のびしろ
「黄而號外……鳴万死劔!」
地面に落ちた枝を拾い而術を唱えると、その枝から鳴槍が発生する。
今までは手持ち鳴槍と言っていたが、バンビのゴリ押しにより、正式に而術として認められ、大層な名前が付けられた。
本来であればこの而術が発動すれば、どんなに強力な而生獣も討伐できるのだが、今回ばかりは状況が違う。
「ビリィィィィ!!」
而生獣が大きく飛び跳ねる。
そしてそのままサイとバンビを上から押しつぶそうと落下してくる。
ギリギリのところで躱して距離をとり、体勢を整える。
「――ていうか意味なくないこれ? こいつに私の而術効かないし!」
バンビは鳴万死劔を指さしてサイに訴える。
相対するは黄而の而力を持つ而生獣。
バンビの攻撃が一切に通らない敵だ。
バンビがそれっぽい動きを見せても相手は躊躇なく仕掛けてくる。
「そんなことは分かってる。これはあくまで防御用だよ!」
サイ達が一番注意すべきは、体中に纏っている電撃を一気に放出する強力な一撃だ。
黄の資質を持つバンビならばまだある程度は耐えられるかもしれないが、サイにとっては即死レベルの攻撃だ。
「あれが来たら、バンビの鳴万死劔で相殺する。そしてその隙に僕が攻撃する。現状できる攻撃手段はそれしかない」
「う~んまどろっこしい。さっさと倒しちゃいなさいよ。私の而力貸してるんだから全力でやれば行けるでしょ!」
「分かってるよ!」
サイは刀身の赤い斐劔に而力を込める。
すると勢いよく炎が立ち上り、その大きさはサイ自身すら飲み込むほどだ。
しかし、サイはここで違和感を感じとった。
(バンビの而力を借りてるのに……これくらい?)
サイは全力を出すつもりだった。
誘拐され、バンビが転生者であると知った時、推しがこの世界に転生していると確信を持てたあの瞬間の炎をイメージしていた。
しかし目の前で揺れる炎は、そのイメージとはあまりにかけ離れているし、バンビの而力を使っているとしたらあまりに頼りない。
(……もしかして、借りることができる而力には限界があるのかもしれない)
振り返ってみると、この能力を全力で使った経験がほとんどないことに気づく。
意図的にこの力を限界まで使ったのは、巢喰に乗っ取られたカガチを救う時だけだ。
あの時は、カガチの中にある巢喰の而力を使い切る感覚で赦赤を使った。
それでもある程度の時間がかかったと考えると、おそらく一度に借りれる、あるいは使える而力には限界があるという結論に至る。
而力を水として置き換えると、バンビの而力は学校のプールに満杯にたまった大量の水だ。
バンビ自身はそれを好きなように使えるが、サイはひねった蛇口から出てくる分の水しか使えない。
……もっと自分の能力について知っておくべきだったと、サイは今更ながら後悔していた。
「僕の方が……バンビに頼っていたんだな」
「えっ?」
「バンビは而力のコントロールが苦手だから、転生者のよしみで面倒を見てあげていたつもりだったけど、最悪バンビさえいればどんな相手でも負けることはないと高をくくっていたのかもしれない」
現にバンビは鳴万死劔を習得し、苦手なコントロールを穴埋めする方法を手に入れた。
身体能力だってこれから真面目にやればいくらだって成長するし、伸びしろで言えばバンビはまだまだ強くなる。
一方自分はどうだ?
幼少期からゴウマの指導を受けていたため、剣の技術はもう自分の限界値に近い部分まで習得しているだろう。
加えて自身の而力は相変わらず微量で、今後劇的な成長はみられないはず。
その上、他者の而力を自分の而力として使えるのも出力限界があるという。
「はははっはははは! 一人じゃなんもできないじゃん」
「ちょっ――なに笑ってる場合じゃないでしょ! そろそろアレがくるっ!」
而生獣の頭部に光が集中し始める。
先ほどよりもより眩しい。
まともに受けたら死ぬ、と直感的に理解する。
「……本当だ。まったく考える余裕すら与えてくれないのか……やれやれ」
「やれやれじゃないわよ! どうすればいいのよ!」
きっと僕が本当に子どもだったらきっとここで心が折れていただろう。
自身の限界を悟り、弱さに打ちひしがれ、動くことをやめてしまった学生時代を思い返す。
「でもさ……心が折れようが、己の限界を悟ろうが、自分が持てるものでしか戦えないんだよね」
「ちょっとなに悟りモードに入ってるのよ! ふざけんなよキモヲタァァァ!!」
而生獣が大きく口を開く。
「――バンビっ! 鳴万死劔をその口の中に突き刺して、而力を込め続けてくれ! 僕がこいつを――倒す!」
「返事が遅いっ!!」
「ビリビリビリリリィィィィ――――」
而生獣の口から雷撃が放たれるに、バンビはそこに攻撃を仕掛ける。
想像よりも激しい抵抗を感じるが、それでもバンビは必死に而力を込め続ける。
「うりゃぁっぁぁぁっぁああああまぢ万死ぃぃぃぃ!」
サイは、その隙を見て而生獣に近づく。
そして背後に回り、背中を斐劔を斬りつける
一度では鱗のような皮膚に少しひびが入る程度だったが、あきらめずにそこに何度も刃をあてる。
「おりゃああああああああああ!」
やがて皮膚がはがれ、皮膚から血がにじみ出てくる。
「よしきたぁぁぁぁ!」
サイはこに斐劔を全力で差し込む。
「皮を焼いても脱皮するんだろ……だったら中から強火で焼いてやるよ――――赤ッ!!」
「ビリィッィィィエェェェェェェ!!」
而生獣は叫び声とともに雷撃をやめ、体を震わせるようにのたうち回る。
それでもサイは、体にしがみつき、赤を使い続ける。
「而力を一気に大量に出すことはできなくても、バンビの而力なら、長時間而術を使い続けられる! 炭になるまでも使い続けてやる!」
「ビリギェェェェェェl」
次に而生獣は、サイがしがみついた状態のまま高く飛び上がった。
そして、サイにのしかかるように自由落下が始まる。
「やば……このままだと潰される」
「――サイ逃げて」
バンビの声が届いたが、サイの中に逃げの選択肢はなかった。
というより、而生獣の巨体から逃げるには時間がなかったのだ。
(それならこのまま中を焼き切って真っ二つにして逃げる! それしかない!)
「ビリィィィエェェェェェエエエエ――――」
「うおおおおおおおおおおおおおお――――」
突き刺さった刃がより深く入り込み、切り口が拡がっていく。
あと少し……あと少しでいける。
だが、それよりも早く体が地面に近づいた。
「――鉄蜘蛛の鎖糸!」
何かに引っ張られているのか、突如として落下は終わり、
サイと而生獣は宙に浮いている。
いや、正確には突然現れた大きな鎖の束が而生獣の四肢に絡まり、完全に動きを拘束されていた。
その鎖を束ねているのは、ナエである。
「大丈夫サイ君生きてる!? 潰れてない!?」
「ナエさぁぁぁぁぁん!」
「よかったギリギリセーフ! じゃあ最後までよろしくね。もう抑えるので精いっぱいだから」
「……わかりました!」
サイはそのまま而生獣にしがみつきながら、而力を込める。
「赤ッ!」
而生獣の目や口から炎を吹き出し、そして腹部から真っ二つにわかれ灰となった。




