理不尽な婚約破棄をされた聖女ですが、追放先の辺境領主がイケメンなので、私は元気です
「おまえとは婚約破棄だ」
突然の王子からの婚約破棄宣言に、私は動揺する。
「何故ですか?」
「おまえは魔法の研究ばかりして、女性の美しさに無頓着すぎる。なんだ、その寝ぐせは」
「私の聖女の仕事はどうなるのですか?」
「当然、おまえの聖女の地位も剥奪だ。聖女のような高貴な身分は、おれの妻となるこの美の乙女こそがふさわしい」
「元聖女さま。あなたの仕事は私が引き継ぎますから、ご心配なく。いままでの聖女の功績も私のものになりますけど、それはしかたがないですわよね」
王子と美の乙女が私をあざ笑う。
その場にいた私の妹が、その婚約破棄に異議を唱える。
「お待ちください。私の姉は、この王国に聖女としてあれだけ貢献したのに、あまりにもひどい仕打ちではないですか」
私と同じクラスの伯爵令嬢達が、私の妹と一緒に声を上げる。
「婚約破棄はともかく、いままで聖女の功績は奪わないであげてください」
魔法学園の卒業式が終わった後の会場で突如行われた婚約破棄宣言は、王子グループと妹グループの言い争いに発展していた。
「王の妻は外交に重要な立場なんだ。女性として美しい美の乙女を選択するのは当然だろ」
「お姉さまはこの王国を、世界を救ったのですよ」
私は口出しせず、心の中で応援する。
王子、がんばれ。
美の乙女も言い負かされるな。
私から聖女の地位を奪いとれ。
みなさんは、こんな経験はないだろうか?
仕事での大事な書類を間違って処分してしまった。ばれたら大問題になるので黙っている。でも、その書類は一年後ぐらいに絶対に必要になる。どうしよう。そんなとき、部署の移動を命じられる。ラッキー。もしかしたら、このまま誤魔化せるかもしれない。
王子に婚約破棄宣言をされた時、私は思った。
ラッキー。
「みなさん、ありがとうございます。ですが、私は争いを好みません。聖女はこの美の乙女さまにお譲りします。たとえ、聖女の看板がなくとも人助けはできます。これから、私は一個人として王国の支えとなる活動をしていきたいと思います」
ゆっくりと礼をして、静かに会場から去ろうとした私の頭をわしづかみする王妃。
「ちょっと待って。あなた、何を隠しているの?」
この学園の学園長も兼任している王妃が、私に圧をかけてくる。
私は平静を装い答える。
「何をおっしゃることやら、わかりませんです」
「あなたとは長いつきあいだから、その言い回しした時は、とんでもないやらかしをしたときだってわかっているのよ」
私は観念して答える。
「一年前、私、魔王を討伐したじゃないですか」
「したわね」
「まだ魔王、倒してないです」
王妃は、私の上司時代に、私がまちがって前の王城を魔法で半分吹っ飛ばしたことを報告した時と同じ形相になった。
「魔王を倒していない?あなた、今、魔王を倒していないって言ったの?魔王討伐に行っていないってこと?」
「いいえ。魔王と戦いはしたんですよ。でも、魔王頑丈すぎて、攻撃魔法が通じないから、とりあえず魔法でアリジゴクみたいの作って閉じ込めてます」
「それ、魔王をちゃんと閉じ込めておけるの?」
「いえ、初めての魔法だから、百年持つのか明日壊れちゃうのかわかりません。アリジゴクのように脱出しようとすると突き落とされる構造だから、魔王がマジ切れしていて私の国滅ぼすと怒鳴り続けてます」
「どうするのよ?」
「私の所属を帝国だと嘘ついておいたから大丈夫です」
「ばれたら帝国と戦争になるでしょう!」
「なんとか魔王を倒す方法を見つけます。とりあえず、聖女は美の乙女に譲って。もちろん、魔王対策はちゃんとやりますから」
礼をして、会場から去ろうとする私の手を、私のことをよく知る妹が掴む。
「ちょっと待て、バカ姉。王妃様、たぶん、こいつもっとヤバイこと隠してますよ」
「嘘でしょう。魔王を倒していない以上のことなんてあるはずないでしょう」
王妃は私の顔を見る。
そして、何かを察する。
「嘘だろ、おまえ」
私は観念して話す。
「魔王討伐を命じられたさい、女神様に使い魔をもらったじゃないですか」
「あの黒猫にそっくりな」
「どこかに逃げちゃいました」
「はい?」
「女神様の使い魔だから三歳児ぐらいの知能があると思っていたんですけど、見た目レベルの知能しかなかったみたいですね。放し飼いできないとは思いませんでした」
「昨日まで、あなたの隣にいたじゃない」
「あれ、そっくりな黒猫です」
「おまえは!女神様にばれたらどうするの?この王国、滅んじゃうの?」
「ちゃんとみつけますから、安心してください。とりあえず、私はこれで」
立ち去ろうとするが、私の学生時代のことをよく知るクラスメイトの伯爵令嬢達が、出口に立ち塞がる。
「王妃様。このアマ、おそらく、もっとヤバイことを黙ってますよ」
「これ以上なんて、あるわけないじゃない。あるわけ、てめえ」
「魔王を倒さなくちゃいけないなと思って、魔法爆弾作ったんですよ。この王国が一瞬で蒸発するぐらいの威力のを。それを完成させて、お祝いにお酒を飲んで酔っぱらっていたら、どこかにいっちゃいました。わたし、追放ですね」
「逃がすわけないだろ」
「と言うわけで、理不尽な婚約破棄された元聖女の私ですが、この辺境地でご厄介になります」
王妃の弟であるイケメン辺境領主が、姉とそっくりな表情になる。
「なんで?」
「あっ、魔王のことなら、もう心配ないです。女神の使い魔が、気を利かせて、爆弾くわえてアリジゴクに行ってくれたので。爆弾の威力を知った魔王は、もう人間には手を出さないと約束してくれました」
「なんで、ここに来るんですか?」
「婚約破棄の時に逃げようと・・・いえ、ちょっとしたトラブルで、私、毒をばらまいたんですけど、どうも国際条約で禁止されている毒だったらしくて、ほとぼりがさめるまで、こっちにいろとの王妃様からの命令です」
王妃の弟は泣きそうな顔をしている。
おそらく思春期だからだろう。
いろいろあったけど、私は元気です。
おわり