虚空交鋒
「ここ……いいかしら?」
寮で一人食事をとっているサイに、ナエは微笑みながら話しかける。
サイが小さく頷くと、ゆっくりと隣に腰掛ける。
「ヨノスケから聞いたわよ。なーんか面白いことになってるみたいね」
「……全然面白くなんてないですよ。完全にとばっちりなんですから」
「ふふふ」
サイがこういうのも無理はない。
級長を決める話し合いの末、ハクバがシナークを推薦した後のことだ。
ハクバの行動の結果、サイが9票、シナークが9票と並んだ。
このままではどちら級長になるのか決められないため、ここでニニエロが一つの提案を出した。
「ではこういうのはどうでしょうか? 9対9で勝負をしていただき、勝ったチームが級長を指名できるというのは?」
教室内がざわざわと音を立てる。
「私もここに赴任してから知ったのですが、ナハト賢王修学院には学生同士がもめた時に、それを解決するための伝統的な行事があるんですよ」
ニニエロはおもむろに右手を上げた。
その掌には小さな機械のようなものが収まっている。
カチッと何かを推したような音がすると、そこから大きな液晶画面が飛び出した。
「それではご説明しましょう――『虚空交鋒』について」
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『虚空交鋒』
ナハト賢王修学院では、意見の対立が起き集約できなくなった場合には、而力で生まれた仮想領域で戦い、勝者に権利を委ねる伝統がある。
基本的には中立な立場である立会人が自身の而力を用いて仮想領域を生みだし、参加者はその領域にある自身の分身で戦う。
細かいルール設定は立会人に決定権があるが、原則として最後まで残っていた側が勝利となる。
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「で、今回はニニエロがその立会人になるそうです」
サイは一枚の紙をナエに渡す。
その紙には今回の虚空交鋒のルールがびっしりと書いてあった。
ナエは一通り目を通し、そして首をかしげる。
「……あのさ、これ急遽決まったんだよね」
「はい」
「それにしては設定がしっかりしてるわね。まるでこうなることを予想してたかのように」
「……ナエさんもそう思いますよね」
おそらくニニエロはこうなるだろうと予想していたのだろう。
そうでなければすぐにこんな提案はできない。
ただ、どこまで予想していたのかは自分では判断できない。
(シナーク率いるハァト帝国の9人対バンビ率いる9人なら僕でも予想はできたと思うが、ルーちゃんやハクバといったイレギュラーな動きがあった場合も含めて計算していたとしたら……)
未来でも視えてるのか?
サイはうぅんと頭を抱える。
「私はそのニニエロ先生についてはよく知らないけど、このルールを読む限り、相当な切れ者って感じね。特にこのルール」
ナエが紙を指さしなぞる。
「これがないとバンビちゃんがめちゃくちゃ暴れてサイ君チームが圧勝しちゃうよね」
「……ですね。そのせいでバンビはめちゃくちゃ拗ねて部屋に閉じこもってますよ」
「あはは、そりゃかわいそうに」
ナエから紙を受け取ると、サイはもう一度ルールの確認をする。
第一項、今回の虚空交鋒は七日後の一限目に開催する。また仮想領域は『ナハト研究都市を模した市街地の半径五キロ圏内』を設定する。
第二項、制限時間一時間の生き残り戦。制限時間までに相手を全滅させる、あるいは制限時間到達時に生存者が多い方が勝者となる。同数の場合、生存者の合計の而力量が多い方が勝者となる。
第三項、仮想領域圏外に出る、及び分身体に致命的なダメージを負った場合、死亡と判断する。なお身体に欠損が出た場合、虚空交鋒終了まで治らないが、参加者の而術等による復元はこれに含まない。
第四項、仮想領域上には而生獣や立会人による設置罠を設定する。これらによるダメージも前項に適用される。
第五項、仮想領域上では、参加者全員の所有する而力は一〇〇〇〇とする。
第六項、武器・道具ついてはその仕様を事前に立会人に説明の上、認められた場合は仮想領域上で持ち込むことが可能。しかし一つにつき一〇〇〇の而力を差し引く。なお衣服および而術発現のために必要な斐綾鉱は武器・道具に含まない。
第七項、その他立会人が認めた物については前項に基づき持込むことができる。また一度認められた物については、仮想領域内おいては立会人の意図しない使用方法であっても許容される。
「いやぁ……これは完全に僕とバンビにはきついですね」
「そう? クソデカ而力のバンビちゃんはまぁきついだろうけど、サイ君はそこまで不利だとは思わないよ」
「いや、武器一つにつき一〇〇〇の而力を差し引くってことは、二刀流の僕は最初から二〇〇〇マイナスですからね」
あぁそういうことね、とナエは頷く。
「でもそれはやり方次第だと思うけど」
ナエはおもむろに両手をサイの前に出し、右手に小さな鎌、そして左手には手に収まるくらいの小さな鎖を生みだす。
「これをそれぞれ道具として持ち込んだ場合。マイナス二〇〇〇になるよね」
「……そうですね」
「でも――」
ナエはそのまま両手を合わす。
そして再び手を開く。
「ジャジャーン……くさり鎌~!」
手には先ほどの鎖と鎌が一体になった状態のものが収まってる。
「これならマイナス一〇〇〇で済むでしょ?」
「え……えーとまぁそうかもしれませんが、じゃああれですか。事前に僕の斐劔を鎖で繋いでおいてこれは一つの武器だって言い張ればいいってことですか?」
「そうゆうこと。それで中に入ってから外していつも通り使えばいい。第七項にも一度認められればどんな使い方しても許容されるってかいてあるしね」
「……そんな無茶苦茶通りますかね」
「立会人が認めればいいんだから試してみる価値はある。というか早くいろいろ試した方がいいと思うよ~」
「それはどういう――」
サイの言葉を遮るように、わざと音を立ててナエは立ち上がった。
「一年生同士の問題だから、上級生がこれ以上アドバイスするのはフェアじゃないね。でもまぁ最後に一言だけいうのであれば……」
ナエは不安そうなサイの顔を見る。
「このまま一週間、何の対策をもしなければ…………確実にサイ君チームは負けるよ」
ナエはそう言い残してその場を去っていった。
相変わらずの遅更新になります。
私自身も設定がいろいろこんがらがりつつあるので、
もしかしたらそのうち用語集的なものを唐突に挟むかもしれません。
ご了承下さい。




