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辺境食堂のスキル錬成記  作者: しげみち みり


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第9話「商会の陰謀――食材供給の封鎖」

 王都での宴から数日。

 《辺境食堂》の名は一気に広がった。

 「辺境の料理人が人を癒した」という噂は街角の酒場から兵舎まで駆け抜け、行商人たちはこぞってその真偽を確かめに辺境へ行こうとした。


 カイは宿の一室で、リーナや仲間と今後の計画を練っていた。

「侯爵からの支援で交易路が少しは安全になる。でも、商会は黙っていない。……何を仕掛けてくると思う?」

 リーナが眉をひそめる。

「盗賊を使うのはもう見え透いています。もっと直接的に、交易そのものを止めにくるはず」

 若者の一人が唇を噛んだ。

「塩や布が入らなくなったら……村はまた飢える」


 その時、宿の扉が乱暴に叩かれた。使いの少年が転がり込むように飛び込んできた。

「大変だ! 市場で《辺境食堂》への物資の取引が禁止された!」


市場の封鎖


 駆けつけた市場には、すでに人だかりができていた。

 入口には商会の紋章を掲げた兵士が立ち、布や塩の荷を積んだ行商人たちを押し返している。


「これはどういうことだ!」

 カイが声を上げると、商会の役人が冷ややかに振り返った。

「《辺境食堂》に物資を流すことは禁ずる、との決定だ。理由は簡単。魔物肉を使うなど危険極まりない。王都の秩序を乱す者には供給しない」


 行商人たちは不満を口にするが、役人は鼻で笑った。

「従わぬなら、市場から締め出すまでだ」


 カイの胸に怒りがこみ上げる。だが拳を振るっても解決はしない。

 ――商会は正面からではなく、生活の根を切りにきた。


村への影響


 辺境の村に戻ると、状況はすぐに悪化した。

 塩がなければ保存食が作れない。布がなければ防寒具も足りない。

 子どもたちが「しょっぱいスープが飲みたい」と泣き、老人たちは布切れを重ね着して震えていた。


 村長が深いため息をつく。

「交易を止められれば、この冬は越せぬ……」

 リーナが拳を握りしめた。

「こんな理不尽、許せない!」


 カイは竈の前で膝をつき、長い時間火を見つめていた。

 ――料理は人を救うためにある。ならば、供給を断たれても何か方法があるはずだ。


“作る”という発想


 翌朝、カイは村人を集めた。

「商会が供給を止めたなら、俺たちが作ればいい」

「作る?」

「塩だ。布だ。全部を一度に作るのは無理でも、工夫すれば代替できる」


 村人たちは目を丸くした。

「塩を……作るだと?」


 カイは川辺に案内した。

「川の下流には干潟がある。潮が満ちて引く場所だ。海水を汲んで煮詰めれば、塩になる」

「そんなことが……」

「時間はかかるが、できる。料理の延長だ」


 さらに布の代わりには羊毛を紡ぎ、薬草を混ぜて防寒性を高める案を示した。

「辺境の暮らしは不便だ。だが、それは工夫の余地があるということだ」


 村人たちの目に光が戻る。

「やってみよう!」「俺も手伝う!」


塩づくりの挑戦


 干潟に鍋を運び、薪で火を焚く。

 子どもたちが海水を汲み、若者たちが煮立った鍋をかき回す。

 湯気が立ち、やがて底に白い結晶が残った。

「これが……塩?」

 舐めた瞬間、顔がほころぶ。

「しょっぱい!」


 歓声が広がり、村全体に活気が戻った。

 少量でも、自分たちの手で塩を作れた。その事実が心を支えた。


商会の妨害


 だが、商会も黙ってはいなかった。

 数日後、村の入口に武装した男たちが現れた。

「塩の密造など許されぬ! これは商会の権利を侵す行為だ!」

 彼らは市場の兵士を装っていたが、実態は商会の私兵だった。


 村人たちは怯えたが、カイは前に出た。

「塩を作ることが罪だというなら、飢えて死ねというのか!」

「秩序を乱すな!」

「秩序を乱しているのはお前たちだ!」


 刃が抜かれ、緊張が走った。

 その瞬間、森の奥から兵士の部隊が現れた。侯爵家の紋章を掲げて。


侯爵の庇護


 兵士の隊長が声を張り上げる。

「侯爵の命により、《辺境食堂》は保護下に置かれる! 商会の私兵は直ちに退け!」

 私兵たちは舌打ちし、渋々引き下がった。


 村人たちは歓声を上げ、カイは深く息を吐いた。

 ――危うく全てを奪われるところだった。


 隊長はカイに近づき、低く言った。

「侯爵は貴殿の料理を高く評価している。だが同時に、商会の圧力も強まっている。戦いはこれからだ」


 カイは頷いた。

「覚悟はできています。俺は退かない」


冬の始まり


 その夜、村では自分たちで作った塩を使ったスープが振る舞われた。

 味は少し荒削りだったが、皆の顔は笑顔で満ちていた。

「自分たちで作った塩で……生きられる!」

「辺境でも、やれるんだ!」


 カイは椀を手に、焚き火の光を見つめた。

 商会の陰謀はこれからも続くだろう。だが、この村には工夫と希望がある。

 料理は武器にも盾にもなる。

 そして、何より――人を繋ぐ力になる。


 冷たい風が吹き、夜空の星が瞬いた。

 辺境食堂の戦いは、まだ始まったばかりだ。

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