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入寮

 入学式前日、無事にナハト研究都市に辿り着いたサイ、バンビ、ハクバ、そしてニニエロとカガチがまず(おこな)ったのが、ナハト賢王修学院に入学するにあたって必須条件である入寮の手続きだった。


「えぇ~! 三年間も寮生活なの? 全然聞いてないんだけどー!」

「いや入学資料にちゃんと書いてあったよ。というかいろいろな手続きで何枚も書類書いたと思うんだけど」

「そういう面倒なのは全部ニニエロにやらせたから知らないわ。なんでそういう大事なこと言わないのよニニエロッ!」

「申し訳ありません。一度説明にあがりましたが、はいはい、とかオッケーとか返事をしていたのでしつこくお伝えするのは失礼かと……」

「ちゃんとニニエロは言ってるじゃん。悪いのはバンビだよ」

「ぐぬぬ……」

「でもご安心くださいバンビ様。寮は新築ですし、家具も新調しております。それに共に暮らすウーテ出身の上級生には私の方からくれぐれも粗相のないようにと伝えてありますので」

「……まぁそういうことなら甘んじて受け入れてあげましょう。私も大人になったからね」


 ふん、と鼻を鳴らすバンビをサイはジトっとした目で見つめる。

 随分と丸くなったものの相変わらず、性悪クソビッチプリンセスぶりは健在である。

 

「では私たちは教師としての手続きがありますので」と、ニニエロとカガチはその場を離れ、サイ、バンビ、ハクバは寮へと足を進めた。

 学生寮ということなので、サイはなんとなくむさくるしい監獄のようなイメージを持っていたが、実際に目の当たりにすると想像以上に立派な建物であった。

 外観はさながら要人を招く際に使われる一流のホテルのような雰囲気を醸し出しており、中に入ってみてもとても寮とは思えないような絢爛さを備えていた。

 入口は広く、壁にはよく人のようにも犬のようにも見える不思議な絵画が飾られていて、さらに奥に進むと受付があった。

 そこにはスーツを着た女性が立っており、サイ達に気づくと深々と頭を垂れた。


「お待ちしておりました。サイ様、バンビ様、ハクバ様でお間違いないでしょうか?」

「えっ……あ、はい。あのすいません」

「なんでしょうか?」

「ここが僕たちの入る寮でいいんですよね? ホテルとか迎賓館とかそういうんじゃないですよね?」

「はい、間違いなく寮でございます。私はここの管理を任されております。寮母のドーミィと申します。三年間どうぞよろしくお願いいたします」

「あ、どうぞよろしくお願いいたします」


 寮母というよりホテリエのような雰囲気に少々戸惑ったが、バンビは「うむ、なかなか悪くないわね」と満足気。

 いっぽうハクバは「姉さんから聞いていたのと大分違いますね」と体を震わせていた。


「お部屋の行く前に、まずロビーまでご案内します。皆さまのご到着時間をお伝えしたところ、上級生たちがどうしても『ご挨拶』したいとおっしゃっております」


 ご挨拶という響きに、サイは一瞬ビクッと体を震わせた。

 それに気づいたのかバンビはサイの目を見ると、「もしかしてそれって……新入生にヤキを入れる的なヤツじゃない?」とニヤリと口元を緩ませた。


「いや、普通に入学おめでとーとか、寮生活のあれこれ……みたいなパターンもあるけど」

「それならそう言うでしょ。ご挨拶……っていうのがいかにもじゃない。きっと私の悪名が拡がってるのよ。生意気な王女様に一度現実を教えてやらぁ――っていう奴らが待ってるに違いないわ……ふふふ、返り討ちにしてくれるわ」


 肩をグルングルン回しながら、バンビは我先にロビーに向かう。

 その背中を追いながらサイとハクバは顔を見合わせた。


「バンビ様に害なす者は、たとえ上級生でも勝ち目がなくとも俺は戦うぞ。サイはどうなんだ?」

「うん。できれば穏便に済ませたいけど、黙ってやられるつもりはないよ」

「ならいい……行くぞ」


 大きな吹き抜けのあるロビーに着くと、制服を着た上級生らしき学生たちが一〇名ほど整然と横に並んでいる。

 胸章が青い学生が四名、黄色い学生が六名。


(たしか青が三年生で黄色が二年生だったな)


