サルーテン
「この世に存在するすべての而生獣の中身を知りたい! 彼らのはらわたをいじくりまわしたい!」
サイが席に着いた瞬間、とても入学式での挨拶とは思えない言葉が耳に届いた。
目に見えるもの、聞こえてくるものが一瞬で変わるため、半分クラクラしながらも、目の前に浮かぶ巨大なモニターを確認した。
映っているのは眼鏡をかけ、白衣に身を包む女性。
女性……というよりは少女のような容姿だ。
とても先ほどの発言をしたとは思えないかわいらしさ。
「あちしはねぇ……君たちには期待してるんだよ。なんせナハト賢王修学院には一〇年周期で黄金世代が入ってくると言われてるんだ。一〇年前は確か……ペロリ=コリンリリスとかがいたね。いやぁ彼女は本当にすごかったね――めっちゃバカだけどっ!」
あひゃひゃひゃひゃと笑い転げる少女。
思い出し笑いにしては随分と豪快だが、例として挙げた名前には聞き覚えがあった。
確か王国騎士団の第参分団長だ。
青系統の而術を使い、王国騎士団に入団後、僅か一年で分団長の地位についた実力者だと聞いている。
「おっと、話がそれてごめんね。つまりなんだ、とにかく楽しみなんだよ。而生獣然り、ペロリちゃん然り面白くて無茶苦茶な生き物が大好きなのよ。君たちもあたしを楽しませてくれる存在になるってね……既に異常な而力持ちとか、黒の而術を使える人とか、七色彩明虹の英雄のヨノスケ君もいるらしいねぇ……う~んどいつだぁ?」
モニター全体に少女の顔でいっぱいになる。
目を大きく開いて、目が血走っているのがわかる。
思わずサイもあたりを見回すが、同級生舘の姿はなく、豪華絢爛な入学式会場の中にたった一人でぽつんと座っているようにしか見えない。
近くにはいる。だが認識できていない。
それほど強力な而術をかけられているのだ。
でもそうなると、どうしてヨノスケは自分に声をかけることができたのか、という疑問がわいたが、それもまたサイはすぐに答えを導き出した。
常時、而力によるガードをしているので、而術の利きが悪かったのだろう。
そしてヨノスケが声をかけたことで、サイもヨノスケを認識することができたのだ。
認識はできないが、今隣にいるヨノスケは、名指しされたことに「うはぁ!固定レスきてあ」とか手を上げて喜んでいそうだ。
(でもでもそう考えると、そんなヨノスケのガードを貫いたニニエロってめちゃくちゃ強いんじゃ……)
サイがそんなことを考えていると、またモニターから声がする。
「とにかく明日から一生懸命勉強しろよぉ! このあちしのお眼鏡にかなう、めちゃくちゃ個性的で活かした生物になってもらうんだからね!」
ふふんと鼻を鳴らしてた彼女は笑顔でこう続けた。
「おぉっと言い忘れてたけど、あちしの名前はサルーテン=モモンモンキー! ナハト賢王修学院の最高の頭脳の持ち主であーる!」
胸を張って声高に叫ぶ少女(のような容姿)に、サイはどういうわけかバンビと同じ匂いを感じた。
それすなわちトラブルメーカーの匂い。
「あんまり深く関わらないようにしよう」と心に決めた数時間後、自身の嗅覚の鋭さを再確認することになった。
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今日は入学式で放課となり、同級生たちとほとんど会話もなく寮に戻ることになった。
サイ、バンビ、ハクバ……そして昨日姿を現さなかったユウソクからの入学生、ヨノスケが並んで歩いている。
「いやぁバンビちゃん会いたかったぜ! ウーテにはとんでもないモンスター王女様がいるって聞いてたからよ」
「何よアンタ馴れ馴れしいわね。あと誰がモンスター王女様よ。誰から聞いたか知らないけど、余裕で万死だから気をつけなさいよ」
