナと雑談し、酒場で他の冒険者の話に耳を傾ける……そんな贅沢な時間を過ごしてきたが、そろそろ「設定」を思い出さなければならない。
(とはいえ、薬草採取みたいな簡単な依頼を一人で受けても、あまり面白くないしな……) どうしたものかと考えていると、ミナが名案とばかりに身を乗り出してきた。
「お一人で動くのが不安なら、チームを探してみるのはどうでしょう? 私の担当で、EかFランクの若手チームを紹介できますよ。お見合いみたいなものなので、合わなければ即脱退も可能ですし」
チーム、か。かつての仲間との絆とは違う、もっと気楽な「寄り合い」のようなものなら、潜入生活のスパイスとして面白いかもしれない。
「それはいいな。ぜひ紹介してほしい」
「わかりました! レンさんは剣をお持ちですから前衛ですよね。魔法は何を使えますか? あ、言いたくなければ内緒で構いませんよ」
魔法。アイルーンと打ち合わせておいた「新人用」の設定を引っ張り出す。
「そうだな……自己加速魔法だ。少しの間、動きが速くなるだけの地味なやつだよ」
「なるほど、身体強化系ですね。であれば、『暁の足跡』『三枚の銅貨』『はぐれ雲』の三つがちょうどいいかと思います。どれもEランク昇格を控えたFランクの有望株で、前衛の増強を求めているチームです。簡単に説明しますね」
ミナの解説は的確だった。
•『暁の足跡』:剣士と治癒術師の二人組。連携は良いが、純粋に手数が足りない。
•『三枚の銅貨』:槍使い、弓使い、斥候の三人組。成長速度が速く、Cランク到達も見えている。
•『はぐれ雲』:大槌使いの女性と魔導師の少年。自由奔放で、レンの空気感に合いそう。
(『暁の足跡』……情報屋のシオンも名前を挙げていたな) 「『暁の足跡』が良そうだ。一度、話をしてみたいんだけど」
「了解です! 彼らは今朝依頼に出たので、夕方には戻るはずです。それまで、トレーニングルームで体でも動かして待っていてください。……あ、お酒を飲んで待つのは禁止ですよ? 毎日そこで飲み明かしているのは、ちゃんとお見通しですからね」
釘を刺された。ミナの笑顔には、時折拒絶を許さない迫力がある。レンは逃げるように訓練場へと向かった。
訓練場では、多くの冒険者が汗を流していた。個人で木人を打つ者、複数人で模擬戦に興じる者。 (皆、頑張っているな……。感心、感心) 保護者のような視線でぼんやり眺めていると、一人の若い男が近づいてきた。
「お前、新人か?」
「ああ、この前登録したばかりだ」
「やっぱりな、見ない顔だと思ったぜ! 俺はニコ。お前は?」
「レンだ」
「レンか! 暇ならちょっと模擬戦しないか? ミナさんに『毎日知らない冒険者と立ち会って引き出しを増やせ』って言われてるんだ。俺もまだ三ヶ月の新人だし、ちょうどいいだろ?」
「俺も担当はミナさんだよ。……でも、なんでそんな訓練を?」
「……実は、依頼で魔物と戦うのが苦手でさ。型にハマれば楽勝なんだが、初見の相手だとパニくっちまうんだ。それを相談したら、実戦経験を積めって言われてな」
(見たところ筋は悪くなさそうだが……。まあ、暇つぶしにはいいか)
「いいぞ、一回やってみるか」 「助かる! 魔法なしの剣だけで頼むぜ」
二人は模擬刀を手に取り、空いているスペースへ向かった。
「じゃあ、致命傷を与えた方が勝ち。合図は……このコインが落ちた瞬間だ!」
ニコが銀貨を高く放り投げる。
チャリン、とコインが床で跳ねた瞬間、ニコが猛然と突っ込んできた。
「くらえッ!」 勢いを乗せたまま、両手足の急所を狙った連続攻撃。
(単調だな……。だが、勢いで押し切るという発想自体は悪くない)
レンは最低限の動きでそれを捌きながら、どう「負けてやるか」……いや、どう「指導してやるか」を考える。瞬時に首を跳ねることもできるが、それでは訓練にならない。
回転斬り、鋭いフェイント。ニコは体力に任せて多彩な技を繰り出していく。当然、レンにとっては止まっているも同然の攻撃だが、適度にかわし、適度にいなして時間を稼ぐ。 「ここだッ!」 レンが敢えて作った小さな隙に、ニコが色めき立って飛び込んできた。
レンは最小限の動作でニコの死角へ回り込み、その手首を軽く弾いて獲物を落とさせると、切っ先をそっと彼の首筋に添えた。
「……そこまで、かな」
「くぅ……負けたぁ……!」
ニコはがっくりと肩を落とし、二戦目も同じような展開で敗北した。流石に息を切らして座り込む。
「強いな、お前……」
「そうか? ありがとう」
「俺の戦い方、どうだった? 気づいたことがあれば、遠慮なく言ってくれ」
「そうだな……勢い任せで、一撃一撃が雑になっている気がしたな。もう少し余裕を持ってみたらどうだ?」
「それができれば苦労しねえよ。考えると体が動かなくなるんだ。だから、何も考えなくていいようにがむしゃらに動いてるんだけどさ……」
「なら、武器を変えてみるのも手だぞ」
レンは、かつて王都で共に戦ったAランクの副将を思い出した。
「剣は誰でも対処を知っている。けれど、例えば蟷螂のような風変わりな長物なら、初見の相手は対処に困るはずだ。『一期一会の実戦では、マイナーな武器こそが有利だ』――そう言っていた知人がいてね」
「変わった武器、か……。なるほど、それはいいかもな! ありがとう、考えてみるよ!」 ニコはパッと表情を明るくした。
「レンさーん! あ、ニコさんも一緒でしたか。お二人で模擬戦なんて、精が出ますね!」 そこへ、ミナが呼びにやってきた。 「『暁の足跡』が帰ってきましたよ!」
「お前、いきなりチーム探しか。ミナさんが即座に紹介するなんて、やっぱりお前、見どころがあるんだな。じゃあなレン、また模擬戦やってくれよ!」
ニコと別れ、受付へと向かう。
さて、レンの「新人ライフ」を彩る最初の仲間は、どんな連中だろうか。




