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異世界にも、余生という概念がありました

 物思いにふけっていた優奈は


「優奈ー!」

 と家の外から呼ばわる声に我に返った。


「はーい!」

 と声を上げて応える。


 フウリーだ。

 フウリーは白黒の身体に今日は真っ青なチャイナドレスを身に着けている。うん、可愛い。パンダのぬいぐるみ感半端ない。


「絵、出来たよ!」


 フウリーも家が焼けてしまったため、この2か月は怒涛の家探し、お引越しであった。しかし、あの混乱の中でもスケッチブックは死守したらしく、記憶を頼りに優奈のスマホに入っていた写真を描いてくれた。今日はその絵を届けに来てくれたのだ。


 さして思い入れがなかった、住んでいた町の一角。


 虹の橋が遠い空のどこかに向かってアーチを描いていた。

 鉄筋コンクリートの町並みなど、こちらの世界では永久にお目にかかることはないだろうから、今となってはいい思い出である。


 ふと脳裏に、自分は虹の橋を渡ったのだなという思いがよぎり、優奈は絵をなぞった。


「優奈の家はどこ?」

「ここには入ってないんだ」


 場所としては家の近くだが、虹がある以外、本当に何気ない光景の1枚だ。

 だから次は高校の友人たちとの集合写真が欲しい。そうフウリーにおねだりした後、優奈はフウリーにも今年の大学受験は失敗したことを伝えた。


「そうすると、来年だね」


 とフウリーもラウレイと同じことを言う。


 フウリー自身は絵描きですでに生計を立てているつよつよ美女のため、大学に興味がないらしいが、


「普通は行くもの」

 という感覚はあるらしい。


 フウリーがいかないのは、

「やだよ、私、文字がまず嫌いだもん」

 ということだとか。


 絵に才能が降り切れているらしい。


 普通の話が出たついでに、


「こっちって普通、結婚するもの?」

 と優奈は尋ねてみることにした。フウリーはやはり同世代の女の子という印象が強くて、やはり尋ねやすい。


「私の世界だとね、あんま結婚しないってイメージがなかったの。結婚して子供生まれたら母親が家にいるってイメージもあったし、結婚してパートで働きながら子供を育てるって言うのが普通に生きるってことなのかなぁって」


 パートで稼げる額なんて知れているので、結婚相手が非常に重要な要素になる。だから大学でそういう相手を見つけたいと思っていた。それが賢いと思っていた。


「片方はバリバリ働いて、片方は子育てのためにずっと家にいるってこと…? うーん、あんまり聞かないなぁ。なんか養子をとってる異種族婚ぽい…それこそクジャクの衣装みたいな」


 あれは兎の獣人が、クジャクの獣人の子供を養子にして育てるので、結構、現実はその後、大変だったらしいのだ。


「そもそも、人を見るときに結婚してるかってあんまり気にしたことないなぁ…」


 相対している相手が種族的に、一夫一妻制とは限らないし、一生添い遂げる種族もいれば、季節のたびにパートナーを変える者もいる。フウリーも種族的に、一夫一妻制だが一生添い遂げるという意識は全くない。季節ごとにパートナー変更型である。


 だからこそ、一夫一妻で生涯を添い遂げる異種族婚が一種の特別なロマンスに映るわけで。


「こっちで優奈ちゃんが普通に生きてくっていったら――うーん、大学行って、大きな商会に勤めて、主任とか支配人とかじゃないかな。優奈ちゃんなら服とか小物のお店とか合いそう。センスいいし、手先器用だからいざとなったら自分で作れるし、接客だって得意そうだし、高級店に居そう。あ! 分かった。マダム・シーシっぽいんだ」


 マダム・シーシはフウリーがいつも着ているこの可愛いチャイナドレスを扱う店の支配人だ。カバの獣人なので、優奈ほど手先は器用ではないが、ネズミの可愛らしい店員や器用な猿の仕立て屋をうまく指揮して、お店を繁盛させていた。商会の主人からも信頼の厚い高級使用人である。


 優奈は主任やら、支配人やら、高級使用人やら、なんだか自分に縁のなさそうな言葉に目を白黒させた。そもそもそんな大きな商会に雇ってもらえるのか? という気分である。


「爪とか牙とかがないと不利だって聞いたけど…」


 フウリーは首を傾げた


「工場とか体力勝負のところはそうだけど、書類仕事に爪が要ることってそうそうないんじゃないかな。私、絵を描くのに邪魔だなって思う時があるぐらいなのに」


 それに、優奈は見た目と異なり長寿な種族だ。先代の地球から来た男性は、100歳を超えて生きた。フウリー達の一族で人生50年、アビゲイルのようなゾウや、鳥人間の中でも珍しい真っ黒なオウムの一族が人生100年と一族によって寿命にバラツキがある中、地球から来た”火を怖がらない人”は明らかに長寿の部類だ。


「え、そこ関係ある?」

「関係あるよ。すぐに居なくなっちゃう人より、長くいる人の方がやっぱり商会みたいなところだと出世する」


 なので、人生30年ぐらいを地で行く小柄な種族は、働き始めるのも早いが、あまり”偉い人”になっているイメージはない。


「結構、寿命が長い人って途中で仕事に飽きちゃうよね」

「そうなの!?」


 寿命を数十年残して引退し、余生を楽しむ長寿の一族は珍しくない。若いうちにそれなりに貯めこんでいるらしい。


(悠々自適な老後が異世界にあるとは…)


 自分の人生で、一番想定してなかったものかもしれない。


(よく考えたらこっちの方が家事も少ないし家も広いし外食しやすいし健康的だし、悪くないかもしれない…)


 最近、家事をラウレイに習っているのだが、手作業を覚悟していた洗濯は地球と変わらぬ全自動。掃除も地球と同じような掃除用具でさっさとやるだけ。むしろ床暖房完備並みに部屋の温度調整がやりやすい、謎の快適技術だった。外食メインのため、買いだしが少なくて楽すぎる。しかも食べているものは、オーガニックな健康フード。恋愛とSNSなしで構わないなら、悪くないどころか、良くなっている生活だ。


 ダイエット不要、人間は人間と言うだけで可愛い保証、”火を怖がらない人”特権で効率のいいバイトももらえる。なぜか動くぬいぐるみのようなパンダに抱き着き放題。


(あれ…結構よいかも…?)


 もはや帰ろうと思って帰れるものでもないし、ネガティブなだけ時間と精神力の無駄でもある。

 よし、大学行って洋服屋さんになろうと思う優奈だった。

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