超高級店「豊穣の角」
アルカディア王都は兎に角、住民の密度が高い。ぼーっとしているとすぐに人にぶつかってしまう。『宵闇の極光』のメンバーと歩いているときは皆、恐怖で道を開けてくれるが、レン一人の時には全く誰も気遣ってくれないのが悩みである。
「どいつもキャラが濃すぎるんだよな……」
セリーナはなぜかいつも漆黒のドレスを纏い、フィエルはエルフ特有の華やかさが凄まじい。ガドルはあまりにも巨大で、リリィは見るからに悪のオーラを出している。その点、自分は身長も見た目も特徴がない。
一度、尖った見た目にしようと竜の子供を引き連れてみようとしたが、門番に止められ、王都長にこっぴどく説教を食らった。「ちゃんと育てるし躾けるから大丈夫!」と言うと、憐れなものを見る目で対応されたのは正直ダメージを受けた。竜はその場で解放である(本来であれば殺処分だが、誰も殺せないため逃すことに)。悲しい。
「いらっしゃいませ、レン様」
『豊穣の角』に着くと、バルカスが迎えてくれた。貴族御用達の食品店の偉い人のようであり、「きっと凄い人なんだろう」と毎回思うのだが、明らかに闇社会のオーラを纏っているのが不思議である。一度聞いてみたことがあるが、笑って流された。
「ルミナリア連邦との晩餐会が来週あるから、手土産を持っていきたい」
「連邦ですか……あんなクズに出す食材は弊店にはございませんが」
「あー、お前もその口か」
「はい。とはいえ昔の話ですし、商売ですのできちんとご用意いたします。不躾で失礼いたしました」
「いいよ、いいよ、気にしないでくれ」
連邦は強権国家のため、迫害された者たちがアルカディア王国に流れ着くことも多い。バルカスもそうだったのだろう。とはいえ彼もプロである。私情に流されるような男ではない。
「予算はいくらくらいでしょうか?」
「金貨三枚くらいかな。王も参加するし、メイドや執事用で十分だろう」
スタッフに手土産を渡せ、というのはセリーナの教えである。彼らは給与がそれほど高くないため、喜んでもらえるコスパが良いらしい。また、秘密情報を入手しやすい立場なので、恩を売っておくと使い道が多いから、とのこと。そうして、こういった公式の会の度に手土産を豊穣の角で買う習慣が身についてしまった。
「ではお菓子でいかがでしょう? ドワーフ諸公国のミルクで作ったクッキーが今ならございます。金貨三枚でしたら、それなりの数と高品質なものを詰め合わせにできるかと」
「良さそうだからそれでいいよ」
「かしこまりました。アリエル、クッキーを100枚箱に入れて持ってきなさい」
「しかし晩餐会とは大変ですな」
「Sランクチームを相手が連れてくることがわかったから、だとさ。どうでも良いと思うんだけどな」
「舐められたら負け、というのが貴族であり国でありますからな。これも戦いなのですよ、レン様」
「わかってるけどなー……面白くはない」
「いずれこのような会で得られる情報と人脈が活きてきます。その経験を積めば、楽しくなってきますよ」
「よくわからないが、楽しくなることを願うよ」
レンは金貨三枚を支払い、店を後にした。
「バルカス様、今の方は?」
アリエルは最近入店したばかりの店員である。大商人一家の生まれで、最近まで王立学校で学んでいたエリート。ようやく店に来る客に慣れてきたが、これまでに来た客との雰囲気の違いが気になったので、思わずバルカスに聞いてしまった。
「彼は『宵闇の極光』のリーダー、レン様です」
「え、あのチームの!?」
「はい。彼はあまり著名ではありませんが、決して失礼のないように」
「もちろんです。ただ、初めてリーダーを見ました……噂とは大分違いますね」
「メンバーが有名すぎますからね。ただ、能力的に見ると彼に勝てる者はチーム内にも王国内にもいないと思いますよ。それくらいの『怪物』です」
「噂しか聞いたことないですが、やはりそうなのですね。見たことがあるんですか?」
「一度だけ。さて、仕事に戻りますよ」




