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開戦

 虚空交鋒(アロンギーク)当日、新入生18名は講義棟の一角に集められた。

 そこには赤と白で塗り分けられた椅子が各9脚あり、その傍らにニニエロはいた。


「おはようございます。集合時間5分前に全員集合とは素晴らしいですね」


 ニニエロがにこやかに語るも、空気はぴんと張りつめている。

 ニニエロを挟んでシナークチームと、サイチーム9人が相対するように並んでいる。

 その中でも特にイライラしているのがアグニミリアである。


(ここまで徹底してやるとは想定していなかった。ダマスカス開発のお坊ちゃまが……)


 そう考えるのはサイチームのうち7人が、先の而生獣(リュニオ)討伐で使用した強化服を着ていたからだ。

 事前に申請した武器や道具は、仮想空間に映ったタイミングで反映されるため、ここで強化服を着ているということは、これは而力(リューン)を一〇〇〇使用する道具ではなくて、『衣服』として認められている何よりの証拠だ。

 しかし、シナークチームもまた全員が都市迷彩パターンの戦闘服を着ているので、この場では強く抗議することはしなかった。


 サイは自身に対する強い視線を感じていた。

 多分あれが、アグニミリア=ハァトマンだ。

 チラリと横目でみると、彼女の目の奥に明確な怒り……いや殺意のようなものを感じる。


(あれがアグニミリア=ハァトマン……ルーちゃんの話と全然違うじゃないか)


 ルルルが言うには面倒見がよくて優しいお姉ちゃんのような存在でいつも自分を守ってくれる聖母のような人……らしいが、到底そうは思えない。


「改めて今日はよろしく頼むよサイ君」


 そんな中、シナークがサイに柔和な笑みを浮かべながら話しかけてくる。


「え、あーこちらこそよろしく」

「お互い全力を出し切ろう」


 シナークが差し出した手を、サイは握り返した。

 ……こっちはこっちで第一印象と違いすぎて困惑する。

 初めて会った時は問答無用で而術(リュニ)を使ってくる危ない奴だったのだが、今日は実に紳士的な態度だ。

 まるで毒が抜けたかのように穏やかな表情をしている。

 一体この期間中に何があったのだろう。

 困惑しながらもシナークと握手を終えた後、サイはハクバを見る。

 以前よりも若干顔が凛々しく、大人な雰囲気を纏っている。

 ここ一週間、ハクバは講義を見学することもなく、それに加えて寮にも帰ってこなかった。

 真面目で勤勉なハクバなので、おそらくこの日のために徹底的に鍛えたのだろう。

 間違いなく強くなっている……。

 具体的にどう強くなっているかは分からないが、纏っている空気に自信が溢れているようだ。


「……では改めて今回の虚空交鋒(アロンギーク)について説明を」


 ニニエロはゆっくりと自身の口で説明する。


「今回は9対9の生き残り戦。制限時間一時間で生存者が多い方が勝利、同数の場合はチームの而力(リューン)の残存量が多い方が勝利となります。なお途中で9名全員が死亡した場合はその時点で残っているチームが勝利となります。場所はナハト研究都市を模した市街地で行い、その中心から半径5キロ圏内で戦ってもらいます。もちろん領域外に出た場合、その時点で死亡と判断いたします。そしてその領域内では而生獣(リュニオ)と罠を設定しております。そちらで追ったダメージも有効なのでお気を付けください。而力(リューン)は最大一〇〇〇〇。ですが持ち込んだ武器道具の数により、既にそれぞれに割り振られた而力(リューン)の量に差異が出ています。誰が何をどれだけ持ち込んで、どのくらいの而力(リューン)を有しているかは一切開示しませんのでご了承ください。大まかな説明は以上になりますがご質問はありますか?」


 サイは手を上げる。


「……事前に申請した武器や道具はどこにありますか?」

「申請者のすぐそばに置いてあります。仮想領域に入ればすぐに分かると思います」

「ありがとうございます」

「……他にありますか?」


 サイもシナークも何も言わずに小さく頷いた。

 それを確認したニニエロは再度口を動かす。


「それではチームごとにこの椅子に座ってください。……では赤がシナーク君チーム。白がサイ君チームでお願いします」


 言われるがままサイは恐る恐る着席する。


「大丈夫ですよ。座った瞬間にいきなり仮想領域に飛ばすとかはないですから」

「……わかりました」


 そして全員がチームごとに座るのを確認すると、


「では、これより転移を始めます。皆さん同じタイミングで仮想領域に入ります。その瞬間からスタートになりますのでご注意下さい」


 ご注意……という言葉に違和感を感じたサイ。

 転移された瞬間に注意しなければならない状況なのか?

 答えは分からないが、想定していないことが起こりうる可能性があるとサイは思考を廻らせる。

 ニニエロに問いただしたいところだが、質問の時間は終わっている。


「では、心の準備はいいですね。転移を――開始します」


 ニニエロは懐から大きな斐綾鉱(マダイト)を取り出し、両手で包み込むように持ち上げる。

 斐綾鉱から紫と黒が混じったような怪しい光と文様が浮かび上がる。

 すると学生の足元からゆっくりと溶けるように転移されていく。

 このスピードなら一分くらいは猶予がある。

 先ほど感じた違和感を言葉にしないといけない。


「みんな! 転移された瞬間から気を付けてくれ! もしかしたらいきなり危険な状況に晒されるかもしれない!」

「はぁ?なにそれどういうこと? あっちも同じタイミングで転移するんだからそんなすぐに襲われることもないでしょバカなの?」


 隣に座っているバンビが話しかける。


「そうだけど、多分ニニエロのことだ! きっといやらしい仕掛けを用意してるはずだ!」

「……それは確かに。あいつ性格ウンコだし。そもそも私を級長にすればこんなことにもならなかったし」


 バンビはニニエロをジロリと睨みつけて、舌を出した。

 それにニニエロはニコっと微笑み返した。


「性格の悪さは否定はしませんが、ヒントは色々出したと思います。もし想定外のことが起きたのなら、それは自身の準備不足を嘆いて下さいね」


 ……それでは、虚空交鋒(アロンギーク)スタートです。

 ニニエロの不気味な笑顔が消え、視界が切り替わった。


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「ふ…‥なるほどなっ!」


 アグニミリアは、今回の虚空交鋒(アロンギーク)の中心部にあたる。時計塔の屋上階に転移された。

 その場から全体を見渡してみるも他のチームメンバーはどころか、相手チームの姿も確認できない。

 と、いうよりもそれ以外のものが視界に入りすぎて分からないというのが現状だ。

 大小差異はあるが、黒い影がいたる所で動いている。

 一〇〇や二〇〇じゃない。少なく見積もっても一〇〇〇体以上の『而生獣(リュニオ)』がいる。


「生き残り戦といういい方……そして9対9の戦いという割には、半径5キロというあまりに広大な仮装領域の範囲」


 級長を決めるために学生同士を戦わせようとしていたんじゃない。

 新入生各個人の而生獣(リュニオ)へ対応力を図るために虚空交鋒(アロンギーク)を実行したのだ。


「尊師ニニエロ……これは――ー―『想定内』だッ!」


続けてアグニミリアは「アーッハッハッハッハ」と大声を出して笑った。

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