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バンビ③

「今思うと、私にも反省すべき部分はあるのよ。ちょっと調子に乗りすぎたってね」


 バンビが生まれた時のこと、開国の祖バルザスと同じ配色の異なった虹彩を持つ両目だったことから、すべてが始まったという。

 バンビの母、ミルカは平民の出身でありながら高い而力(リューン)を持つことからガルニーデ王の四番目の側室として召し抱えられた。

 ここ数百年はすべて王族の分家や他国家の有力者な子女の中から比較的而力(リューン)の高い者から側室が選ばれていており、三番目まではそれに倣っていた。

 しかしどういうわけか、バンビの四人の兄姉は、そのほとんどがおよそ五〇〇〇ほどの而力リューンしかなく、領民としては十分すぎる力を有しているが、王として次代を継ぐには物足りなさがあった。

 そのため急遽、平民ながらガルニーデ王を超える而力(リューン)の持ち主であるミルカが選ばれた。


「そして私が生まれ、同時に母は亡くなった。出産による失血死ということで落ち着いたけど……」


 ――本当は違う。バンビは震えて声を出した。


「母は出産翌日、賊によって腹を裂かれて殺された。まだ確定はしていないけれど、四人の兄姉に関わる誰かの仕業だと思うわ。平民出身の側室の子がもし高い而力(リューン)を持って生まれてきたら、自身の立場を追われるかもしれないと。現に私も殺されそうになったしね。たまたま周囲の護衛をしていた騎士が、異変に気づき難を逃れたわ。それがあのニニエロ。この事件をきっかけに、平民出身の新兵卒だったニニエロは、而力(リューン)が比較的多いということもあって、すぐ分団長の地位まで上り詰めたわ。ほんとちゃっかりしてるわよアイツは」


 想像よりはるかに重い話を聞かされたサイの額から汗がこぼれた。


「……バンビ様は、生まれた瞬間から記憶があるんですか?」

「えぇそうよ、あなたに言っても分からないでしょうけど、私は本当に特別なの。だからこそ私は、死ぬまで自分がやりたいように生きることにしたの。大人がそんな卑怯な手を使うのであれば、私もとことん我が儘に生きてやろうってね」


 その後は噂にもなってるくらいだから説明は省くわ。とバンビは自嘲気味に笑った。


「……僕もなんです」

「――え?」 

「僕も、生まれた瞬間から記憶があるんです」


 正確には生まれる前、前世からの記憶を引き継いでいる。

 身体中をめぐる熱。

 白くぼやけた視界。

 気が付くとサイはこの世界に転生していた。

 もしかしたらバンビ様も転生者なのかも知れない。

 だとしたら。

 そうだとしたら――。


「やっぱりアンタと私は似てるわね。もしかしたら而力(リューン)を脳みその発達に力を使って空っぽになっちゃったとかそういうオチかしらね。でもその話を聞けて良かったわ。これでアンタを私の従者にすることが確定したんだから」

「……従者?」

「そう、従者。奴隷と言い換えてもいいわ」

「はぁ? なんでそうなるんですか!」


 突然の従属命令にサイは混乱した。

 似た者同士として少し情が沸いてきたというのに一気に現実に戻された。


「いやだって私、本当にめちゃくちゃしてきたからさ。これで而力リューンが雀の涙ほどしか無いってなったら……きっと殺されると思うのよ。使用人はもちろん私のこと心底嫌ってるだろうし、お父様だってバルザスの生まれ変わりって信じきってるから、その落差で一週間は寝込むと思うわ」

「さすがに殺されるとは思えないのですが……」

「そうかもね。でも少なくとも今迄みたいに我が儘放題しても許されなくなるなるわ。せっかく王女に生まれたのに、残りの人生慎ましく生きていかなきゃいけないなんて最悪じゃん!」


 それはほぼほぼ自業自得ではないか。と突っ込みたくなったがあえてその言葉を飲み込んだ。

 そんなことよりも気になることがあるからだ。


「……僕は関係なくないですか?」

「何言ってるのよ。アンタだって而力リューンがスカスカなんでしょ? だったら絶対に親に捨てられるに決まってるわ。大人ってそういう生き物なんだから。そこから救い出してあげようという私の好意が分からないのバカなの? 万死なの?」

「いや、自分で言うのもなんですが、僕は親に愛されている自信も自覚もありますし、何より今日までバンビ様と違って品行方正に生きてきました!」

「はぁぁぁぁ!? 何それ私のこと馬鹿にしてんのまぢ万死なんだけど、そんなひどいこと言われたの生まれて初めてなんですけどー!」

「そのまぢ万死って口癖ですかそれ? 絶対やめた方がいいですよ、きっと周りから影で『万死ちゃん』とか言われて馬鹿にされてますよそれ」

「キィィィィむかつくー! もういい助けてあげようと思ったけど、もう私一人でいくからね!」


 そう言ってバンビは着ていたドレスから手のひら大の四角い塊を取り出した。

 その見た目はルービックキューブによく似ていた。


「これは転移の而術(リュニ)にが書き込まれた特殊な斐綾鉱(マダイト)よ! 少しでも而力リューンを込めれば、使用者と使用者が直接が触れている物を指定の座標に転移することができるのよ。ニニエロは、工場の抜け道とかから抜け出すとか想像してたんでしょうが、この私がそんなしょっぱい逃げ方すると思う?」

「……そうですか。で、どこに逃げるんですか?」

「商人の国ユウソク共和国よ! 自由貿易で栄えたあの国なら、民衆に紛れるのも簡単だし、何より宝物庫から盗み出した宝石類を売り払えば、私だけなら一生遊んで暮らせるわ。どうこの完璧な計画、今更謝っても連れて行ってあげないからね!」


 もう好きにしてくれというのが正直な感想だった。

 転移の而術(リュニ)を使われたら、サイではどうしようもできないし、その責任も全てニニエロが被ることになるだろう。

 それになによりその図太い性格ならば、他国でも生きていけるだろう。少なくとも殺される可能性があるこの国で慎ましく生きるよりも、彼女らしい人生を歩めそうだ。


「……もうすぐ三〇分経ってニニエロが探しに来る。そうなると面倒だからもう行くわ」

「はい、一応経緯だけはニニエロさんに伝えておきますね。追いかけてられても僕のせいにしないでくださいね」


 わかってるわよ、というと彼女は四角い斐綾鉱(マダイト)に意識を集中する。


「バイバイ七光り」

「お達者で……万死ちゃん」


 彼女の体が足元から透けていき、ゆっくりと姿が見えなくなった。

 

「ふぅ……まぁ仕方ないか」

 

 サイはそう言って部屋から出ようとするが、どういうわけか足が動かない。

 足元を見ると、先ほどのバンビと同様に足元が透けていて見えなくなっていた。


「え、嘘だろ……触れている物だけ転移するんじゃ――」


 サイもまた部屋から姿を消した。



∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞



「うぉぉぉぉすげーな本当に来ましたよ兄貴!」

「あぁ、たまには人のいうことを信じてみるもんだなぁ……」


 サイの視界に入ってきたのは、丸々と太ったみすぼらしい大男と、顎に長い髭を蓄え、右目に黒い眼帯をした筋肉質の男だった。


「ウーテ王国領第五王女、バンビ=ウーテ様と、ダマスカス開発社長のご令息、サイ=ダマスカス様……無事に誘拐完了しました~っと」


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