就職の神、現る。が…。
面接。
誰しも乗り越えなくちゃならない就職の壁。
引っ込み思案な俺にとっては地獄のようなものだ。
俺はいま、中小企業の面接を受けている。
ここの企業は目立ってるわけでも、潰れそうなわけでもない。
時給はそこそこだし、みんなこぞって入りたがるところではないだろう。
だが、ここの企業は、面接人数が世界最大なのである。
なぜなのか、その理由はSNSのつぶやきにあった。
『え、やばい。〇〇企業の面接で面接官の後ろに悪魔っぽいのいたww
全然視える人じゃないんだけどなんか見えたw
全然集中できずにいて、悪魔もいるし終わったと思ったら内定もらったんだがw神だったのか??』
そして、暇を持て余した若者たちが遊び半分で試しに行った。
悪魔的なやつが毎回出るわけではないらしいが、どうにも出た人は必ず内定をもらえるらしい。
こうして面接に突然現れた悪魔は、就職の神・マーガスと呼ばれるようになった。
受けまくって落ちて疲れていた俺は、最後のチャンスにかけることにした。
マーガス、出てきてくれ!
そう思いつつ、面接官の質問に答えていく。
若い男の面接官と、メガネをかけた五十代くらいの面接官が並んでいる。
「あなたは〇〇のとき…」
面接官がそう言いかけた時、ぐおぉんと空気が歪んだ。
***
〇〇企業。
私はその会社に勤めている。
その会社の上にまで上り詰めたものだから、面接官を任されることとなった。
今、面接の真っ最中だ。
横には、新人だが教員免許を持っている中居くんがいて、その隣に私が座っている。
メガネを上に上げる。
今回、マーガスは出てくるだろうか?
マーガスがつぶやかれたことで、応募数が増えたことは嬉しい。
だが、マーガスが現れる時は、欲しい人材じゃなくても取らなければならない。
そういう暗黙のルールができていた。
多分彼も、マーガス目当てだろうな…。
この企業に役立てるような子ではなさそうだ…。
私の不安が的中する。
ぐおぉん、と空気が歪んだからだ。
後ろに、いる。
振り返ったら魂を握りつぶされそうで、必死に汗をかきながら平気な顔をする。
マーガス。
禍々しい紫の肌。
木の杖、足元には黄色い雲。
天井スレスレの身長。
こうなったらもう、質問の必要はない。
早々に面接を切り上げ、廊下で缶コーヒーを購入した。
「マーガスなんて無視したらいいじゃないすか。こんなんだから、運営能力があるのに中小企業のままなんすよ」
中居くんが缶コーヒーの蓋を開ける。
「そういうわけにもな…」
曖昧に答えながら、苦笑する。
彼は知らないのだ。
中居君は、たまたま見ていなかったそうだけど、中居君もマーガスに選ばれて1人なのだ。
そして部長の私も、そうなのである。
***
「おかしいなぁ」
「どうしたの、マーガス?」
「あぁ、エミー」
「おかえりあなた」
「僕、最近新しい仕事を創立したじゃないか」
「そうね、私たち神の」
「だけど、なんかどうにもうまくいかないんだ」
「どんな仕事なの?」
「僕が現れた人は、将来的に会社に入らない方がいい人ってことにして、中小企業を育てようとしてたんだ。ほら、ぼく、怖い見た目だろう?」
「そうね,神と思えないわ」
「なんで、怖がんないんだろう」
「選ばれしものって、思ったんじゃない?それか、マーガス…あなたがちょっと嬉しそうなのがいけないのよ、面接官も不気味に思うわ」