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「では、第一の懸案は解決できそうですね。次は王国上層部との調整です。『宵闇の極光アウロラ』はアルカディア王国にとって最大級の切り札。レン様が行方不明になれば国家的な大騒動に発展します。事前に話を通しておかないと、レン様の居所を掴もうと、世界中にスパイが放たれることになりますわ。そうなれば『普通の冒険者』どころではありません」


「まあ、そうなるか。勝手にいなくなっても、俺一人のことだからどうでもいいと思うんだけどなあ」


「レン様。お言葉ですが、あなたが居なくなるだけで軍事バランスが崩壊するのです。王国が安心できる材料を提示すべきでしょう。例えば『王国内からは原則として出ないこと』、そして『メンバーを王都に残すこと』。これらを条件に『個人的な探し物のための無期限休暇』として受理させるのが落としどころかと」


「なるほどな。ベルンハルトにでも伝えておけばいいか」


「ええ。あくまで善意による事前連絡だという形にすれば、向こうも恩義に感じるでしょう。ご自身で直接お話しなさい。私のような裏の者が介入すれば、余計な疑惑を招くだけですから」


アイルーンの言う通りだ。国家と揉めるのは冒険者の禁忌である。 かつてヴェリディア帝土で不祥事を起こしたSランクチームがどうなったか。どれほどの武力を誇ろうと、個の力には限界がある。国家が長年蓄積してきた「個を制圧するためのノウハウ」は、物理的、精神的、社会的なあらゆる手段を網羅しているのだ。



「……そして最後にして最大の問題は、チームの皆様との調整、でしょうね」


「だよなあ……」


レンは深い溜息をついた。こればかりは、アイルーンの知恵でも解決できない。


「正直、どう転ぶかは未知数ですが、セリーナ様とは正面から話すべきかと。何も言わずに旅立てば、王都が氷漬けになりかねません。ただ、『冒険が面白くないから』といった不用意な表現は避けるべきですわ。彼女の逆鱗に触れます」


「面白くない、はダメか?」


「ダメです。この店どころか、王都全域が豪雪に見舞われますわ。物理的に」


「……だよなあ」


「ですが、視野を広げるのは良いことです。価値観が凝り固まり、周囲に阿呆しかいなくなれば、何が大事かを見落として取り返しのつかない事態を招きます。……ヴェリディアのSランクチーム『迷いロスト・ステラ』が、なぜ全員処刑されるに至ったか、ご存知でしょう?」


『迷い星』。かつて帝土で栄華を極め、犯罪に手を染めて滅んだ伝説のチームだ。


「俺たちが何をしても許される――彼らはそう勘違いしたのです。最初はこの店にも来るような素朴な青年たちでしたが、Sランクと持て囃されるうちに、傲慢という名の怪物に呑まれてしまった。レン様には、そうなって欲しくはありません。世界の敵になるのは、面倒でしょう?」


「……ああ、なるほどな。助かったよ、アイルーン。その方向でセリーナと話してみる」


「そういえば、ザヴィルに行こうと思うんだが……何か伝手はあるか?」


「ザヴィルですか。もちろんありますが、あそこは地元の情報屋が強い土地柄ですわ。住民の入れ替わりが激しいので、地元に特化した『手配師』たちが活躍しています。彼らは仕事と労働者を繋ぐのが本業で、高ランクの冒険者にはあまり興味がありません。むしろマフィアや凶悪犯を紛れ込ませないための『身元確認』に力を入れています」


「それなら、俺が紛れ込むにはちょうど良さそうだな」


「ええ。良い街だと思います。それでは……これ、ご注文の品です」


アイルーンから渡されたのは、無骨なデザインを洒落たブレスレットに偽装した『囚人の封印具』だった。


「これで払っておいてくれ。助かったよ」


レンは金貨の袋をまとめて渡し、店を後にした。背中越しにアイルーンが耳打ちする。

「何かあればザヴィルでもどこへでも駆けつけますので、お呼びくださいね。一人ではどうするべきか迷うこともあるかと思います。レン様の不得意な領域はサポートできますので。」


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