 そう思い返して改めて見てみると、皆一様に強者の雰囲気を漂わせている。

 ナハト賢王修学院に通う学生は、全員がシンタイ大陸の未来を背負う優秀な傑物ばかり。

 しかも而術(リュニ)において最高峰かつ最先端の知識を学んでいるので、三対一〇でやりあった場合、いかにバンビの而力(リューン)が飛び抜けていたとしても、最強の騎士であるゴウマの師事を受けているサイがいたとしても……万が一にも勝ち目はないだろう。

 特に先頭に立つひと際大きな学生からは、圧倒的な強者の圧力を感じる。


「遠路はるばるよく来たな……バンビ、ハクバ、サイ。俺は三年のギンタ。一応俺が寮生の代表にやっている者だ」

「初対面の私に向かっていきなり呼び捨てとか、随分と気合入ってるんじゃない? 私の身分を知った上での狼藉かな?」


 バンビはギンタをジロリと睨みつける。

 対するギンタも目をカッと見開き、一切たじろぐ素振りは見せない。


「ここはウーテ王国領ではないからな。先輩として下級生を対等に扱うのは当然のことだ。王女だろうがなんだろうが関係ない。むしろ君こそ目上の人物に対して適当な口の利き方があるんじゃないか? 俺の耳にも君の聞くに堪えない噂は届いているぞ。実際に話をしてみると、その噂もまんざら嘘ではないように感じるな」

「へぇ……じゃあ噂通りの跳ねっ返りに、先輩として『ご指導』してくれるんですかねぇ……私は今すぐにやってもいいんですよぉ」

「ちょっ……バンビやめろよ! なにもこっちから仕掛けなくていいだろ!」


 あまりにも攻め気なバンビをサイは嗜めるが、バンビは「やられる前にやるのがマイルール!」と目をギラつかせる。

 手持ち鳴槍(ナルサ)を習得してから、バンビは随分と好戦的になっている。

 実際にサイも数回手合わせしたが、現時点で攻略の糸口は見つかっていない。

 もちろん、サイがバンビを本気で倒したり、傷つけるつもりで戦ったら手段がないわけではないが、それを知らないバンビが自信過剰になるのは仕方がないのかもしれない。


「先輩として示しをつけるのもやぶさかではないが、その前にやらねばならないことがある――ナエっ!」

「――はいはい」


 ギンタの隣に控えていたナエと呼ばれたショートカットの女性が手を前につきだすと、バンビはいつでも攻撃に転じることができるように身構えた。

 しかし而術(リュニ)の対象になったのはバンビではなく――


「――えっ?」


 突如としてサイの全身を包むように数本の鎖が絡み合うように現れた。

 その鎖の手元を探っていくと、そのすべてをギンタがしっかりと握っている。


「そりゃあああ!」


 ギンタが鎖を引き付けるように腕を振るうと、サイはそのまま上級生がいる真上まで体ごと放り上げられた。


「解除!」とナエが叫ぶと、鎖は一瞬にして消え、宙に投げ出されたサイはそのまま落ちていく。


「――サイッ!」

「――大丈夫! 痛みはない!」


 今にも攻撃しそうなバンビを制しながら、空中で反転し、サイは下にいる上級生をみた。

 囲むように丸く並んでいて、落ちてくる自身を迎え撃とうとしているように見える。


 ハクバの天翼盾(ティマルド)を使えば落下の衝撃は抑えられるけど、仮に彼らが先に攻撃してきたらまずい。

 それならこっちから誰か一人にこのまま攻め込んでもいいが、できれば穏便に済ませたい。

 もしかしたらこういう状況での対応力をみているのかもしれないし。


 サイは宙に浮いている数秒間で、試行を研ぎ澄ます。

 しかしあまりにも突然で、情報が少なすぎるのでまるで答えが見出せない。


「こいっ! サイ=ダマスカス!」


 下にいるギンタが大きく手を広げている。

 しかもどういうわけか満面の笑顔だ。


(……あれ、もしかしてこれって)


