報告
「……ひとかけらも残ってない。これならすぐに復活することもないでしょう。後始末は教授が後日、他の猟士に依頼するでしょうから、これで任務完了ね」
赫の業火に見舞われた而生獣がいた場所を入念に確認したナエは、大きくため息をついた。
「ナエがいうなら問題ない。とりあえずみんなお疲れさん。ヨノスケはまだ目を覚ましてないが、みんな無事で何より。ビエッタさんの所まで報告にいこう」
ギンタは、自身が討伐した而生獣の肉片の一部を袋に詰める。
これが討伐の証拠ということだろう。
そしてヨノスケを背負い、我一番に駆け出す。
「ほれ行くぞみんな! にしても体が軽い軽いっ!」
まるで遊びに出かける子どものように、飛び跳ねながら駆け出すギンタをみて、バンビが「あーなんか無理だわあぁいうタイプ」と呟いていたが、サイは無視してルルルに声をかけた。
「天使ちゃ……じゃなくてルルルちゃんでいいのかな」
「え、あ……はい。でも言いにくければルーで構いません。うる……じゃなくてバンビ先輩もそう呼ぶようにしたので」
「うん、じゃあルーちゃん。さっきはありがとう。君の而術のおかげであいつを倒せたよ」
サイが軽く頭を下げると、ルルルは大げさに首を横に振った。
「い、いえいえいえいえいえ! 私なんか何もしてないです。この而術だって自分に使えたらいいんだけどできないから、結局私以外の皆さんが戦わなきゃいけないし、現にサイさんもヨノスケさんもバンビ先輩もボロボロで……」
「何言ってるのさ。この而術を受けたから分かるけど、これかなり強力だよ。全ステータスに超強力なバフをかけるっていう感じなのかな。RPGとかなら絶対パーティに欠かせないよ」
「……私ゲームとかよく分からないんですが……褒められたって受け取っていいですか?」
「もちろん!」
「えへへ……よかったぁ」
満面の笑みを浮かべるルルルに、サイは思わずドクンと鼓動を鳴らす。
……めっちゃかわいい。
転生する前も天使という名前に負けない愛らしい容姿であったが、この世界にきて別の体になってもその溢れ出る天使成分は衰えることはない。
なるほど、内面が天使だと容姿も天使になるのだなとサイは確信する。
一方で、
「あ、何イチャコラしてんだオイ。まさかあやるんから推し変するんかコラぁ」
見た目だけならかなり端正なつくりなのだが、性格と口の悪さがにじみ出るバンビからは、天使成分は一向に見当たらない。
むしろ釣り目がきつくなったような……?
「何ガンつけてんのよ。まぢ万死なんだけど」
内面が悪魔だと、見た目も悪魔になるんだなぁと、サイはしみじみと受け入れた。
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「お疲れ様ですぅ……皆さんご無事でなによりです」
目に涙を浮かべながら、ビエッタがギンタから而生獣の肉片が入った袋を受け取る。
「今回はかなりやばかったですね! 俺とナエだけじゃ死んでたかもしれねっすわ」
「そうかも。一番活躍したのはサイ君だし、一人で強い個体を倒したのはヨノスケ。それに新しい強化服やルルルちゃんのおかげで、ヨノスケはなんとか生きていられるわけだし……ね、ヨノスケ」
ナエは後ろを振り返って、椅子に腰を下ろしているヨノスケに声をかけた。
「まったくもってその通り。本当に感謝しかない。にしてもちょっと今日はいろいろ反省すべきことが多い。なんでも自分一人でできるって思いあがっていたわ」
入学式でニニエロに負け、而生獣との戦いでは一体撃破したものの気絶。
その後復活した個体はサイが倒したというのも既に聞いている。
「入学早々自分の立ち位置を知れてよかったわね。これでいろいろ気合が入ったでしょ」
「そうだなナエちゃん。これからサイやバンビちゃん、それにルーちゃんと一緒に全力で成長するぜ」
ナエとヨノスケの様子を微笑ましくみていたビエッタは、微笑みながら報告の準備を進めた。
「えっと今回の報酬はどうしましょうか、額が額だけに後日振込となりますが、対而連に登録しているのがナエさんとギンタさん二名が所属している【ナハト賢王修学院寮】のみなので、ここに全額いれていいですか?」
「ん~そうっすね。とりあえずそれで入れて貰って、こっちで分配します」
「あーギンちゃん。今回は俺報酬受け取れませんわ。バンビちゃん達に俺の取り分あげてくれ」
「いいのかヨノスケ。金の亡者のお前が?」
ヨノスケは小さく頷き「一応プライドってやつがあるのでね」と返す。
「ちょっと待ちなさいよ。別に私はいらないわよ。最初からそのつもりだし」
「僕も大丈夫です。貴重な経験をさせてもらいましたから」
「あーそっか、二人はアホほど金持ちだったわ。じゃあルーちゃんに全額あげます。なのでルーちゃんは後でギンちゃんから五〇〇万受け取ってね」