「そうだ。同級生であっても、国は違えども、次期ウーテ王国筆頭候補であるバンビ様に対してあまりに不敬。くれぐれも言葉遣いには気を付けろっ!」
「え……あ、うんごめんごめん」
馴れ馴れしい態度で話しかけたバンビよりも、より怒気をこめてハクバはヨノスケを諫めたため、思わずヨノスケが言葉に詰まる。
歩く位置関係も、バンビとヨノスケの間に割って入るようにハクバがおり、どういうわけか敵対視しているように見える。
ちょっと前まで僕にもそんな感じだったなぁと、サイが少しだけセンチメンタルになっているところに、ヨノスケが近づいてきて耳元に話しかけてくる。
『ねぇサイ君……あのハクバっていうのは転生者じゃないよね?』
『はい。転生者じゃないし、僕とバンビが転生してきたことも知りません』
『……隠してる感じ?』
『隠してるわけではないですが、僕も割と最近まともに会話できるようになったので。まぁ今更説明するのもちょっと面倒になりそうだなぁとは思ってます』
『なるへそ。じゃあ今その話を切り出すのはまずいね。とりあえずバンビちゃんには後で俺が転生者であることは伝えておいてくれる?』
『了解です。ご配慮感謝』
『いえいえ』
サイとヨノスケがこそこそ話しているのを、バンビは不思議そうに、そしてヨノスケは眉間にしわを寄せてみている。
『……俺ってば彼に何か悪いことした? 初対面だと思うんだけど』
『その……思春期ってやつですかね』
『思春期……?』
ヨノスケは一瞬その言葉の意味を理解できず、チラリとハクバをみる。
「大丈夫ですかバンビ様。もし唾とか飛ばされてたら奴に弁償させますから」
「ちょっとやめてよハクバ。気持ち悪いこと言わないで、想像しちゃったじゃない!」
「す……すみませんバンビ様そういうつもりでは」
二人の様子を見てピンときたヨノスケは、ニヤニヤとサイに話しかける。
『……そういうことか。そりゃ悪いことしたな』
『まぁ、ハクバ自身も頭は固いので、それだけじゃないですが』
『にしても学生時代の恋って甘酸っぱくていいねぇ……ほら、俺も見た目は子どもだけど、日本にいた頃から換算するともう還暦だからさ』
『ははは。僕はもう少し若いですが、転生前と合わせると十分おじさんの域です』
そんな風に笑い合っているうちに四人は寮へ戻ってきた。
すると入口から中に入ると、ギンタ、ナエそして、先ほどまでモニター越しに見ていた白衣を着た少女、サルーテンが話し込んでいる。
「おぉっ! ギンちゃんにナエちゃん久しぶり~! 元気にしてたー!」
ヨノスケは手荷物を放り投げ、一目散に二人の下へ駆け寄る。
「おーヨノスケ! お前こそ元気だったのかー!」
飛び込んできたヨノスケを大きな体でしっかりと受け止めたギンタと「久しぶりねヨノスケ」と優しい眼差しでみつめるナエ。
まるで親子の再会を思わせるワンシーンだ。全員まだ十代だが。
「俺がナハトに通ってる間に、随分と名を挙げたじゃねーかヨノスケ!」
「いやいや売られた喧嘩を買っただけよ。ギンちゃんでもやれたよ」
「無茶いうな。そんなノリで一〇〇人超の武装集団と数体の而生獣を一人で倒せるわけないだろ」
「ほほう君が七色彩明虹の英雄か」
二人が談笑していると、横からサルーテンが割って入る。
「えっと……確か入学式で話してた」
「その通り! あちしこそが稀代の天才サルーテン=モモンモンキーであーる」
「こんな小さい子が教授だなんてびっくりだよ。飛び級的なやつ?」
「いんや、実年齢は●●歳。でもまぁいろいろと自分を整形って六歳ぐらいに見えるようにしてるけど」
「…………うわエッグい」
「誉め言葉として受け止めとくよ。まぁあちしの見た目はどうでもいいのよ。そんなことより君にも一緒に来てもらう予定だったんだ」
サルーテンは一度、咳払いをして言葉を紡ぐ。
「ただ今より君たちに禍獣級の而生獣の討伐を依頼するっ!」




