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裏切り

「手荒な真似をして悪かったな」


 白い仮面をかぶったうちの一人が、サイに語りかけた。

 随分と声が若く、顔は見えないもののおそらくまだ十代の男性といったところか。

 もう一方は喋ることはないが、ちらちらとサイに視線を送っている。

 全身をマントで覆っているので、一回り小さいので、こちらは女性なのかもしれないとサイは推察する。


「あの……これから僕たちはどうなるんですか?」

「とりあえず指示がくるまではこのままだ。具体的には君には人質としてどのくらいの価値があるのかを確認して、それが分かり次第行動に移す」


 仮面の男はバンビを見ると、


「つまり君の身代金の要求額が決まれば、彼女を殺す……ということになるな」


 状況は先ほどから何も変わっていない……ただ、先ほどの男たちとは違い、安易に暴力に走ることはないだろう。交渉の余地はあるかもしれない。

 ……いちかばちか、賭けに出るか。

 サイは右袖からニニエロから預かった紐を引きはがし、仮面の男にみせつけた。


「この紐、実はここに転移する前に、王国騎士団の第捌分団長から預かったものになります。その分団長の而力(リューン)が込められていて、この紐の所在地が分かる仕様になっています。これがどういう意味だかわかりますよね?」

「行方不明になった君を探しにその分団長がここにやってくる……と言いたいのか?」

「そうです。そして今回は王の盾(キングブレイド)の称号を持つウーテ王国最強の騎士ゴウマや第壱分団も近くに来ています。はっきり言いいますが、圧倒的な戦力差です」


 仮面の男は小さくため息をついてから口を開いた。


「……回りくどいな。単刀直入に言いなさい」


 意を決してサイは攻めの一手を選択する。


「僕とバンビ様を無事に解放してください。そうすればあなた方のことは決して口外しません。仮にあなた方が途中で王国騎士団に捕まってしまったとしても、可能な限り減刑するよう口添えさせていただきます」


 仮面の男はサイの目をじっくりと見つめながら、おもむろに笑い声も漏らし、拍手を始めた。


「本当に君は五歳か? この状況でここまで交渉できるのはなかなかの度胸だ。さすがはダマスマス開発のご令息だ……ここで失うには惜しい存在だ」

「じゃあ――」

「――だが、残念ながらその提案には乗ることができない」


 理由は……と仮面の男は懐を弄りはじめた。

 そして小さな布きれのようなものサイの目の前にを取り出した。

 紫色の小さな紐……それはサイが手にしているものとほぼ同じ形をしている。


「君はまず、どうして王女様が使った転移の而術(リュニ)に巻き込まれて、ここに来てしまったのか、というのを頭に入れなければいけなかった。転移が失敗したのではなく、転移の而術(リュニ)の中に別の而術(リュニ)を構築し、転移先を変更し転移対象者を増やしたのだと判断できれば、おのずと答えは出るだろう」


 サイが答えを口にするより早く、バンビが大きく罵声をあげた。


「やっぱりあいつかニニエロ! あの腐れ外道が!」


 バンビは思わず立ち上がり仮面の男に近づこうとしたが、もう一方の仮面の女に抑えられ、ジタバタと体を揺らした。

「全部あいつが手を引いていたんだ。最近第一王子の側近と密に連絡とっているという噂を耳にしていたから間違いないわ! 第一王子と組んで私を出世の踏み台にするつもりだったんだクソ! 今思えばママが殺された時だってそうよ、ママが死んで一番恩恵を受けたのはニニエロじゃない! 平民の出なのに、今や分団長の席にちゃっかり座っちゃって本当に許せ――」


 パチンッ、と弾ける音が響く。

 仮面の女がバンビを頬を叩いたのだ。


「――黙りなさい。あなたに一体何が分かるというの! あの人は――」


 もう一度手を大きく上げると、今度は仮面の男がそれを制する。


「やめろ、余計なことは言わなくていい」


 仮面の女は「ごめん」と小さく頷き、バンビから手を放すと、バンビは嗚咽を漏らしながら床に突っ伏した。

 その様子を遠目に見つめながら仮面の男はサイに話しかけた。


「これで分かっただろう。私が君の提案に乗れない理由が」

「……はい」


 仮面の男女とニニエロは繋がっている。

 つまり、どんなに時間が過ぎようと――ここに助けは来ないのだ。



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