作成会議①
「えーただ今より虚空交鋒対策会議を、始めたいと思います」
パチパチパチとまばらな拍手が起きると、サイは小さく頷いた。
金曜の放課後、つまり週末の講義がない二日間を迎える直前のこのタイミングが、今回の虚空交鋒についての話し合う最良の機会だと判断し、小さな講義室を借りてメンバーを招集した。
しかし、九人のうち集まったのは6人。
合衆国イレブンの一人が「自由にやらせてもらう」、テリダ侯国の一人が「自身の能力等を公開する可能性がある場にはいけない」との理由で欠席。
残る欠席者の一人は、未だにふてくされているバンビである。
まだまともに名前すら憶えていないメンバー同士。
この時点でハァト帝国の学生とのスタートラインに差があるのは仕方がないことなのかもしれない。
「とりあえず今回集まってもらったのは、相手の情報共有をして可能であればそれに向けて対策を考えていきたいと思ったのですが……どうでしょう?」
遠慮がちにサイが話を進めていこうとすると、民主国家ダリアスの学生二人が手を上げる。
二人とも同じタイミングで……そして同じ顔で。
「えーと……確か名前は」
「私はラクレー!」
「私はピクレー!」
民主国家ダリアスからナハト賢王修学院に入学したのは双子の女の子だ。
髪をツインテールにまとめて、前髪の一部を青く染めているのがラクレー=ミュケー。
対してポニーテールで髪を束ねて、その長い後ろ髪を緑に染めているのがピクレー=ミュケー。
ニニエロからの情報によると、個々の能力はそこまで高くはないが、二人が繰り出す色色而術の練度と精度は、既に学生の域を超えているという。
「「そもそもの話なんだけど、この会議やる必要あるのー?」」
一言一句同じタイミングで二人はサイに問いかける。
一瞬面を食らったが、サイは「それはどういうこと?」と答えた。
「「うちのチームにはヨノスケ君がいるじゃん。ヨノスケ君一人でなんとかなるんじゃない?」」
そう二人が言うと、それを聞いていたヨノスケはまんざらでもない顔をした。
「確かにヨノスケは強い。この中でも群を抜いていると思う。でも今回は而力が制限されているため、ヨノスケは普段通り戦えないと考えている。そしてそれはもう一人の強力な戦力であるバンビも同様だ」
サイがペンを取り出した。
備え付けのホワイトボードの上にペンを走らせながらしゃべる。
「まずバンビ……みんな知っていると思うが、バンビの強みはその圧倒的な而力。おそらくだけど、今回入学してきた全員の而力を足してもバンビの半分にも届かないと思う。そのぐらい圧倒的だと思う」
バンビ、圧倒的など簡単な単語をならべて説明するが、その単語に重なるように大きな×を書いた。
「しかし致命的な弱点として、而力のコントロールが下手。これは大きすぎる而力の弊害なのかもしれないけど、ちまちまとした制御がとにかく苦手だ。そしてそれをなんとかしようっていうタイプの人間じゃないのも問題かな。現に今もひねくれてこの会議に参加すらしていない」
教室中から「あー……」というため息が漏れる。
「ということは、今回王女バンビは戦力として数えていないということでいいのか?」
ここで声を上げたのは合衆国イレブンからの入学生の一人。
名前はニビという。
目が見えないほど前髪を下ろした黒髪の小柄な生徒で、声も体も中性的で性別すらよく分からない。
「…………爆弾のような役割はあるかなと思っている」
「……爆弾。つまり敵に近づいた所で、而力を一気に開放して周囲を巻き込むってことか?」
「そのとおり、コントロールは苦手だけど、而術の発動速度はピカイチだからね。一気にまとめて数人いければいいけど……正直うまく機能するとはおもってないし、そこまでは期待していない」
「これは本人に伝えてあるのか?」
「……そこが問題でね。こんなこと到底言えないんだよ。ストレートに表現すると『自爆しろ』って意味だからね」
「なるほど……王女バンビは戦力外ということで考えていた方がいいな」
そう言うと納得したようにニビは視線をおとした。
何か付け加えてフォローしようかとも考えたが、おそらく必要なこと以外興味がないタイプだと判断し、サイは話題を切り替える。
「次はヨノスケなんだけど……自分で説明する?」
ヨノスケに話を振るが、ヨノスケは首を横に振り「お任せしますわ」と答えた。
「えっとヨノスケはバンビと違って而力のコントロールは上手だし、身体能力も高いし、技術もある。そして彼の異名を知っている人なら分かると思うけど、七色の而力適性を持つため、基本どんな相手にも有利で戦うことができるので、一対一であれば負ける要素はないと思う」
