特別
俺は選ばれた人間だと思っていた。
ウーテ王国の有力王族であり、『白の一族』として誉れ高いミスミ家で生を受け、その中でもミスミ史上最高戦力とまで呼ばれるハナエに引けをとらない上而力を持ち、身体も丈夫で今に至るまで大きな病気一つしたことがない健康優良児。
勉強も運動も誰よりも要領よく習得し、周囲からはいずれ王国騎士団の分団長になるのは確実視されていた。
それどころか|王の剣≪キングブレイド≫となる逸材であると言われたこともある。
もちろんその期待に応えるため、常に自身を研鑽した。
もし生まれ変わったとして、今世以上に努力できるかと問われれば、すぐに否と答えられるぐらいの努力は行ってきた自信がある。
だが、そんな俺にも勝てない相手がいた。
それがサイ=ダマスカスだ。
斐綾鉱の加工及び流通を一手に担い、ウーテ王国の経済的発展の基盤となるダマスカス開発の嫡男。
超が付くほどの大金持ちだが、身分はあくまで一般領民。
有力王族である俺からすれば守るべき弱者であるはずだ。
しかしサイは現在の王の剣であるゴウマ=ロシエルの師事を受けており、そのゴウマが「唯一の弟子」であると認めている。
そのうえ次期国王と名高いバンビ=ウーテ様とは、王族と領民の枠を超えて、まるで長年連れ添った友人のように行動を共にしていた。
俺が初めてバンビ様に会ったのは王立ウーテ学院初等部に入学するその日。
たくさんの護衛がバンビ様を囲む中、その隣にサイはいた。
その姿を見た時、こどもながらに俺は初めて敗北感を感じた。
……その日からずっと俺は負け続けた。
サイはほとんど而力がないと随分前から知っていたが、それを補って余りある身体能力と戦闘センスと戦術眼。
ゴウマ直伝の剣技はもうすでに並みの王国騎士ですら太刀打ちできないほどの鋭さを有していた。
幾度となく剣戟を挑んだが、結局一度も勝つことができず、卒業検定では命まで救われてしまう始末。
……俺は特別じゃなかった。
ただその他大勢の中では少し飛び出ているくらいで、サイのような飛びぬけた技術があるわけでもなく、バンビ様のように脅威的な而力があるわけでもない。
それでもそんな二人に追いつき追い越すために必死にやってきたのだが、とうとう昨日、俺は落第点をつけられた。
「ダメ」
「弱すぎる」
「間違いなく死ぬ」
サルーテン=モモンモンキーの言葉。
奇しくも彼女はナハト賢王修学院開校以降、最高の頭脳と呼ばれる『特別』な存在だ。
そんな人から決定的な言葉をぶつけられ、俺は何も言えなくなってしまった。
……悔しかった。ただただ悔しかった。
それは暗に特別な存在じゃないことを叩きつけられたからではなく、
「そんなことはない」
「俺ならできる」
その場でそう言い返せなかった自分自身が情けなかったからだ。
そしてサイとバンビ様は戻ってきた。
どういったことがあったのか聞くつもりはなかったが、バンビ様が大きな声で語るものだから嫌でも耳に入ってしまう。
サイは周りの助力もあるが、実質二体の禍獣級の而生獣を討伐した。
同学年のヨノスケもまたほぼ単独で而生獣を撃破したといっていいだろう。
話を聞く限り、もしこの場に自分が参加していたならば……きっと死んでいただろう。
少なくとも何もできず、サイやヨノスケ、先輩方に守られるだけで終わっただろうと妙に納得してしまった。
どんなに頑張っても届かない特別な者たち。
しかも彼らは決して落ちぶれることなくまっすぐに努力を重ね、より優れた存在になるだろう。
そんな彼らに、俺はどうやって追いつけばいいんだ。
「君はどうしたいのですか?」
突然背後から声がした。
振り返るとそこには、ニニエロがいた。
「超えられそうにない壁を目の前に、ただただ諦めるのか。それとも超えるために努力をするのか?」
まるで今の自分の気持ちを見透かされているかのように言葉を紡ぐニニエロに、
「……俺は追いつきたい。このままじゃ一生敗北感を抱えたまま生きていかなきゃならなくなる」
俺は本心を晒しだした。
「なら……君は強さの代わりに捨てなきゃいけないものがある。その覚悟はあるかな」
「……捨てなきゃいけない、もの?」
ニニエロは不敵な笑みを浮かべる。
「本当の強さを手に入れるために……君は『家族』を捨てなければならない――」




