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情報収集

 ナエの言葉の真意はつかめないまま、サイは次の朝を迎えた。

 今日から三日間はすべて選択科目の講義となるため、第一学年の生徒は自身で好きな講義を見学することができ、二週間後に正式に希望するカリキュラムに受講を申し込むこととなる。

 自身の進むべき道を決めるために、本来であればこの講義選びに注力したいわけだが、虚空交鋒(アロンギーク)という想定外の案件のせいでサイはあまり集中できていなかった。

 とはいえ、初日の一限目については、入学が決まった当初からこの講義が受けたいと思っていたものなので、最低限度の準備は事前に行っており、サイは一人で寮を出た。

 一番大きな本講堂からはかなり離れた古ぼけた研究棟の一角、朝だというのにあまり日の光が入らない場所でその講義は行われていた。


『而力工学(都市基盤計画)』


 簡単に言うと、而力(リューン)をエネルギーとして動く機械について研究・開発し、社会を支える基盤を作るための講義だ。

 斐綾鉱(マダイト)の産出国であるウーテ王国においても而力(リューン)が生活インフラを支えているのは間違いないが、それは斐綾鉱(マダイト)に術式を刻んで使用しているため、万人が使える物とは言い難い。

 例えばキッチンにあるコンロなどにも(クヌイ)を発動する術式が刻まれているものがあるが、これはあくまで赤の資質があり、かつ術式発動の訓練を受けた者しか発動しない使用になっている。

 そのためウーテ王国では生活インフラのほぼ全てをガス等の天然資源に頼っているのが実情である。

 しかし而力(リューン)そのものをエネルギーに変換できるコンロがあれば、資質も訓練もなく誰もが火を起こすことができるようになるのだ。


「……失礼しま~す」


 扉を開けると中にいる学生たちがチラッとこちら見ると、すぐに視線を前に戻す。

 教壇に立っている講師は見向きもせず、よく分からない数式をボソボソ呟きながら黒板に書き続けている。

 広さは二〇人入れば満席になるくらいの修学院では比較的小さい部屋であったが、半分以上はもう埋まっている。

 ほとんどが男性で、年齢も初老を迎えていそうな男性なども多く、ほとんどが学生と呼ぶにはあまりに先輩すぎるような層が多い。

 そんな中、隅っこの方で見覚えのある背中が見えた。

 小さな体で必死にペンを動かしているのは、天使ちゃんことルルルである。


「……隣いいかなルーちゃん?」

「ひぇっ――! あ、サイさんどうぞどうぞ」


 突然声をかけられ驚きの声を上げたが、見知った顔があったのか、すぐに落ち着いて隣席を椅子引いた。


「ここ第三学年からしか選べない選択科目だから、見学する人は誰もいないと思ってたよ」

「私もです。サイさんってこういうのに興味あるんですね」

「半分はそうかな。もう半分はお家柄」

「お家柄……?」

「ほら僕、一応ダマスカス開発の御曹司ですのでね。技術的なものはしっかり学ばないと」

「なるほど……!」

「――ほらそこうるさいよォ! 見学するのはいいけど喋るならよそ行ってくれよォ!」


 講師が振りかえってサイとルルルを注意すると、二人は謝って静かにノートを開いた。

 そして一限目、二限目と終わり、昼食の時間を迎えた。

 二限目もまたルルルと一緒の講義を見学していたため、そのまま学食で食事をとることになった。


「……ここすごいね。なんかアウトレットモールのフードコードみたいだ。しかも各国の郷土料理が無料で食べられるなんて」


 第2講堂の一階全体に広がる食堂は、最大で一〇〇〇人は入りそうなほどだ。

 ウーテ王国の迎賓館と比べても倍近くのスペースがあり、この世界に来てここまでの規模のものを見るのはサイも初めてだった。

 

「ナハト賢王修学院は基本学生は全部無料ですモグね。その代わりここは一般の方モグはそこそこな金額とられますモグけど」

「あ……口の中なくなってからでいいや」


 ルルルは口いっぱいにパスタのような食べ物のほおばっている。

 テーブルにはそれ以外にも肉料理を中心に大量の食事が並べられている。

 そういえばこの子、転生する前はテレビの大食い番組とかで出ていたなというのを、サイは思い出した。


「食堂以外にも講義も受けられますよ。ほら、一限目も二限目もどうみても学生じゃない人ばっかじゃないですか。高い受講料払って受けに来てるんです。単位ももらえて、その単位があれば就職に役に立つなんてこともあるんです」

「へぇーそういうことか」


 確かに学生の数と修学院の規模があまりに乖離していることは疑問には思っていた。

 外部からの収益で運営し、それを優秀な学生に還元する。

 実に合理的でスマートな学校運営だ。


「講義によっても受講料変わるんですよ。一番人気のサルーテン教授の講義なんてすごいですよ。あまりにも人気でみんな受けられないから、受講料を信じられない額に設定して無理矢理定員の枠内に収めてるらしいです。あ、もちろん私たちは無料で、最優先されますが」

