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乱戦

 無事合流を果たしたサイ、ニビ、ラクレー。

 だが、その様子をに遠くから見つめる男がいた。

 大きな狙撃銃を構え、スコープで3人を捉えている。

 男は偶然にもこの仮想領域において一番高い建物の中に転送されたため、誰よりも早く高台に位置することができ、索敵に時間を割くことができた。

 ラクレーについても早い段階で見つけることができたが、而生獣(リュニオ)から逃げ惑う彼女をみて、貴重な一発をここで使うのはもったいないと判断した。

 その結果、三人を一気に仕留められる好機に巡り合えたのだから、自分の判断は正しかったのだと心の内で喜んだ。

 ここで決めれば、自分に対するアグニミリア様の評価があがる。

 それはつまり未来のハァト帝国において、自身の立場がよりよくなることを示している。


「――アグニミリア様。サイ、ニビ、ラクレーと思われる人物を確認しました。合流したばかりのため油断しているようです。今なら三人まとめて退場させることができます」


 スコープから目をそらすことなく、男はトランプ大の一枚の黒いカードを口元に寄せ声を発する。

 すると数秒後――


『……やれ』


 短いが明確な指示がカードから発せられる。

 それを合図に男は狙いを定める。

 まずは奇跡的に抱き合っているニビとラクレーを狙う。

 これなら一発で二人まとめていける。

 そう確信し、男は静かに引き金を引いた――――つもりだった。

 引く直前に、痛みすら感じないほどの鋭く素早い一撃が男の意識を奪った。


『……どうした。返信をしろ』


 黒いカードから声がする。

 だがその時には男は仮想領域から姿を消していた。

 その代わりに、男を一撃で屠った者がカードを拾い上げる。


「……あんたがアグニミリアよね?」

『……貴様は、バンビ=ウーテかッ!』


 バンビはにやにやと「大正解~♪」と笑う。


「にしてもあんたの而術(リュニ)便利ね。スマホみたいじゃん」

『スマホ? 貴様は何を言ってる?』

「あ、それはこっちの話。とりあえずアンタの部下は何もできずに退場したから。これはもう無能な上官のせいよね」


 完全に煽ってきている。

 アグニミリアもそれは分かっているが、いつも通りに冷静に対処ができなくなっている。

 それは相手がバンビ、絶対的な信頼関係を築き上げてきたルルルを奪った人物だからだ。


『そこで待ってろ――今すぐ殺しに行ってやるッ』

「あらやだ怖い怖い……じゃあ逃げなきゃね」


 バンビはカードを強引に折り曲げ床に叩きつける。

 そして狙撃銃のスコープをのぞきこみ、あえてサイ達に向けて引き金をひいた。

 バシュっと小さな音を立て飛び出した銃弾は、サイの足元に突き刺さる。

 突然の攻撃に慌てるサイをスコープでのぞきながら、バンビはケラケラと笑う。


「油断してんじゃないわよバーカ」


 そしてバンビは移動を開始した。


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 一方その頃、仮想領域内の北東部、自然豊かな森林公園エリアにで大量の而生獣(リュニオ)から必死に逃げる男がいた。

 コルト=ドクホリデイである。


「ぎゃびぃぃぃ誰か助けてぇぇぇぇ! こんなに而生獣(リュニオ)がいるなんて聞いてないよ」


 いくら逃げても、いくら隠れても追いかけてくる而生獣(リュニオ)

 それは上空で烏が鳴いて位置を教えているからなのだが、それに一切気が付かないコルトはただただ走って逃げている。

 

「ガルァ!」

「ぎゃー痛いぃぃぃ!」


 犬型の而生獣(リュニオ)に足を噛みつかれると、コルトは走った勢いのまま盛大に転んだ。

 足をジタバタと動かしなんとか口を外したが、その隙に人型の而生獣(リュニオ)がコルトの周りを囲んでおり、逃げ道はなくなってしまった。


「そんな……終わりだ」


 うなだれるコルト、だがあまりに大げさに騒いでいたため、とある幸運を引き込んだ。


「――白而第弐號ノ壱……『飛白撃(フィオラダン)ッ!』」


 無数の白い翼が辺りの而生獣(リュニオ)を切り刻んだ。

 そしてコルトの真上から、ハクバがゆっくりと降りてくる。


「ハクバぐぅ~ん! 怖かったよー!」

「怖かったじゃない! 戦えバカこいつらはそこまで強くないぞ!」

「そんなこと言われてもーいっぱい来たら無理だよー!」

「じゃあこいつは一人で倒せよ。もう一体は俺が倒す!」


 二体のオーク型の而生獣(リュニオ)が二人を挟むように立ち塞がっている。


「ひぃ……でかい」

「ビビるな。俺もこのレベルがを二体同時に相手取るのは難しい!」

「えぇでも……」

「うるさいだったらもう助けないっ!」


 ハクバはそう言って、一体のオークに向かって走っていく。

 ハクバは持っている大きな斐劔(マギ)で切りかかるが、オーク型はそれを手に持った斧で防ぐ。

 それも予想していたのか、とにかくハクバは手数でオーク型を押し込み、ひたすら斬撃を繰り返す。

 而術(リュニ)を使えばもっと楽に戦えるが、而生獣(リュニオ)に対して限られた而力(リューン)を使うのはもったいないという判断だろう。

 おそらく当分は助けてもらえないはず……とコルトは残るもう一体のオーク型をみる。

 両手に巨大な棍棒を持ち、ぶんぶんと振り回している。

 上腕二頭筋だけでもコルトと同じぐらいの大きさだ。


(いやいや無理無理無理無理! こんなの僕じゃ倒せないよ)


 コルトは、腰に付けたホルスターに手をかける。

 そこには小さくリボルバー式の拳銃がある。

 体が小さいコルトは、大きく重い狙撃銃を扱うことができない。

 唯一使えるのがこの拳銃なのだが、而力(リューン)を込めて弾丸を精製するのだが、最初から而生獣(リュニオ)に追われていたコルトには、弾を作る時間的な余裕がなかった。

 いや、仮に時間があってもオーク型のような大きく屈強な肉体をもつ而生獣(リュニオ)には通用しなかっただろう。


「グオォォォォォ」

「ひぃぃぃぃ」


 オーク型が雄たけびをあげると、コルトは腰が抜けてその場で尻もちをついてしまう。

 当然そんな好機を見逃すことなく、オーク型はコルトに向けて棍棒を振り下ろす。


「コルト!」


 もう一体のオーク型を倒したハクバが駆け付けようと声を上げたが、もう間に合わない。


「うわぁぁぁごめんなさいぃぃぃ! なんもできなかったぁぁぁ」


 あと少しでオーク型の棍棒がコルトにぶつかるタイミングで、何かが超スピードで駆け抜けた。


「――!」


 あまりに一瞬の出来事でコルトはもちろんのこと、その様子を見ていたハクバすら状況を理解できなかった。

 ただ、目の前には見えるのは、棍棒も含め、上半身が消えて無くなったオーク型が死骸であった。


「あっれぇぇぇ? もしかして仲間かもしれんと思って助けたけど、敵じゃんやっちまったわ」


 失敗した―と笑う男を、コルトとハクバはただ茫然と見つめる。


「えっと君は確かハクバだよね……。サイの友達をやっつけるのはあんまり気が乗らないけど、まぁゲームなんで許してくれ」


「……七色彩明虹の英雄(エロイナアルコイリス)


 コルトとハクバの前に、ヨノスケが立ち塞がった。


 

 

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