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第79話 新たな秩序

 剣がぶつかり合う甲高い音が、玉座の間に鋭く響いた。

 しかし、その光景を前にしても、列席する騎士たちは誰ひとり王の側へ踏み出そうとはしなかった。


「その剣に、正義などない」


 アークのひと言が、騎士たちの心に残っていた迷いへと決定的な線を引いたのだ。

 剣に手を伸ばす者も、声を上げようとする者もいない。

 ただ現実を受け入れきれず、思わず数歩後ずさる姿がいくつか見られるだけだった。


 かつてなら、王の命が下れば従った。

 だが、今はもう誰も動こうとはしない。

 近衛兵は剣を引き、ゆっくりとその場から退いた。


 玉座の間には、重たい沈黙が広がっていった。

 王はなお玉座に座していたが、声を求める者も、膝をつく者もいなかった。

 かつてこの国を統べていた威光はすでに失われ、王の姿はただの老いた一人の人間としてしか映らなかった。


 ミリアは剣を抜くことも、言葉を投げることもなく、ただじっと王を見つめていた。

 しかし、その視線に王が気づくことはない。

 彼の目にはもう、周囲の誰も映っていないようだった。


 やがて王は手にしていた剣を静かに収め、吐息のような声で言葉を落とす。


「……この国は、ここで終わるのだな」


 その声には怒りも悔恨もなく、あるのは深い疲労と諦念だった。

 王はゆっくりと立ち上がり、玉座の段を降りていく。

 王冠を外すこともなく、誰にも言葉をかけることもなく、ただ扉のほうへ歩を進めた。


 それを止める者はいない。

 侍従も、騎士も、廷臣も、誰ひとり声を上げず、無言のままその背を見送っていた。


 ミリアもまた、その背を見つめながら、ぽつりと呟く。


「……これから始まるのよ」


 やがて扉が開かれ、王はそのまま外へと歩み出た。

 開いた扉の向こうからは、人々のうねりが押し寄せてくる。

 怒号、歓声、そして未来への不安と期待――そこには、生きる者たちの熱が渦巻いていた。


 王はその中へと歩み入り、やがて城門を越えて群衆の中に姿を消した。

 誰にも見送られることなく、その存在は人波へと溶け、歴史の陰へ沈んでいく。


 アストレアに長く続いた王政が、ここに終わりを告げた瞬間だった。


 ◇ ◇ ◇


 王の退場から数日が経ち、セイクリアでは臨時の統治評議会が立ち上げられた。


 評議会には、中立を保ってきた旧貴族層をはじめ、都市機能とインフラを担ってきた技術者、信仰を支えてきた聖職者、騎士団の幹部、そして市民から選ばれた代表者の名が並んでいる。


 その中には、ミリア・カヴェルの名もあった。


 ただしミリア自身は、統治の中枢に立つことを望まなかった。

 あくまで「人と魔族の共存を探る立場」としての相談役に徹し、直接の統治からは距離を置いた。


 王政崩壊による混乱を恐れ、一部では反発が起こる可能性も囁かれていた。

 しかし、各地の領主たちは大きな動きに出ず、分裂の気配もない。

 王都の民意が、新体制へ確かな追い風を与えていた。


 さらに、魔法開発の研究対象として拘束されていたヴェイルの森の生き残りたちも、評議会の決定によって解放された。


 王都の一角には臨時の生活区画が急ぎ整えられ、彼らはそこへ移された。

 マリス、イレーネ、ソフィア、セリナらと再会したとき、張りつめていた空気が一気にほどけ、互いの無事を喜んで抱き合った。


 彼らの中には、故郷の森の再建を願う声も多い。

 だがまずは、使節との対話を重ね、新しい生活基盤を築くことが最優先とされた。


 魔族側もまた、正式な和平代表団を派遣し、新体制との外交が始まる。

 互いの立場と責任を明確にする協議が進み、停戦協定に向けた具体的な枠組みが形となりつつあった。


 旧来の騎士団はすべて解体され、「統一騎士連盟」と呼ばれる新組織が編成された。

 それは戦うための軍ではなく、治安維持と秩序の安定、そして地域間の調停を担う機関として設計された、より中立的な仕組みだった。


 同じころ、長らく王宮の奥底に眠らされていた数々の記録が、次々と公に開示されはじめた。


 魔族と人間のあいだに生まれた混血児の実態。

 変異者と呼ばれ、社会の片隅に追いやられてきた者たちの存在。

 王国による人体実験と、魔素汚染に関する長年の隠蔽。

 そして、スキル保有者と称されてきた人々の起源に関わる真実。


 これらの多くは、すでに噂や統合報告によって民衆の間に広まりつつあったものだ。

 だが、王家が保持していた正式な記録として提示されたことで、疑う余地のない事実として突きつけられた。


 民衆の反応は大きく揺れ動いた。

 混乱、憤り、戸惑い、そして理解――そのすべてが入り混じり、社会の空気が大きく形を変える。


 しかしその動揺は、新たな価値観を受け入れるための避けられない通過点でもあった。


 戦争が終わったいま、

 この世界はようやく――「選べる未来」を手に入れたのだ。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


もし少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、

ブックマークや感想で応援していただけると嬉しいです。泣いて喜びます。


もちろん「面白くなかった」などのご意見も大歓迎です!

しっかり次につなげるべく、泣きながら執筆します。


皆さまの感想が、何よりのモチベーションです。

それでは、次回もぜひよろしくお願いします!

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