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とある編集担当の叱咤

作者: けんぽねる

生きるのが辛いからもう書きたくない……ですか。

先生、生きるのが辛いのは私も同じなんですよ。


一緒にするなって言われても、先生がそう思っていないというだけ、そう思いたく無いというだけなんです。

我々みたいな陰鬱な人間はみんな、大体は同じなんです。きっとみんな、多かれ少なかれ感じていることなのです。


先生にはそれを、まるで自分だけが感じている特別な地獄かのように、仰々しく書き表すだけの才能があったというだけの話です。たまたまそれだけの話じゃないですか。


そこにある地獄の可視化、漠然とした苦しみを知覚可能にするという非生産的な作業……あ、貶しているわけではないので、いちいち傷付かないでくださいね。そして、そんな作業の成果物を世の中に知らしめ、自分の外側にぶちまけたいという欲求の発散。


先生の作品が世間にそこそこウケているのが何よりの証拠じゃないですか。

その苦しみが本当に先生だけが感じているものならば、そんなよく分からないものが共感なぞ呼ぶはずがない、売れるはずがないのです。


失礼しました。しかし、分かったような口を利いて何が悪いのですか?

理解されたがっているから、こんな物を書いてるはずなのに。


私は先生のファンですよ。

先生が感じている苦しみと同種のものを感じていると自負しております。

絶対に認めないでしょうが、先生の地獄に居るのは1人ではありません。

先生がいる地獄には、横を見ればちゃんと他の人たちがいるんですよ。


先生から見たらごく普通の、陰気で感傷的な人たちが、互いの傷を舐め合い、自分の傷口には塩を塗って、悲しい顔をして、一生懸命笑ったり泣いたりしてる。

先生がいる地獄は、私がいる地獄で、他のいろんな普通の人がいる地獄なんです。

先生は他の人より、ちょっとだけ地獄界の視力とか聴力が良かっただけなんです、不幸にも。


煩わしいですよね。

自分だけの地獄に浸っていたかったですよね。


でも先生、あなたが書き上げたものが、それを許してはくれませんよ。

あなたが皆に気づかせてくれたのです。

あなたが皆にはっきりと見せてくれたのです。

あなたのような孤高の天才と同じ場所にいるのだという自惚れを、読み手の中の真実となるまでに、仕立て上げてくれた張本人が、あなたなんです。


これまでの私自身の体験、その意味は全て変わりましたよ。全てが自分から離れて、あなたが書いた文章の方に引き付けられていくんです。

こんな追体験を知ってしまったらもうおしまいです。私の辛い体験、苦しい経験、それら全てが、あなたが世に出したフレーズ抜きでは語り切れなくなってしまったんですよ。


確かに担当として私が先生とお会いできたのは偶然の要素が大きいかもしれません。でも、たとえ私が先生とお会いすることがなかったとしても、私が先生の処女作を読んだ時点で、もう私は先生と繋がっているんです。


こんなどうしようもない苦しさを抱えているのは1人じゃないって、先生が思わせてくれたんです。私だけじゃない。先生のSOSの周波数に共鳴して、便乗して、自身の生きる辛さをぶちまけることができた、熱狂的な累羅沙月信者の全てと、累羅沙月であるあなたとは、もう繋がってしまっているんです。ペンネーム、本当に良くお似合いです。先生が先生でいる限り、生きていて辛いのは当たり前なんですよ。


だから、先生

苦しみに向き合って、泣きながら叫びながら悶えながら、とにかく文字に起こしてくれませんか?


生きる辛さから逃げる勇気も無く、生きる辛さにどっぷり浸っている、貴族みたいな自意識から出てくる言葉を、お前が言うところの下界の人間にも聞かせてみやがって下さいよ。


ほら、早く。死ねないんだから。早くしろ。

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