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ニビ

 よく考えればこの状況は予想できた。

 むしろ予想できていなければならなかった。

 ニニエロの設定した虚空交鋒(アロンギーク)の規定をアクシデント等を排除してそのまま運用した場合、『味方全員が武器・道具の持込みをせず、而力(リューン)を消費することなく、制限時間まで逃げに徹する』が最適解だ。

 だからこそ、それができない状況を作り出さなければいけない。当然のことだ。


「くそっ……敵への対策ばかりに目を向けて、ニニエロについてはほぼ何も考えていなかった」


 サイは迫りくる数体の而生獣(リュニオ)から逃げながら、挽回の策を練る。

 追いかけてくる而生獣(リュニオ)には数パターンの種類がある。

 一番多いのがほぼ人型の形状をした全身黒い体毛で覆われた個体。

 足はそこまで早くないが、まとまって襲ってくると物量で一気に攻め込まれる。

 その次に多いのが同じく黒い体毛で覆われた犬のような個体。

 こちらは逆に足が速く、対象を発見次第とにかく我先に襲い掛かってくる。

 この犬型の而生獣(リュニオ)に足止めをされると、人型の而生獣(リュニオ)が一気に押し寄せてくる。

 そして個体は少ないが、成人の3倍はありそうな巨躯でズシンズシンと音を立てながら歩いてくる而生獣(リュニオ)

 顔の作りは豚で、体つきは筋肉隆々としてい、その上、斧や棍棒のような武器を手に持っている……ファンタジー小説や漫画でよく出てくるオークのような個体だ。

 人型と犬型は汎獣級(ハオクライス)而生獣(リュニオ)だろうが、このオーク型の而生獣(リュニオ)害獣級(ゲオクライス)だろう。

 一対一なら対処できるだろうが、他の而生獣(リュニオ)と一緒に来られるとかなり手強い。


「だけどそれ以上に……」


 サイは空を見上げる。

 そこには一話の鴉がいた。

 いや鴉に見えるだけでこいつも而生獣(リュニオ)なのだろうが、とにかくこいつが厄介だ。

 この而生獣(リュニオ)は攻撃してくるわけではないが、常に僕の上空で旋回しながら付いてくる。

 そして大きな鳴き声で、他の而生獣(リュニオ)を呼び寄せてくる。

 攻撃しようにも上空、しかもある程度距離をとっているため、正確に狙いにくい。

 ある程度而力(リューン)を込めて公課範囲を広めて而術(リュニ)を放てば倒せないこともないだろうが、それは而力(リューン)を消費させたいニニエロの思惑どおりなのだろう。


「本当に性格悪いなニニエロはっ!」


 サイは路地裏に逃げ込んだ。

 それを犬型而生獣(リュニオ)が二頭まとまって追いかけてくる。

 ある程度入り込んだところで、反転し両手に持った斐劔(マギ)で腹部を突き刺した。

 暴れている而生獣(リュニオ)を足で抑えていると、遅れて人型の而生獣(リュニオ)がわらわらと路地裏に入ってくる。


「悪いけど……君たちの而力(リューン)を使わせてもらうよ」


 人型の後方にオーク型が侵入してくる姿を確認すると、サイは串刺しの犬型ごと斐劔(マギ)を振り上げた。


(キルクヌイ)っ!」


 犬型をそのまま炎が包み込み、そしてそのまま斐劔(マギ)を振り下ろすと、二筋の炎が人型を切り裂きそしてオーク型の腹部に直撃し倒れこんだ。

 犬型と人型は完全に燃え尽き動きを止めたが、オーク型はむくりと起き上がりサイを睨みつける。

 腹部は赫の傷跡と大きな火傷を負っているが致命傷ではないようだ。


(高火力の赫とはいえ汎獣級(ハオクライス)而力(リューン)じゃ倒しきれないか……くそっ)


 このままとどめを刺すため駆けだそうとした時、反対側から誰かが入ってくる音がした。

 振り返ると、参加者の一人が、犬型と人型を数体連れてきている。


「お前は――サイ=ダマスカス!」

「君は――ニビ! 良かった無事で」


 両者ともに安堵した。

 ここで出合い頭に相手チームの誰かと出くわしたら、おそらく両社ともただ事では済まない。

 両者ともに倒れるならまだしも、この序盤で一方だけ戦闘不能になったら明らかに流れが傾く。


「サイ=ダマスカス……そっちのオークはいけるのか」

「いける! ニビの方は!」

「……余裕なのだが」


 サイとニビはお互いに背中を合わせた。

 一方はオーク型。

 もう一方は大量の犬型と人型と相対する。


「悪いが手負いのオークなら而力(リューン)を使うまでもない」


 サイはオーク型へ突撃していく。

 オーク型もそれに気づき、手に持った棍棒を振り上げる。

 だが振り下ろすよりも前にサイの二振りの斐劔(マギ)がオーク型の首を捉え、そして跳ね上げるように分断した。


「……甲鐵ノ三叉槍(フェルムトリア)


 ニビの手元から瞬時に三叉槍が生成されニビは右手でつかみ左手で支えるように構える。

 そして倒れそうなくらいに後ろに体を反らし、その反動で三叉槍を投げつけた。

 そのスピードは銃にも引けをとらないくらい初速で、一直線に迫ってきた而生獣(リュニオ)の群れは抵抗する暇もなく、ただただ鉄の錆へと変貌していった。


「これだから単細胞は……嫌いなんだ」




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