「ハクバ! 早く天翼盾(ティマルド)を」

「わかりましたバンビ様――」

「――やめてハクバ! なにもしないで!」


 ハクバが而術(リュニ)を展開しようとするのを止め、サイは上級生の上へとそのまま落ちていく。

 するとまるで赤子をあやしているかのように優しく、ふんわりとサイを受け止める上級生たち。

 そしてそのまま再び腕を振り上げ、再度サイを宙へを飛ばし始める。


「わっしょい! わっっしょい! わっっっしょい」と声を上げながら落ちては上に投げ、また落ちては上に投げる上級生たち。


「え……これってまさか…………胴上げ?」


 バンビはその様子をぽかんと傍観している。

 隣にいるハクバも同様だ。

 その様子に気づいたギンタは、二人に近寄ると


「はははすまんな二人とも、ちょっとしたサプライズだ! どうしてもサイにお礼がしたくてな!」

「……どういうこと?」

「あぁ実はな、数週間前までここはボロボロの学生寮だったんだ。老朽化も進んでるし、部屋も汚くて壁が薄い。共同浴場はカビだらけでとても人の住める環境じゃなかったんだ。しかしサイの入学が決まってからな、ダマスカス開発の社員の皆さんが、大勢集まって無償で改修工事をはじめてくれたんだ。気が付けばこんな高い吹き抜けのある高級ホテルのような学生寮になった!・ 入学式前日、無事にナハト研究都市に辿り着いたサイ、バンビ、ハクバ、そしてニニエロとカガチがまず(おこな)ったのが、ナハト賢王修学院に入学するにあたって必須条件である入寮の手続きだった。


「えぇ~! 三年間も寮生活なの? 全然聞いてないんだけどー!」

「いや入学資料にちゃんと書いてあったよ。というかいろいろな手続きで何枚も書類書いたと思うんだけど」

「そういう面倒なのは全部ニニエロにやらせたから知らないわ。なんでそういう大事なこと言わないのよニニエロッ!」

「申し訳ありません。一度説明にあがりましたが、はいはい、とかオッケーとか返事をしていたのでしつこくお伝えするのは失礼かと……」

「ちゃんとニニエロは言ってるじゃん。悪いのはバンビだよ」

「ぐぬぬ……」

「でもご安心くださいバンビ様。寮は新築ですし、家具も新調しております。それに共に暮らすウーテ出身の上級生には私の方からくれぐれも粗相のないようにと伝えてありますので」

「……まぁそういうことなら甘んじて受け入れてあげましょう。私も大人になったからね」


 ふん、と鼻を鳴らすバンビをサイはジトっとした目で見つめる。

 随分と丸くなったものの相変わらず、性悪クソビッチプリンセスぶりは健在である。

 

