七色彩明虹の英雄
「なんなんだよこいつはぁぁぁ」
「ひぃぃぃぃぃ」
ルルルを抱きかかえながら、ヨノスケは迫りくる雷撃を躱しながら逃げる。
「ビリリリリリィィィィ」
而生獣はそれをひたすら追いかけ、一定量の電荷を帯びるとそれを放出してくる。
(くそぉ……俺一人だったらなんとかやれるのに)
バンビの而術、そして巨大な而生獣の爆風により分断された後、突然上空から肉塊が落ちてきた。
そしてビクビクと撥ねるように形を変え、バンビやサイの目の前に現れたものと同種と思われる而生獣が生まれた。
その異様な姿にルルルは完全に怯え、腰が抜けてしまい動けなかった。
ヨノスケ自身あまり慈悲深い人間ではなく、気質はたんぱくだ。
自ら而生獣の討伐を志願してきた者なのだから、その人がどうなったとしても自業自得。
討伐が最優先事項であるというのがヨノスケの考えだ。
しかし相手は同じ転生者、しかも推しているアイドルグループの最年少メンバーである。
さすがに見捨てるわけにはいかなかった。
「――ぬわっ!」
ヨノスケは光る雷撃をギリギリのところで躱す。
而生獣の雷撃の精度が徐々に高まっている。
このままだと――いずれ直撃する。
自分はともかく、この怯え切った少女にはその攻撃が耐えられるとは到底思えない。
(仕方ないな……一か八かやるしかないな)
「天使ちゃんごめんね。いったんこの木の陰に隠れててくれ」
「えっ……あ」
返事を聞くことなく、ヨノスケはゆっくりとルルルを下ろし、而生獣に向かって走り出した。
「よぉ化物……調子よさそうだなぁ」
「ビリリィ?」
而生獣はパタリと足を止め、目の前に現れたヨノスケを睨みつける。
ヨノスケもまた、負けじと睨み返す。
「俺も単純に逃げてただけじゃない。お前のパターンは大体把握できてる。全身に黄系統の而力を練り上げ、一定量溜まったら放出する。その繰り返しだ。だから攻撃をした直後のお前の体は而力にもビリビリにも守られていない無防備な状態ってわけだ」
その無防備な瞬間に強力な一撃を放つ。
これがヨノスケの考えた攻略法だ。
だがその一瞬の隙を突くには、ある程度近距離で戦う必要があり、現段階のヨノスケでは、攻撃を避け切れる自信はない。
だから……真正面から受け止める。
「本気の一発ぶちこんでこい。それで仕留めりゃお前の勝ちだ。だが俺にはどんな攻撃も『こうかはいまひとつ』なんだぜ……七色彩明虹の英雄をなめんなよ」
ヨノスケは右手を斜め前方につきだし、左手は腰に添えた。
円を作るように右手をゆっくり動かし、大きく深呼吸した。
「戦闘形態変更……戦闘形態雷光ァ!」
右手を高く天にあげると、右手から黄色い閃光が放たれる。
その光はヨノスケの全身を包み込んだ。
髪の毛もちろん全身の毛が逆立ち、目の前の而生獣同様、バチバチと音を立て始めた。
「これで俺も……お前と同じだ」
なぜヨノスケが七色彩明虹の英雄と呼ばれているのか。
それはヨノスケが赤橙黄緑青藍紫の七つの而力の資質を持っているからである。
通常時、ヨノスケの而力は七種が一定量のバランスで身体をめぐっており、すべての而術がで適正者と同等の効力で扱える上、七種すべての耐性を持っている。
故にヨノスケは、その体質のせいで、入学式に使用された而術もかかりづらい状態だったのだ。
加えてヨノスケは自身の周りを半自動で而力を覆っているため、而術に対する耐性は常人とは比べ物にならない。
だが、それはあくまで適正だけの話である。
ヨノスケの優れた点は、その適正を一時的に一つに絞ることができるのだ。
それが今回使用した『戦闘形態』。
七種の而力を一つ系統に絞ることで、而術の威力及び耐性を七倍にすることができる。
つまりヨノスケは相手の資質さえわかれば、常に優位で戦闘することができる。
特に資質の相性の差が激しい而生獣に関しては、ほぼ無敵と言えるだろう。
「よっしゃいくぞぉぉぉぉ!」
ヨノスケはその状態のまま、一直線に而生獣に駆け寄る。
而生獣はその動きに対して回避行動をとることなかった。
「ビリリリリィィィィィ――!」
而生獣の口から、巨大な雷撃が放たれる。
ヨノスケはそれを真正面から受け止める。
「うぉぉぉぉぉぉぉ!」
ヨノスケはなお足を止めない。
確実に而生獣との距離をつめる。
そして、ヨノスケの左手が而生獣の右腕を掴んだ時、而生獣の体から迸ったい雷光は完全に消えた。
「……これで電気切れか。にしてもめちゃくちゃ痺れたぜ。でも、俺の方が強かったみたいだな」
「ビリィ……」
「――戦闘隊形陽光!」
ヨノスケの右手が橙色に輝く。
「黄色の弱点は橙色……これで『こうかばつぐん』だ。くたばれ……『太陽の一撃』」
而生獣の腹部に、ヨノスケの右拳がめり込む。
あまりの威力に左手でつかんでいた右腕だけを残し、而生獣は数十メートル先まで吹き飛んだ。
そのまま大きな樹木に突き刺さり、少しだけ撥ねるように体を動かしたが、やがて諦めたかのように身動きを止めた。
それを遠目で確認すると、ヨノスケは大きくため息をつく。
「へへへ……どうだ。これが英雄の力だ」
そう一言呟くと、ヨノスケは膝の力が抜け、その場にへたり込む。
「さすがに直撃はしんどいな……こりゃ当分まともに動けそうにねぇ……ぞ」
ヨノスケはそのまま意識を失った。




