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バンビ①

 その後ガルニーデ王は迎賓館にてシオが組織した特別歓迎部隊による接待を受けることとなり、迎賓館周辺はゴウマ、第壱分団長ハナエ及び第壱分団が警備を担当となった。

 サイとバンビ、そして第捌分団長ニニエロ率いる第捌分団は、そのまま斐綾鉱(マダイト)加工工場へ足を運ぶこことなった。


「警備なんていらない。工場の職員もいらない。この親の七光り坊やで十分よっ!」


 と言うバンビの意向に最大限配慮した結果、随行するのはサイとニニエロのみで、工場の周辺の警備を第捌分団員が行い、約2時間ほど必要最低限の工場職員のみで運用しすることになった。


「え~ご覧いただいているのは、斐綾鉱(マダイト)第一加工エリアになりまして、まずあちらの大きな機械で、海から運ばれてきた斐綾鉱(マダイト)原石を粒子状に粉砕します。その後、専用のダクトを通しながら約一時間高熱で溶かしつつ、斐綾鉱(マダイト)と不純物を分離しています。そのため、季節に関わらず平均気温八〇度という大変な環境になっておりますので、すべての作業を而力(リューン)による自動化で行っています」

「これは素晴らしい。原石の大きさに関わらず、あの機械を通すだけで、純度の高い斐綾鉱(マダイト)を抽出できるというわけですね。あそこから出ているが斐綾鉱(マダイト)でしょうか?」

「いえ、あれは不純物の方ですね、主に銅、亜鉛、鉄といった資源になりますので、それはまた別の工場に運んで加工しております。斐綾鉱(マダイト)はそのままダクトを通って第二加工エリアにて冷却と整形を行います」

「はぁ~、実に無駄がなく効率の高い設備ですね。さすがは大陸一の加工技術を持つだけはありますね。……バンビ様もそう思うでしょう?」


 バンビはニニエロの声かけにも、全く反応せず終始むくれた顔をしていた。

 工場を案内して欲しいとの依頼を受けたはずだが、バンビは実際に目の当たりにしても一向に興味が沸かないらしい。

 サイは首を傾げつつ、ニニエロに視線を向けた。


「何が目的なのかは分かりませんが、どうやらバンビ様はサイくんと二人きりになりたいようです」


 工場に向かう途中、ニニエロにこっそり耳打ちされたサイにとっては寝耳に水だった。

 これまで一度も会ったことのない一国の王女様が、どうして自分に執着するのか、その理由に全く心当たりがないからだ。


「……なんでですかね?」

「その真意はバンビ様にしか分かりません。ただ工場案内の際、おそらく私を出し抜いて君と二人でいなくなる可能性があります。そうなると困るので事前に持っていて欲しい物があります」


 ニニエロはサイの手に小さな紐を渡した。


「これは、私の而力(リューン)で作り出した紐です。この紐を所持している者の位置が分かる仕様になっているので、どこか服につけておいて下さると助かります。もしバンビ様に私の知らないような場所に連れていくように指示されても、逆らわずに従ってください。いちいち反論して機嫌を損ねると余計に面倒なので」

「……でもそれならバンビ様自身にこっそりつけてればいいのではないでしょうか?」

「う~ん……実はバンビ様、どういうわけかこの手の道具はすぐ気付くのです。部屋の隅に監視用の映像機を仕掛けたり、衣服やお気に入りのぬいぐるみに盗聴用の而術(リュニ)を組み込んだりしましたが、ことごとく気づかれました」

「……すごいですね、バンビ様」

「えぇ……とても明日五歳になる少女とは思えませんね。あと一応付け加えておきますが、あくまでそういった物を使うのは、素行のよろしくないバンビ様だけですからね。他のご子息様には一切つけておりません」


 と、いうわけでよろしくお願いします。とニニエロはすぐにサイから離れ、サイは上着の袖の内側に外から見えないようにこっそりと紐を結んだ。


「お手洗い……どこにあるか案内しなさい」


 唐突にバンビ声を出した

 ついに来たぁぁ!と、思わず吹き出しそうになるのを無理矢理抑えるサイ。


「ここからだと、その廊下を進んで、左に曲がると――」

「――案内しなさいと言ってるの? 耳が聴こえないわけ?」

「わかりました……ご案内します」

「あとニニエロはここで待機。一歩でも動いたら万死だからね」

「……かしこまりました。しかし私の任務はバンビ様の護衛です。三〇分経っても戻ってこられないようであれば、私は動きますのでご了承いただけますか?」


 この不自然な時間の提示はニニエロからのメッセージだとサイは汲み取った。

 三〇分という時間的制限をかければ、仮に工場からどこかに出かけたとしても、その時間で分かりやすい位置にいれば必ず見つけてもらえるので、安心してバンビの命令を受けることが可能になる。


「……わかったわ。三〇分はここで待機してなさい。さっさといくわよ七光り」


 そういって廊下をぐんぐん進むバンビを追いかけるようにサイは続いた。

 振り返るとニコニコした笑顔でニニエロが手を振っている。


「はい、ここがお手洗いになります」


 念のため、お手洗いまで案内したサイに、バンビは呆れたようにため息をついた。


「は……? あんたバカなの何本当にお手洗いまで案内してるのよ」

「……え?」

「え? じゃないわよバカ察しなさいよ。私はお手洗いに行きたいんじゃなくて、ニニエロを巻いて逃げ出したいの! これだけの規模なら非常口とか、職員しか知らない秘密の抜け道とか部屋とかあるんでしょ? さっさと案内して時間ないんだから!」


 捲し立てるバンビに、サイは一瞬気後れした。

 明日で五歳の少女にしては随分大人びているというか、頭の回転がはやい。

 というかサイ自身も転生しているからこそ対応できている部分はあるので、もし普通の出生ならばこの事態に対応できたかどうかは不明だ。

 ひとまず言えることは、バンビの行動を予想し、先回りして準備をしたニニエロの方が一枚上手ということだ。


「……わかりました、では所長室までご案内します」

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