「では私たちは教師としての手続きがありますので」と、ニニエロとカガチはその場を離れ、サイ、バンビ、ハクバは寮へと足を進めた。

 学生寮ということなので、サイはなんとなくむさくるしい監獄のようなイメージを持っていたが、実際に目の当たりにすると想像以上に立派な建物であった。

 外観はさながら要人を招く際に使われる一流のホテルのような雰囲気を醸し出しており、中に入ってみてもとても寮とは思えないような絢爛さを備えていた。

 入口は広く、壁にはよく人のようにも犬のようにも見える不思議な絵画が飾られていて、さらに奥に進むと受付があった。

 そこにはスーツを着た女性が立っており、サイ達に気づくと深々と頭を垂れた。


「お待ちしておりました。サイ様、バンビ様、ハクバ様でお間違いないでしょうか?」

「えっ……あ、はい。あのすいません」

「なんでしょうか?」

「ここが僕たちの入る寮でいいんですよね? ホテルとか迎賓館とかそういうんじゃないですよね?」

「はい、間違いなく寮でございます。私はここの管理を任されております。寮母のドーミィと申します。三年間どうぞよろしくお願いいたします」

「あ、どうぞよろしくお願いいたします」


 寮母というよりホテリエのような雰囲気に少々戸惑ったが、バンビは「うむ、なかなか悪くないわね」と満足気。

 いっぽうハクバは「姉さんから聞いていたのと大分違いますね」と体を震わせていた。


「お部屋の行く前に、まずロビーまでご案内します。皆さまのご到着時間をお伝えしたところ、上級生たちがどうしても『ご挨拶』したいとおっしゃっております」


 ご挨拶という響きに、サイは一瞬ビクッと体を震わせた。

 それに気づいたのかバンビはサイの目を見ると、「もしかしてそれって……新入生にヤキを入れる的なヤツじゃない?」とニヤリと口元を緩ませた。


「いや、普通に入学おめでとーとか、寮生活のあれこれ……みたいなパターンもあるけど」

「それならそう言うでしょ。ご挨拶……っていうのがいかにもじゃない。きっと私の悪名が拡がってるのよ。生意気な王女様に一度現実を教えてやらぁ――っていう奴らが待ってるに違いないわ……ふふふ、返り討ちにしてくれるわ」


 肩をグルングルン回しながら、バンビは我先にロビーに向かう。

 その背中を追いながらサイとハクバは顔を見合わせた。


「バンビ様に害なす者は、たとえ上級生でも勝ち目がなくとも俺は戦うぞ。サイはどうなんだ?」

「うん。できれば穏便に済ませたいけど、黙ってやられるつもりはないよ」

「ならいい……行くぞ」


 大きな吹き抜けのあるロビーに着くと、制服を着た上級生らしき学生たちが一〇名ほど整然と横に並んでいる。

 胸章が青い学生が四名、黄色い学生が六名。


(たしか青が三年生で黄色が二年生だったな)


 そう思い返して改めて見てみると、皆一様に強者の雰囲気を漂わせている。

 ナハト賢王修学院に通う学生は、全員がシンタイ大陸の未来を背負う優秀な傑物ばかり。

 しかも而術(リュニ)において最高峰かつ最先端の知識を学んでいるので、三対一〇でやりあった場合、いかにバンビの而力(リューン)が飛び抜けていたとしても、最強の騎士であるゴウマの師事を受けているサイがいたとしても……万が一にも勝ち目はないだろう。

 特に先頭に立つひと際大きな学生からは、圧倒的な強者の圧力を感じる。


「遠路はるばるよく来たな……バンビ、ハクバ、サイ。俺は三年のギンタ。一応俺が寮生の代表にやっている者だ」

「初対面の私に向かっていきなり呼び捨てとか、随分と気合入ってるんじゃない? 私の身分を知った上での狼藉かな?」


 バンビはギンタをジロリと睨みつける。

 対するギンタも目をカッと見開き、一切たじろぐ素振りは見せない。


「ここはウーテ王国領ではないからな。先輩として下級生を対等に扱うのは当然のことだ。王女だろうがなんだろうが関係ない。むしろ君こそ目上の人物に対して適当な口の利き方があるんじゃないか? 俺の耳にも君の聞くに堪えない噂は届いているぞ。実際に話をしてみると、その噂もまんざら嘘ではないように感じるな」