ヨノスケは満足そうに頷く。
「ただ2点ほど、不安要素がある。一つはヨノスケが常時纏っている而力。これは自身の而力を使って術式を刻んで半自動で展開しているんだけど……これに使っている而力がほぼ一〇〇〇〇だということ」
「じゃあ今回は防御全振りだと攻撃手段がないってことー?」
「じゃあそれ解除すればいいんじゃない? それなくても強いことに変わりはないんだから」
ラクレーとピクレーの双子が立て続けて口を開く。
「おっしゃるとおり、それでも強いことには変わらないけど、ここで二つ目の不安要素……敵チームに銃で攻撃を仕掛けてくる人が複数人いる……ということだ」
ここでサイはルルルに目で合図を送る。
するとルルルはサイの隣まで歩いていく。
「え、えぇと……ここからは、わ、私が説明します」
緊張しているのか若干口が回っていない。
「ハァト帝国では幼少期より銃火器の取扱い訓練を行っています。なので今回も使ってくることが予想されます。そしてその場合一番注意しなければいけないのは遠距離からの狙撃です。そしてその狙撃で一番狙われる可能性が高いのは……ヨノスケさんだと思われます」
「なんで、俺が一番狙われやすいのかな?」
ヨノスケは優しく聞き返す。
ルルルは手元に準備した資料に目を通しながら答えた。
「うちのチームで一番強いのがヨノスケさんだからです。なので、早めに処理する必要があると考えられるし、複数人で組んでヨノスケさんを集中的に狙っても、逆に返り討ちをうける可能性があると判断するはずです」
「なので遠距離から銃でパーン……ってことか。でも銃がありならマシンガンみたいなのを全員持ち込んでそれを撃ち込んだ方が手っ取り早いと思うけど?」
「それについては僕の方からニニエロに事前に話をしておいた。マシンガンのような連射式の銃は今回使ってこないと思う」
サイはここに来る前にニニエロに銃火器の不使用を訴えていた。
しかし、持ち込む道具に制限はつけないという方針だったため、それは却下された。
「銃の持込みは防げなかったけど、その代わりに弾丸一発一発やサプレッサー等の銃に付属する機器をそれぞれ一つの道具としてみなす、という確約はとれた」
「なーるほど。じゃあマシンガンは使えそうにないわ。となるとスナイパーが一番有効ってことか」
「もちろんハンドガンの持込みも可能だけど、その範囲内であればヨノスケなら対応できると思う」
サイが真正面かヨノスケに告げると、ちょっと恥ずかしそうに、
「いやぁちょっと過剰評価な気もするけど、素直にうれしいです。頑張ります」と拳を握った。
ここで再びニビが口を開く。
「相手が狙撃銃を使ってくることは納得です。だが根本的に何も解決できていない。それで狙われたらヨノスケが落とされてしまうというだけで、対応策が何も挙がっていないのだが?」
サイがニヤリと笑った。
「その通り! だから今回はあえてヨノスケは防御に徹してもらう」
「……囮に使うということか」
「そう、最強の駒を囮にして、相手の位置を特定次第……数的有利をとって一気に叩く。それが今回、僕が考えた作戦だ」
「……そんなにうまくいくと思えないが、そもそもお互いどういう能力があるのか知らないんだ、連携という意味では圧倒的にこちらが不利なのだが」
厳しく問い詰めるニビをみて、サイは安堵した。
どちらかというと身の回りには理屈や感性で行動するタイプが多かったため、しっかり論理的に考えられる味方がいることが嬉しかった。
ニビを説得できれば、少なくともここにいるメンバーは自分の作戦に協力してくれるだろう。
「連携はいらない……ただ僕と行動を一緒にしてくれればいい」
「……随分な自信だな。なにか根拠でもあるのか」
ニビは訝しげにサイを見たが、それはサイにとってはありがたい反応だ。
「今から僕の能力について説明する。それで納得してくれるならこの作戦に協力して欲しい」
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同時刻。
アグニミリアは、シナーク皇子を除くハァト帝国の学生6名とハクバに、虚空交鋒のでの作戦を伝えていた。
その作戦に、ハクバは思わず生唾を飲み込んだ。
「今回我々の勝利の方程式は実にシンプルだ! 相手チームの最強の駒……七色彩明虹の英雄を――完全に放置するッ!」
第二部から一回見直して誤字脱字、ちょっとした矛盾等を修正しました。
ストーリーには大きな影響はありませんが、お暇があればまたご覧ください。
R5.6.22




