ニビ②
「それでどうするつもりだ。ここにいればよっぽどのことがない限りやられることはないが……」
路地裏で合流したサイとニビは、改めて現状を確認する。
「相手がもしこの状況を想定していたとしたら、このままだと僕たちが負けるね」
「だろうな。なぜならこちら側には単独だと戦力にならない者が三名いる」
ニビは指を3本立てる。
「一人目はルルル=バーフアリー。彼女は対象を強化する素晴らしい而術を使えるが、それを自分に付与することはできない。そして単独では間違いなく最弱だ。汎獣級でもまともに勝てるかどうか分からん」
「うん、そしてもう一人……というか二人はミュケー姉妹。2人揃えばバンビにも負けないくらい強力な色々而術を使えるが、単独だと正直心もとない。なので一人戦闘不能になった時点で実質2人ともリタイアになる」
「そうだ。そしてなにより気がかりなのが、今回お前が立てた作戦において、この3名はかなり重要な役割の担っていた……ということだ」
さて、どうする? といった仕草でニビはサイに投げかけた。
ニビの言う通り、今回サイが考えた作戦はこの三人ありきの作戦だった。
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「作戦は至ってシンプル……最初の一撃で相手を全滅させる!」
講義室に集められた5名(サイを含めると6名)に、サイは堂々と宣言した。
「はぁ……それができたら最初からこんな話し合いは無駄なのだが」
ニビは大きくため息をついたが、まぁ聞いてやるよといった態度でサイを見る。
「もう少し噛み砕いて説明すると、ルーちゃんの対象を強化する而術をミュケー姉妹に使ってもらい、そして二人は持てる而力をすべて使って色色而術を唱える。而力に上限がある今回の虚空交鋒では、これが最強の一撃になる」
突如指名されたルルルは「ひぃ……私が損な大役を……できるかな」と縮こまったが、ラクレーピクレーの二人は「「オッケー」」と満面の笑みを浮かべた。
しかしニビは納得していない。
「最強の一撃……というのは同意するが……」
ニビは、大きくため息をつく。
「当たらなければ意味がない。しかも一か所にまとまってるタイミングとなると、虚空交鋒開始直後ぐらいしかないのだが……」
「ご指摘のとおり、僕もそのタイミングしかないと考えてる」
「……つまりお前は、開始すぐに相手の位置を把握できる術があるということか」
サイは大きく頷いてみせる。
「……僕は他人の而力を借りて使うことができる」
「――っ!」
ニビだけではない、ミュケー姉妹もまた驚いている。
「……それはそういう而術を使えるということか、それに相手の同意の有無などはあるのか」
「相手の同意は必要ない、ある程度近い距離にいれば僕自身の意思だけで他者の而力を使うことができる」
「……反則過ぎて返す言葉もないのだか」
「確かに反則かもね。まぁその副作用的なものなのかな、僕自身には而力はほぼない」
「……だがお前が他人の而力を使えるのと相手の位置を特定できるのは別の話なのだが」
「まぁそうだね。でも他人の而力を使うことができるという能力の副産物なのか、而力の気配に敏感なんだ。なのでそれはある程度距離が離れていても大体この辺に人がいるとか而生獣がいるっていうのは分かる。正直対象の而力が少なかったりすると分からない場合もあるが、最大一万の而力がある程度かたまっていれば行動していれば確実に位置を特定することができる」
サイの説明を聞いてニビが考え込んだ。
その間にミュケー姉妹が二人同時に手を上げた。
「だったら私らじゃなくて、サイ君がみんなの而力かき集めた方が強くね?」
「そそ。んでルルルっちににパワーアップしてもらったら最強じゃね?」
「そうだね。でも僕の力にも制限はあって、而力を借りられる人数には限りがない……少なくとも二桁くらいまでなら大丈夫なんだけど、一人当たり多くて2000くらいしか借りられないんだ。だからチームが一丸になって而力を借りられても最大16000。二人で2万の方が強い攻撃ができる。あと僕はゴリゴリの近距離タイプなので、遠距離攻撃が苦手……というかできないっていうのもあるけど」
サイの説明を聞いてミュケー姉妹は納得したようで「「オッケー」」で大げさに手で丸を作って見せた。
「……で、ニビ。これまでの説明をきいて納得できないことはある?」
ニビは小さく咳ばらいをする。
「……最後に一点確認したい」
「どうぞ」
「その攻撃が有効なのはわかったが、確実に全員倒せるとは思えない。おそらく最低でも三名は残るだろう。そいつらはどう処理する」
「ふふ……そんなの決まってるじゃないか」
サイはある人物を指さす。
そこにいたのは会話に混ざれず、机に突っ伏して寝ているヨノスケだ。
「うちの最強の駒が暴れまくる。遠距離狙撃の可能性はほぼなくなっているからね」
