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銀河の残響  作者: 六然訓
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序章 群雄割拠の胎動

黒曜石王朝の専制は、当初こそ秩序と安定をもたらしたが、その構造自体が長期的停滞を孕んでいた。

帝国の権威は絶対であり、臣下の才覚は皇帝の意向に従属することでしか発揮され得なかった。

それは優秀な人材を萎縮させ、やがて腐敗と惰性を不可避のものとした。


百年を経ずして、帝国の広大な領域に綻びが生じ始める。

重税を課せられた交易惑星は経済的自立を唱え、辺境の軍事司令官は中央の命令を無視して事実上の自治を確立した。

こうして「群雄割拠の時代」が幕を開けたのである。


この群雄の中から、後に歴史を規定する二大勢力が頭角を現す。



二大勢力の勃興


一つは、北方星域の戦士貴族たちを糾合した ヴァルキオン統合国(Valkion Union) である。

彼らは「黄金獅子」の名を旗印とし、力と忠誠を重んじる軍事的共同体を形成した。

その統治理念は単純明快であり、武勇と規律をもって秩序を保つというものであった。

彼らにとって帝国は堕落した権威であり、討つべき対象でしかなかった。


もう一つは、交易商人たちの連合体から発展した メルカディア共和連合(Mercadia Confederacy) である。

彼らの旗印は「自由な市場と契約」であり、星々を結ぶ交易路を自らの生命線とした。

統治は複雑な合議制によって行われ、力よりも利潤と交渉の才が支配の根拠となった。

彼らにとって帝国は時代遅れの枷であり、解体すべき旧制度であった。


両者は理念において対極に位置した。

ヴァルキオンは「剣の秩序」を、メルカディアは「商の自由」を掲げた。

だがそのいずれもが、帝国の権威を正面から否定し、自らこそ銀河の覇権を担うべき存在だと信じて疑わなかった。


黒曜石王朝の皇帝たちは、この二大勢力をいっときの反乱勢力として軽視した。

だがやがて、歴史家が記すところの 「百年戦争」 は、まさにこの二勢力の対立を中心に展開されるのである。



群雄割拠の時代


黒曜石王朝の支配は広大にして強固であった。だが、その威令が隅々にまで届いたのは、歴代の皇帝がまだ精力と統率を保っていた初期の数十年に限られる。

帝国の制度は硬直し、宰相と官僚たちは己の保身に汲々とし、皇帝は奢侈と享楽に沈むようになった。

やがて「帝国」と「現実」との乖離は、あらゆる地域で小規模な独立の芽を生じさせる。

•辺境軍閥の台頭

外縁部の軍事星域においては、皇帝から任じられた総督が独立を宣言する例が相次いだ。

カイロス星域のアステル家は、代々の辺境提督の血筋を誇り、帝都からの命令を無視して「星域自治会議」を設立した。

彼らは軍事力においては強大であったが、補給と財政においては脆弱であり、持続力に欠けた。

•交易国家の誕生

帝国の大商人たちは重税と規制に耐えかね、自由交易都市同盟を結成する。

その中でもリュミエール商業同盟は、星々を結ぶ交易路を独占し、一時は「帝国の金庫を握る」とまで言われた。

だが彼らは利潤第一で軍事力に乏しく、やがてより大規模な勢力に吸収された。

•理念的勢力の挑戦

学術で名を馳せたアカデミア星系連合は「知の自由」を掲げた。

彼らは学者と技術者を中心にした共同体であったが、理想を実現するにはあまりに現実政治に疎く、結局は武力に押し潰された。



二大勢力への収斂


こうした大小の勢力は数十年のうちに淘汰され、やがて二大潮流に収斂していく。

軍事力で他を圧倒したのがヴァルキオン統合国、交易と資金で併合を進めたのがメルカディア共和連合であった。

•ヴァルキオンは武勇をもってリュミエール商業同盟を制圧。

•メルカディアは外交と金銭でアステル家を取り込み、

•アカデミア星系の知識人さえも、両勢力に分かれて利用された。


こうして数多の小国・小勢力は姿を消し、銀河は再び「二つの旗」に収斂する。


片や剣を掲げる黄金獅子。

片や契約を象徴する銀の天秤。


この対立は、やがて歴史家が 「百年戦争」 と呼ぶことになる長大な時代の幕開けであった。



小規模戦争 ― カイロス星域戦役


《後世の歴史家による注記》

本戦役は、黒曜石王朝の権威が失墜したことを銀河に知らしめた最初の事例とされる。

戦術的には些末な衝突にすぎなかったが、政治的な影響はきわめて大きく、

「帝国はもはや中央の号令で統御できぬ」と各地に示したのである。


•戦役の発端

西辺境のカイロス星域は、代々の総督アステル家によって統治されていた。

第六代皇帝の治世、中央の過酷な徴税に反発したアステル家は朝貢を停止。

「星域自治会議」を設立し、独立を宣言した。

皇帝はこれを「反逆」と断じ、討伐のため五万の兵を動員する。

•カイロス会戦

帝国軍:五万隻

アステル軍:一万五千隻

兵力差は圧倒的であったが、アステル軍は小惑星帯を利用して待ち伏せし、両翼から襲撃。

三日の戦闘で帝国軍は三万隻以上を失い、潰走した。

•戦役の帰結

アステル家は辺境の英雄と称されたが、交易路を欠いたため財政は破綻。

最終的にメルカディア共和連合に吸収された。


この小規模戦争は「帝国が敗北する」という事実を銀河に刻み、群雄割拠時代の引き金となった。

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