話し合い
翌日。まずはセリーナとの話し合いだ。 五人しかいないチームだが、拠点の「チームハウス」は無駄に広い。広大な敷地に家が五軒建っている。元は大規模ギルドの持ち物だったが、色々あって手に入れた土地だ。「まずは更地にしよう」と全員の意見が一致し、前オーナーの悪趣味な建物を文字通り粉砕した後、個々のプライベートを重視した家を建て直したという経緯がある。
とはいえ、中央にある共同スペースでだらだらと過ごすことも多い。レンがそこへ向かうと、セリーナが酒瓶を傍らに寝っ転がっていた。 王国きっての頭脳派、冷酷無比な氷魔法使い――世間が抱くそんなイメージとは裏腹に、実態は酒を飲みながらゴロゴロしているだけの自堕落な女である。
「ちょっと、話があるんだが」
「はい……? 晩餐会で何かあったんですか? 面倒な話なら明日以降でお願いします。今日は何もしないと決めていますので」
「それはいつもだろ。……単刀直入に言う。俺は新しい視点を得るために、しばらく別の街で、一人で行動してみようと思っているんだ」
セリーナが、むくっと起き上がった。
「急ですね。何があったのですか?」
「連邦のシエラ姫とか、色々な奴らを見ていてな。もっと視野を広げないといけないと思ったんだよ」
「シエラ姫と会ったことが、関係しているのですか?」
ちょこん、と首を傾げながら尋ねてくる。これはまずい流れだ。彼女が首を傾げるのは、大抵「半ギレ」のサインである。
「いやあ、そういうわけではないんだけどね。そういうわけではないんだけど……」
「では、何ですか?」
「知らない世界を見てみたいと思っただけだよ。連邦の奴らもよくあるSランクだったが、世の中はあんな奴らばかりじゃないはずだ。かつての『迷い星』みたいに傲慢に溺れないためにも、普通の連中との触れ合いが必要かと思ってな」
「なるほど……。一理ありますね」
セリーナは表情を崩さない。
「どこへ行くつもりですか?」
「ザヴィルだ。王国内からは出ないようにする。ベルンハルト宰相にも筋は通しておくよ」
「承知しました。では、二つだけ条件を。 一つは、一ヶ月に一度は必ず帰ってくること。情報共有や避けて通れない面会者が溜まるので、二、三日は時間を確保してください。もう一つは、この『寄り道』を一年以内に終了させること」
「わかった。……それでいいのか?」
意外にも話が早く済んだことに、レンは胸をなでおろした。
「他の者には伝えていますか?」
「いや、まだだ」
「では、直接話しましょう。ガドルとリリィの任務が終わる明日の夜、ここに招集しておきます」
「わかった。頼むよ」
レンが部屋を去った後。 セリーナの瞳から、それまでの緩い空気が一瞬で消え去った。
「新しい視点、迷い星……ふふ、あの女が絡んでいますね。レン様が『迷い星のようになりたくないから視点を広げたい』なんて、そんな常識的な理屈に自力で辿り着くはずがないもの。あの女が入れ知恵をしたのでしょう」
彼女は手元のグラスを指先で弄びながら、背後に控えていた老執事に声をかけた。
「セバスチャン。ちょっと呼び出してくれないかしら? 今日中に」
「どなたをでしょうか、セリーナ様」
「アイルーンよ。拒否するなら、無理矢理で構わないわ」
「かしこまりました」
セバスチャンは散らばった酒瓶を手際よく片付けながら、音もなく退出していった。
「さて。レン様に何か仕掛けるつもりなら、タダでは済ませませんが……。あの女もそこまで無謀ではないはず。レン様の『やりたいこと』に対して、表向きの正当な理由を与えたというところかしら。とりあえず、じっくりとお話をしてみましょうか」




