ニビ③
「あばばばばばばばば」
『口を閉じろサイ……唾が飛ぶ』
ニビの而術により自身が体感したことのない速さで空へと投げ出されたサイは、襲い来る加速度の波に逆らえずにいた。
約1キロの距離を最速かつ最短距離で行くにはこれ以上の方法はないが、予想よりもはるかに体に係る負担が大きい。
当然風を切る轟音でニビの忠告も耳には届かない。
半分を過ぎた頃、やっと目を開けるくらいの速度に落ち着いたが、それでも景色の移り変わりを楽しむ余裕はない。
(というか、これ……どうやって止まるの?)
あっという間に超スピードの空の旅は終わりを迎えそうな時、サイの脳内にふと疑問が浮かんだが、それと同時にニビが而術を展開する。
「甲鐵ノ蜘蛛絲」
ニビの掌から細い糸状のなにかが八方に広がるように射出された。
それぞれの糸が建物に絡みつくように張り付き、それぞれが自らの意思で編み込んで行くかのように絡まり合い、目の前に巨大な蜘蛛の巣が現れる。
二人はその蜘蛛の巣に吸い込まれるように飛び込んでいくと、完全に勢いは相殺され無事に着陸することができた。
「すご……」
サイは思わず声が漏れた。
ニビが鉄を操る藍系統の資質を有している。
比較的この系統の資質を持つ者は多いのだが、ほとんどが決まった形の物しか生みだせない。
サイもよく知る藍の資質を持っている者にナエがいるが、彼女は鉄の鎖しか生成することができない(その分、発動速度や強度が優れているが)。
しかしニビはこの短時間で、槍、バネ、そして糸を生みだし、それぞれ適した硬度の鉄を生みだし、それを器用に合わせて形にしている。
幅広い知識と、それを臨機応変に生み出す対応力。
ゴウマやバンビといった「考えるな、感じろ」タイプな人間と多く付き合ってきたサイにとっては、ニビはあまりに新鮮で、かつ心強い存在に感じた。
「烏は……いた」
サイの心の動きなど知らないニビは、近くでに飛びながら叫んでいる烏型の而生獣を指さした。
ここからだと目測で100メートルと離れていない。
「あの下にミュケー姉妹のどっちかがいるってことでいいのか」
サイは、その而生獣の下方に意識を集中してみる。
一つの大きな而力の気配と、それを追いかけるように小さな而力の気配が複数感じられる。
「間違いない! でも而生獣に追われてる」
「――了解!」
二人は屋根をつたい、ガァガァと声を上げる烏に向かって走る。
幸いなことに而力の反応もこっちにむかって逃げてきているようで、すぐにぶつかった。
「きゃああサイサイにニビ太郎ー助けてー!」
「……あれはどっちだサイ」
「……えーと」
髪を二つにまとめて、部分的に青い前髪を揺らし、泣き顔で逃げてくる彼女を見ながら、
「あれは、ラクレーの方!」
「よし――ラクレー! 5秒後にしゃがめ!」
「え、えっ? 5秒?」
「5……4……3……2……1――」
ラクレーがしゃがむと同時に、ニビの手から鉄の糸が網目状によく飛び出した。
一本一本が先ほどサイとニビを受け止めた糸よりも太く、そして大きい。
きっとこれは而生獣捕獲用の而術だとサイは瞬時に判断した。
ニビが生みだした鉄の網に絡まり、ラクレーを襲ってきた而生獣達はバタバタと転んだ。
それでも強引に体を動かし、而生獣達は網を破ろうとするが、ニビはそれも予測していたようで、そこから糸の一本一本から棘のような鉄を新たに生成し、而生獣に突き刺すのと同時に地面に固定する。
これで完全に動きが止まった。
「きゃあああニビ太郎ありがとー! ラブリーチュッチュー!」
ラクレーはニビを思いきり抱きついて頬に軽くキスをし始める。
ニビはそれを無表情で受け止めていた……というより体が硬直していた。
「あ……やめろ、そういうのは……夫婦になってから……する、ものだ」
「えーじゃあ結婚するニビ太郎」
「……やめてくれ……頼む……助けて……サイ」
顔を真っ赤にしたニビがサイに助けを求めた。
更新遅くなりすみません。
8月はいろいろと忙しくて……マイペースに更新します。
よろしくお願いします。




