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四人目

 ナハト研究都市にある対而生獣連合組合の支局の中で最大の規模を誇るのが、モモンキーパーク支局である。

 理由は至極明白で、サルーテンが対而連最大の依頼主で、収集した生体素材の多くをモモンキーパーク内に納品しているからである。

 そのモモンキーパーク支局にサイ、バンビ、ヨノスケ、ギンタ、ナエの五人が着いたのは、日の光も見えなくなった宵の口。

 依頼品の納品であれば随時受け取れるようにしているが、討伐依頼の受理については、もう締め切っている時間だ。

 しかし、今回のような緊急依頼は別である。


「ギンタさん、ナエさんお待ちしておりました」

「お、ビエッタさん。お疲れ様です」

「お疲れ様です。時間もないので、皆さんこれに着替えてくださいね」


 受付でビエッタが満面の笑顔で迎えるやいなや、ウエットスーツのような黒い服を取り出した。


「なにこれ? 素潜りでもすんの?」

「あ、今回初参加の入学生の方ですね。簡単に説明しますと、対而生獣(リュニオ)討伐用の強化服です。耐衝撃や防刃機能はもちろん、まるで服を着ていないかのような軽さが特徴です。よっぽど無防備で而生獣(リュニオ)の攻撃を受けない限り、かなり身体的なダメージを抑えてくれると思います」


 ちなみに一着一〇〇万はしますね、とビエッタはにこやかに付け足す。

 バンビは、手に持ってひっぱたり叩いたりして感触を確かめる。


「教授の依頼の場合は、猟士全員につけてもらうようにしてるのよ。もちろんお金は教授もちで」



 良かれと思ってナエが補足すると、バンビは顔をしかめる。


「え……じゃあこんなゴムみたいな密着した素材なのに、使いまわししてるの。私の前にきもいおっさんとかも来てた可能性あってこと?」


 ビエッタに問い詰めると困った顔で、


「う~ん……あなたのサイズだと最小サイズになるので、そういう方は着ないと思いますが」

「でもこの世にはちっさいおっさんもいるじゃん。ミニミニキモキモおっさん猟士だっているでしょ? というか基本こういう仕事してるのって大小関係なくキモキモおじさんじゃん」

「いや……え~と」

「ほら否定できない。じゃあ私はこれ着ない。新品の誰も来てないの持ってきて」

「新品ですか……そうなると今は買取でしかなくて、お金が最低でも一〇〇万ほどかかりますが」


 申し訳なさそうに口を開くビエッタに、バンビは悩む様子もなくあっけらかんと、


「うん問題ない新品出して。請求はダマスカス開発でよろ!」と答える。

「なんでだよ、自分で払え」

「うるさいわね。パパはお金持ちなんだからいいでしょ」

「金持ちだからってなんでもかんでも出すと思うなよ。常識で考えろよ」

「息子の入学に合わせて学生寮新設するレベルのキチガイに常識を問われたくないし」

「――うっ!」


 痛いところをつかれたと、サイは言葉に詰まる。


「ついでにみんなの分も新調してあげたら? あの人なら『サイにすぐ友達ができた! 嬉しい嬉しいお金出すー』って踊りだすわよ」

「……否定できないのが悔しい」

「……というわけ、みんなの分も一番いい奴準備して。金は本当に腐るほどあるから」


 サイを完全に丸め込みバンビは、笑顔でビエッタに注文をした。

 ビエッタが確認のためサイに「いいんでしょうか?」と問いかけると、サイは力なく「……大丈夫です。皆さんの分もダマスカス開発で」と力なく答えた。


「……わかりました。では皆さんの分最新の強化服を準備しますね……では六人分で少しおまけして一〇〇〇万になりますね」

「ちょっと待って六人ですか。僕とバンビ、あとヨノスケさん、とギンタさんとナエさんで五人では?」

「え……後ろにいる黒いフードを被っている方は?」


 ビエッタに言われて後ろを振り向くと、黒い外套を頭から被った人物が一人立っている。


 いつの間に……。

 サイは他人の而力(リューン)を使うことができるという特質が故、而力(リューン)の気配を敏感に感じ取れる。

 そのサイを含め、全員が存在に気づかなかった。

 しかもその全身を黒でまとめた出で立ちには見覚えがった。


「お前ハァト帝国の奴か。今日の今日でリベンジとはずいぶん血気盛んじゃねーか」


 ヨノスケはすっと前に進み、いきなり現れたハァト帝国の学生の前に立った。


「…………ます」

「……あ?」

「ち……ます」

「声が小っちゃくて聞こえねーよ。そもそもフードで顔が見えないっての!」


 ヨノスケは乱暴にフードをはぎ取ると、頭からふわふわの毛が生えた子犬の耳がちょこんと生えた愛らしい女の子の顔が露わになった。

 目に涙を溜めながら、小刻みに震えているので、見た目には敵討ちという印象は受けなかった。


「おまえ而有種(リュート)か。生で見るのは初めてだわ」


 ヨノスケはジロジロとその耳を観察すると「……や、めて」と再びフードを被ってそれを隠し、ヨノスケを避けるようにサイの目の前に立った。


「あの……私も一緒に……連れてって、下さい」


 声が震えるのもあるが、聞き耳を立てないと聞こえないほど声量。

 だがそれ以上にサイは気になることがあった。


(やっぱりこの子……而力(リューン)の気配を感じない)


 どんなに意識を集中しても、而力(リューン)の気配が感じられない。

 少なからずどんな人間でも而力(リューン)はあるし、それが微量であったとしてもサイは気付ける自信があった。

 しかし目の前にいるハァト帝国の女学生からは、一切の而力(リューン)を感じない。

 而力(リューン)を隠す能力なのか。

 はたまた而力(リューン)がないのかサイには判断できないが、


「……悪いけどそれは無理だよ。今回の討伐内容を知ってるかどうかは分からないけど、危険なんだ」


 サイは諭すように語り掛けた。

 ハクバですら門前払いされたのだ。

 急に言われても無理だし、そもそも自分にはその裁量権がない。


「死んだとしても……恨みません。だから、お願いします」

「いや、死なれたら困るから言っているんだよ。悪いけど帰って――」

「――あなたは日本から来たんでしょ! 私もそうなんですっ!」


 突然の大声、そしてその内容に、サイ、そしてバンビとヨノスケは声を失う。

 

「……さっき、言ってましたよね? 『にじたま』や『あめだま』を知ってる人いたら……寮まで来て欲しいって」


 確かにサイは、入学式の際にハァト帝国の学生たちにそう告げた。

 だがヨノスケと出会えただけでも奇跡に近いと感じていたため、こんなにすぐ新たな転生者が来るとは想像すらしていなかった。


「じゃあ…………君はあの日ライブ会場に?」


 小さく頷くと、サイの顔を覗き込み口を開いた。


「私の本当の名前は、仲邑(なかむら)天使(てんし)……にじたまのエンジェルブルー担当です」

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