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バンビ②

 サイは事前に特別な通行証を与えられていたので、金庫以外であれば工場内であれば入ること可能である。

 所長室前まで案内すると、サイは胸から下げていた通行証を扉の前に掲げた。

 ピッという音が鳴ると、自然に施錠が外れ、大きな鉄製の扉を押して中に入る。


「ここが所長室です。有事の際は逃げられるよう非常口が設けられているようですが、申し訳ありませんがそこまでは私も知りません。ただ仮にどこにあるかは分かっても、現在は通常の警備に加えて、工場周辺を第捌分団の騎士が駐在しているのですぐ見つかってしまうと思いますが……」


「ふ~ん……そうなんだ」 


 バンビはサイの説明を気にも留めず、部屋の隅から隅までチェックし始めた。


「盗聴とか盗撮は……されてないようね。七光りはこの部屋に何か仕掛けられてるとか知ってる?」

「いえ、僕も初めて中に入るので……」

「あっそ、使えないわね」


 いちいち余計は一言が多い王女様は、盗聴の類がないのを十分に確認し終えたのか、所長の革製の大きな椅子に深く座り込んだ。

 一体何が目的でここまで案内させたのだろう。様子から察するにここを抜け出してどこかへ出かけるというわけではなさそうだだが、会話は聞かれたくない様だ。

 サイは意を決して話しかけた。


「あの……バンビ様、失礼を承知でお聞きしたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」

「……どうぞ、許可するわ」

「今回私がバンビ様のご希望で斐綾鉱(マダイト)加工工場の案内をするようにとお話を伺ったのですが、それにはどういった意図がおありなのかと。みたところ特に工場自体に関心を持たれている様子ないですし、今こういう状況になっているのが不思議でならないのです」


 サイが思いのたけを言葉にすると、バンビは何も言わずに、小さななにかをサイに向かって投げつけた。

 しっかりと手で受け取って改めると、市販されている簡易な而力(リューン)測定用の斐綾鉱(マダイト)だった。


「ちょっと而力(リューン)を込めてみて」

「えっ……いや、それは――」

「――いいからやれ万死するわよ」


 万死するわよってなんだよ意味わからん、と思いつつも有無を言わさぬバンビの態度にサイは渋々而力(リューン)を込める。

 斐綾鉱(マダイト)はやはり光らない。

 いや、光ってはいるがあまりに弱くて光っているように見えないというのが正しい。


「どうやら話に聞いてたとおり。全然而力(リューン)がないのね」

「……知っていたのなら、こんな残酷なことさせないで欲しいですが……」

「残酷? 違うわ私はアンタに生きる機会を与えるために来たのよ七光り!」


 そういってバンビは手のひらを差し出した、握手を求めているわけではなく、斐綾鉱(マダイト)を返せという意味だろう。

 本当は投げ返したいところではあったが、さすがに王女様にそれはまずいだろうと、そっと返すことにした。


「よく見てなさい七光り。これが大賢者バルザス様の生まれ変わりの正体よ……」


 バンビが手に持った斐綾鉱(マダイト)は瞬時に光り輝く――ことはなく、うっすらと黄色と藍色が混ざった光が漏れていた。

 斐綾鉱(マダイト)の方に不備があるのかと一瞬頭をよぎったが、サイが而力(リューン)を込めた時にも反応していたという事実がそれを否定している。

 つまりそれは、バンビの而力(リューン)が――


「私も而力リューンが全然ないのよ。七光りのアンタと同じでね」

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