サイが笑顔で答えると、ニビもうっすらと口元を緩めた」
「……了解した。協力しよう」
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「――ラクレーとピクレー……ミュケー姉妹の合流を優先しよう」
サイは意を決して口を開いた。
「それは、こんなに而生獣がいる中でも見つけられる方法があるということだな」
「あぁ、さっき戦ってみて分かったけど、而生獣の数は多いが、一体一体はそこまで而力がを持っているわけじゃない。人と而生獣の区別はつく。それに今回は上に目印がある」
顔を上にあげると、鴉のような而生獣がカァカァと大声でわめいている。
「あいつは今回の参加者を見つけた場合、声をだして而生獣を呼び寄せているんだろう。なのであいつを追えば、視覚的にもすぐわかる」
「だがそれでは他の参加者と区別はつかないと思うのだが……」
「……大丈夫。ミュケー姉妹は道具の持込みをしていないから而力が一万ある。うちのチームではバンビとミュケー姉妹だけだ」
「ハァト帝国の奴らも一〇〇〇〇残してる奴はいるだろう」
「いや……いない。いても一人か二人。しかも単独で戦えるレベルの強い奴だけだ」
「……その根拠は」
「根拠はない……でもあっちは参加者がランダムに配置されることを想定していたと思う。僕はバカだったから気付かなかったけど、今思えばたくさんヒントはあったからね」
「……相手がこの状況を想定していたとして、どうしてそういう決断になるんだ」
「――ヨノスケがいるから」
「――っ!」
ニビもサイが考えていることに気が付いたようで、思わず息をのんだ。
「単独でヨノスケと戦えないので、間違いなく銃火器を持ち込んでいる。そしてランダム配置と想定しているのなら、誰か一人を捨て駒にして道具を持ち込ませるような方法はとらない。つまり而力が一万の参加者はいないと判断できるわけか」
「でもあっちの代表のシナーク君は持ち込んでないような気がするから、十分気を付ける必要があるけど、彼ならおそらく上でちょろちょろしてる而生獣は真っ先に処理すると思う。だから残るはうちの味方だけ。上から見て鴉型の而生獣がいて而力が多い人がミュケー姉妹のどちらかだと思う」
サイの説明に納得したニビは、上を見上げた。
その頭と行動の切り替えの早さにサイは心が震える。
自分がはいちいち説明しなくても今何をすべきか瞬時に判断し行動できる。
今までここまで僕の考えを汲み取ってくれる人いなかったなぁ……と少し涙目になっていた。
「空からの捜索だな……任せろ」
「なにかあるんだね」
「調整に30秒ほどかかる。その間両側から攻めてくる而生獣を何とかしてくれ」
ニビが地面と上空で鳴く而生獣を交互に見始めるのと同時に、路地の両側から犬型の而生獣を筆頭にどんどん距離を縮めてくる。
「そういうのは一番得意だ。悪いけどニビの而力を借りるね。」
「了解……2000までなら好きに使え」
サイはニビの肩に手を置く。
そしてあと少しで犬型が襲い掛かってくるその瞬間に――。
「熱くないけど炎が出るからね――赤!」
サイとニビを中心に包み込むように大きな炎が立ち上がる。
襲い掛かってきた犬型はそのまま炎に焼かれ、ある程度距離が離れていた人型は近づいてこない。
「炎の中にいるのは初体験だ……これは私の而力を使っているから効かないということか」
「そういうこと。これならあいつらは近づいてこれない」
「…………よし、準備ができた。而術を解除しろ」
サイが赤を解除すると同時に、ニビは而術を唱える。
「甲鐵ノ反撥鋼」
地面がニビとサイを中心に少しだけ陥没する。
そしてギギギと鉄が軋む嫌な音が耳に入る。
「しっかり掴まっていろ……3、2,1――」
陥没していた地面は突如として跳ね上がり二人をそのまま上空まで吹き飛ばす。
距離を測っていたのか、目の前には鴉のような而生獣がいる。
「サイ――!」
「――分かってる」
サイは而生獣の掴んで動きを止め、斐劔で両断した。
そのまま建物の屋上に着地すると、思っているより多くの鴉型の而生獣が飛んでいる様子が伺えた。
何匹かは鳴いている。
きっとその下に参加者の誰かがいる。
「ミュケー姉妹はどこにいる!」
サイはニビに言われるよりも前に而力の気配を探る。
最も多くの而力を有していて、鴉型が鳴いているところ……。
「……あった。ここから東に1キロほど先だ」
サイが指さすと、ニビは再び手を地に着ける。
「一キロ……ならさっきよりかなり強めに行く……下を噛まないように歯を食いしばっておけ」
「了解!」
地面は先ほどよりも大きく歪み、二人を飲み込む。
金属が軋む音が先ほどよりも大きく、そして激しい。
「――甲鐵ノ反撥鋼ッ!」
ニビの声とともに、解放された地面は二人を押し出すように跳ね上がり、先ほどよりも強い力で東へと跳んで行った。