「へぇ……じゃあ噂通りの跳ねっ返りに、先輩として『ご指導』してくれるんですかねぇ……私は今すぐにやってもいいんですよぉ」

「ちょっ……バンビやめろよ! なにもこっちから仕掛けなくていいだろ!」


 あまりにも攻め気なバンビをサイは嗜めるが、バンビは「やられる前にやるのがマイルール!」と目をギラつかせる。

 手持ち鳴槍(ナルサ)を習得してから、バンビは随分と好戦的になっている。

 実際にサイも数回手合わせしたが、現時点で攻略の糸口は見つかっていない。

 もちろん、サイがバンビを本気で倒したり、傷つけるつもりで戦ったら手段がないわけではないが、それを知らないバンビが自信過剰になるのは仕方がないのかもしれない。


「先輩として示しをつけるのもやぶさかではないが、その前にやらねばならないことがある――ナエっ!」

「――はいはい」


 ギンタの隣に控えていたナエと呼ばれたショートカットの女性が手を前につきだすと、バンビはいつでも攻撃に転じることができるように身構えた。

 しかし而術(リュニ)の対象になったのはバンビではなく――


「――えっ?」


 突如としてサイの全身を包むように数本の鎖が絡み合うように現れた。

 その鎖の手元を探っていくと、そのすべてをギンタがしっかりと握っている。


「そりゃあああ!」


 ギンタが鎖を引き付けるように腕を振るうと、サイはそのまま上級生がいる真上まで体ごと放り上げられた。


「解除!」とナエが叫ぶと、鎖は一瞬にして消え、宙に投げ出されたサイはそのまま落ちていく。


「――サイッ!」

「――大丈夫! 痛みはない!」


 今にも攻撃しそうなバンビを制しながら、空中で反転し、サイは下にいる上級生をみた。

 囲むように丸く並んでいて、落ちてくる自身を迎え撃とうとしているように見える。


 ハクバの天翼盾(ティマルド)を使えば落下の衝撃は抑えられるけど、仮に彼らが先に攻撃してきたらまずい。

 それならこっちから誰か一人にこのまま攻め込んでもいいが、できれば穏便に済ませたい。

 もしかしたらこういう状況での対応力をみているのかもしれないし。


 サイは宙に浮いている数秒間で、試行を研ぎ澄ます。

 しかしあまりにも突然で、情報が少なすぎるのでまるで答えが見出せない。


「こいっ! サイ=ダマスカス!」


 下にいるギンタが大きく手を広げている。

 しかもどういうわけか満面の笑顔だ。


(……あれ、もしかしてこれって)


「ハクバ! 早く天翼盾(ティマルド)を」

「わかりましたバンビ様――」

「――やめてハクバ! なにもしないで!」


 ハクバが而術(リュニ)を展開しようとするのを止め、サイは上級生の上へとそのまま落ちていく。

 するとまるで赤子をあやしているかのように優しく、ふんわりとサイを受け止める上級生たち。

 そしてそのまま再び腕を振り上げ、再度サイを宙へを飛ばし始める。


「わっしょい! わっっしょい! わっっっしょい」と声を上げながら落ちては上に投げ、また落ちては上に投げる上級生たち。


「え……これってまさか…………胴上げ?」


 バンビはその様子をぽかんと傍観している。

 隣にいるハクバも同様だ。

 その様子に気づいたギンタは、二人に近寄ると


「はははすまんな二人とも、ちょっとしたサプライズだ! どうしてもサイにお礼がしたくてな!」

「……どういうこと?」

「あぁ実はな、数週間前までここはボロボロの学生寮だったんだ。老朽化も進んでるし、部屋も汚くて壁が薄い。共同浴場はカビだらけでとても人の住める環境じゃなかったんだ。しかしサイの入学が決まってからな、ダマスカス開発の社員の皆さんが、大勢集まって無償で改修工事をはじめてくれたんだ。気が付けばこんな高い吹き抜けのある高級ホテルのような学生寮になったのだ。こんな幸運を呼び込んでくれたサイには感謝してもしきれん。あはははははは!」


 バンビモハクバも想像の斜め上の理由を前に、出す言葉を失った。

 

「ギンタさん! 何やってるんですか早く最後の『超究極青天井胴上げ(ブルースカイハリケーン)』やりますよ!」

「おっし任せろ。天井を突き破って天まで届かせてやるぞ!」

「それはやりすぎィ」


 そうしてギンタは胴上げの輪に戻っていく。


「え~とつまりどういうことでしょうかバンビ様?」

「ん~……サイはこのことについて何も言ってこなかったから、多分サイの親のシオが勝手にやったんだと思う。あの人引くほど親バカだから」

「いや、親バカとかそういうレベルの話じゃ……短期間でこんな建物を建てる技術と人員と予算って……どう考えてもおかしいですよ」

「まぁ言いたいことは分かるけど、大陸一の大金持ちだからね。規格外なのよ。ぶっちゃけウーテ王国の一年の予算の九割がダマスカス開発関連の収益だから……」

「……そんなにすごいんですか? ダマスカス開発って」


 桁違いの数字に目を何度も瞬くハクバを横目に、バンビは小さくため息をついた。


(なんか王女様王女様ってふんぞり返ってたのが馬鹿みたいに思えてきたわ。一歩国を出れば、私はただの女の子なんだな)


「いくぞぉぉぉ! 超究極青天井胴上げ(ブルースカイハリケーン)!」


 天井にぶつかるくらいの勢いで舞い上がった大陸一のお坊ちゃまを見上げながら、バンビはわずかながらの憂いを感じていた。

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