「なるほどね……だから教授はモモンキーパークみたいな私的な研究施設を所有できてるのか。納得」


 サルーテン教授の講義を受講する予定はなかったが、そういうことなら受けてみようかなとサイは頭の中でスケジュールを組み立てる。


「ちなみにバンビ先輩はどこに?」

「バンビは而術(リュニ)の研究と、戦闘訓練の方に行ってる。ハクバも行ってるから暴走することはないと思うけど……ってハクバって言っても分からないか」

「あ、わかります。あの多数決で最後にシナーク君に手を上げた人ですよね?」


 こくりと頷くと、ルルルが心配そうに「もしかして、仲悪いんですか?」と聞いてきたので、サイはやんわりと否定した。


「なんというか……ライバルに近いのかな。なので僕が級長になるのが嫌だったのかな。まぁ真意の方は分からないけど」

「そうなんですね」

「とりあえずハクバはちょっとお堅いけどいい奴だとは思うし、本気で戦うためにハァト帝国の方に付いたというのであれば、僕も本気でやらないと失礼に当たると思う」


 そこでサイは、ナエの言葉を思い出した。


『何の対策もしなければ…………確実にサイ君チームは負けるよ』


 目の前にはハァト帝国出身のルルルがいる。

 ちょっとずるいようにも感じるが情報を仕入れるには今が最高の状況かもしれない。


「ルーちゃん」

「はいぃ! なんでしょうか?」

「教えられる範囲でいいけどさ、ハァト帝国のみんなの情報を教えて欲しい」

「私の知ってる範囲なら……でも具体的にどういうことを」

「例えばどういう而術(リュニ)を使うのかとか、どういう風に戦うのか……とか」

「う~ん……ちょっと待ってくださいね」


 ルルルは頭を抱えて唸りながら記憶を絞り出している。


「正直みんなの而術(リュニ)而力(リューン)の系統がなにかは知りません。シナーク君が黒の資質をもっているのくらいですね」

「一緒に戦ったり訓練したりしなかったの」

「しましたが基本私はサポートなので、前線では戦っていないですし、そもそもハァト帝国の学生は各々の資質や而術(リュニ)に頼った戦い方をしませんから」

「……というと」

而力(リューン)そのものを使うんです。なんだろう日本の漫画でも結構そういうのありますよね。体から湧き出るオーラみたいなものを纏って攻撃したり、防御したり、あるいはビームみたいに飛ばしたり……」

「……そんなことできるの? ルーちゃんも」

「はい、私の而術(リュニ)もそれの応用です。私の而力(リューン)を特殊な文様を介して与えたり、強化したり……でもこれ結構難しくてうちの学年だと私しかできないんですよ」


 ルルルはドンと胸を叩いて自慢してみせる。


「つまり特別な而術(リュニ)はなくてもシンプルに身体を強化して戦えるのか」

「そうですね。そしてそれを最大限に生かすために帝国式格闘術『ダムダ』と銃火器操法『ランダ』を幼少期から徹底して教えられます」

「…………え、なんて? 帝国式格闘術……ともう一個」

「銃火器操法『ランダ』です!」

「……銃火器? 銃火器ってあれだよね? 引き金引いて弾丸飛ばすあれだよね?」

「はい、ハンドガンサイズのものから、マシンガンやスナイパー、あるいは大砲のようなものまで」


 ルルルは淡々と答えているが、サイは驚きを隠せない。

 ……銃? 

 え、この世界って割と中世のファンタジー的な世界観でやってると思ったけど、銃とかそんな近代武器でてくるの? 

 ウーテ王国じゃ盗賊ですら一切そんなの使ってこないんだけどハァト帝国だと普通なの?

 というか、虚空交鋒(アロンギーク)でそんなの武器として持ち込まれたら絶対に勝てない。


「……ナエさんはこのこと知ってたんだな」


 サイは一旦気持ちを落ち着かせるため、深呼吸をした。

 とりあえずやるべきことは立会人であるニニエロに進言し、銃火器の持込みを禁止させること。

 それができないならせめて銃弾一発一発を道具の一つとして扱うようにさせる必要がある。

 弾倉も含めて一つの銃として捉えられたらこちらに勝ち目はない。

 その他にも想定できることは事前に提示して言質をとらないと、どう考えてもこちらが不利だ。


「貴重な情報ありがとうルーちゃん。おかげで勝つ可能性を0%から1%まで上げられたよ」

「? どういたしまして」


 ため息をつくサイを不思議そうに見つめるルルル。

 おそらく、ルルルはこの危険度に全く気が付いていないようだ。


「他の何か……注意しておくこととかないかな。例えば要注意人物とか」

「要注意人物ですか…………あっ、アグニミリアちゃんとかは気を付けた方がいいですね」

「アグニ……ミリア?」

「はい。一対一なら多分シナーク君が一番強いと思いますが、こういう多人数同士での戦いで一番実力を発揮するのは彼女ですね」

「そのアグリミリアっていうのはどんな子なの?」


 ルルルは一旦言葉に詰まる。

 そしてわずかに声を震わせて口を開いた。


「どう表現してわからないけど……みんなからは『女帝アグニ様』って呼ばれてます」

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