「ひぃぃぃぃぃ五〇〇万っっ! 無理です無理ですそんな大金! 死んじゃいますよ!」
ルルルは全力で拒否するが、ヨノスケも引く気はない。
「いやいや、命の恩人だからね。そのくらいは受け取ってもらわないと」
「無理無理無理無理ぃ! あっちの時だってママにお金管理してもらってたから貰っても持て余しちゃうんですよぉ」
「ん~、とはいってもここは男として引き下がれんわけで」
「――じゃあこういうのはどうよ!」
バンビが勢いよく割って入る。
「今ここで対而連にチーム登録すればいいんじゃない。私とサイとルーで、そこにお金入れて貰いましょ。お金はチームのために使うようにすればルーもそんなに責任感じないでしょ?」
「はい、それなら大丈夫そうです」
「ほらね。これ完璧!」
親指を立ててウインクするバンビを見て、サイはうなだれる。
「いきなりできるわけないだろバンビ。基本今は時間外だし、必要な書類とかもないし、そもそも振込先の口座も作ってない」
「んなの後でいいのよ。とりあえず登録だけして、正式な手続きは後でサイが全部するから」
「あーほらやっぱり僕がやるのか」
「当たり前でしょ。私王女なんですけど!」
「えー」
サイはビエッタはみると、ビエッタも若干困っているようだ。
「えぇと、この時間は依頼完了の受付のみを行っていますので、登録はまた別の機会にやっていただければ、もちろんサイさんのおっしゃる通り、必要な書類もありますし、何より審査でお時間も」
「だから面倒な手続きは後でサイがやるし、あと審査なんていらないでしょ。ここにいる時点で猟士としての実力を審査する必要はないじゃん」
「おっしゃっている意味はわかりますが、いろいろと規則がありまして」
「規則ぅ? はーやだやだお役所仕事じゃない。今ここで登録しておけば、直近でなにか有事があった場合、すぐにこの最強の美少女王女であるバンビ=ウーテ様の助力が簡単に得られるというのに……事件は会議室じゃなくて現場で起こってるって自覚ある?」
ブチィ……と何かが切れる音がした。
いや、実際には聞こえていないのだが、ビエッタの目から光が消え、一点を凝視している様から想像してしまったのだ。
「……そこまでいうのならわかりました。では私も最大限の努力を行いまして規則も順番も審査も無視して最速て登録できるようにいたします。すぐに最強の美少女王女であらせられるバンビ様が満足できるような超超超超高難度は依頼をご準備いたしますので首を長くして待ってやがってください」
うわぁ……キレてる。
一同が軽く引いてる中、バンビは満足げに「よろしい」と首を縦に振る。
ビエッタが多少乱雑に一枚の紙を取り出し「ひとまずここに代表者及び登録メンバー、そしてチームの登録名だけご記入ください」とバンビに手渡す。
「ん~手書きめんどいわね……あ、ルーちゃん。あんたの而術って文字もかける」
「……一応書けますけど、而力がもうほとんどなくてしんどいのですがぁ」
「ははは大丈夫大丈夫。ちょっとだけだから」
バンビはルルルに紙を渡し、そして耳打ちする。
ルルルは刻々とうなづき、指示通りに而力で文字を書く。
「ふむふむ……いいね」
バンビは中身を確認した後、ビエッタに手渡した。
一度内容を見てから、ビエッタは確認のため復唱する。
「登録名は超最強華麗万死団。代表者はバンビ=ウーテ。そしてナハト賢王修学院第一学年……全員」
「はぁぁぁぁ? 全員ってどういうことだ」
思わずツッコミを入れたのはサイだ。
「別にいいでしょ。どうせみんないずれ私が率いる超最強華麗万死団に仕えるんだから」
「そんなわけないだろ。つーかなんだよその自尊心の塊みたいな名前」
「あーもうるさい。これはもう決定事項なの。文句言う奴は後で私が実力で黙らせるから安心して」
「黙らせるって……」
サイは入学式で出会ったハァト帝国の学生を思い出した。。
特に頭に浮かぶのはちょっかいをかけてきたシナークという男子学生だ。
(これ……絶対面倒なことになるなぁ)
サイは小さくため息をついた。
火が付いたバンビはもう止められない。
いつだってその尻拭いはサイやニニエロが担ってきた。
今回は学生同士のいざこざになりそうなので、間違いなくサイが単独でサポートしなければならなくなる。
想像するだけで気が重い。
「……わかったよ。もう好きにしたら」
「言われるまでもなくそのつもり!」
アーッハッハッハッハとバンビの高笑いが響く。
今日は寝る前に頭痛薬飲んでおこう、と固く誓ったサイであった。
随分と久しぶりの更新になります。
もう少ししたら落ち着くと思うのですがまだまだゴタゴタしております。
更新頻度はびっくりするぐらい遅いと思われるので、のんびり止まっていただければ。




