会議④
「まずはこちらをご覧ください」
カガチから斐綾鉱を受け取ったニニエロは、液晶を操作する。
浮かび上がったのは一ツ目が液体で満たされた透明な筒状の中に入っている映像だった。
「これが今回私を襲った而生獣の一ツ目です。眼に先天的な術式が刻まれており、発動してしまう可能性が否定できないため、そこは処分させていただきました」
「え~なにこれ~。なんで死体を保存してるの~キモッ! もしかしてニニちゃんってば、マドサイエンティスト的なやつ? 謎の研究所とかこっそり作ってた?」
「……ペロリさん。残念ながらこれは兵舎の地下にある施設だよ。私が新兵の頃に使わなくなったけど、機能としてはまだ維持しているはず」
ペロリへのツッコミ役のバルシエロがしゃべれなくなったので、代わりに右隣の第弐分団長であるミルキ=カグヒエフが口を挟んだ。
ゴウマやスタデリオンの一期後輩のベテラン騎士だが、今は騎士としての活動はほぼなく、今は王立ウーテ学院の学長を務めている。
本人は分団長の席を後進に譲りたいと申し出ているが、次期第弐分団長の候補として育てていたムウランが、様々な大人の事情で王国騎士団副団長になったため、いまだにこの会議に参加する羽目になっている。
「そんなのあるのー? あとで探検しよー!」
「やめておきなさい。ニニエロ君に迷惑をかけるだけですよ」
「ん~……まぁ先生がいうならやめとく」
ペロリはしょんぼりとうなだれるのを見て、ニニエロは話を再開した。
「この一ツ目は、会話も可能で、知恵もほぼ人間と同等でした。ウーテ王国領では今まで観測されなかった特異な而生獣です。そして会話から黒蝕なる組織に加入しているとのことで、私もまたそこに入らないと誘われました。その理由は私が黒系統の而力の資質があることを知っていたためです。黒蝕は黒系統の而力を持つ者を集めているようです」
「それでカガチが狙われたっっつーわけか。ということは巣喰も黒蝕と関係があるのは間違いないな」とスタデリオンが口を挟む。
「おっしゃる通り、一ツ目も巣喰と繋がりがあることを話していました」
「そうか……だがカガチはそれで理由がつくが、君はどうなんだニニエロ。君は今の今まで黒系統の而力を持っていることを隠していたんだろう? なぜ黒蝕は我君が黒の而力を持っているという我々も知らないことを知っていたのか?」
第伍分団長のマーブグースがニニエロに問いかけた。
「どうやら黒蝕の中に黒の而力を持つ者を判別できる何かがあるようです。実際私は黒の而力があることを知っているのはバンビ様だけ口外したとは考えられませんし、黒の而術はこれまで人に見られているような状況では一切使っていなかったので、間違いないと思われます」
「なるほど。まぁ君が我々にその事実を隠していたという件はまた話す必要があるかもしれないが……」
「隠していたわけではなく、報告の義務がなかっただけですから話す必要はないかと。資質を調べる入団試験の前に黒の而力には目覚めていなかっただけの話です。もちろん今後定期的に騎士団で資質を調べて報告する規定を作るのであれば、私は反対はしません」
「…………ハナエ君やバルシエロ君が君を嫌う理由がよくわかったよ」
「褒め言葉として受け取っておきます」とニニエロは不敵に笑うと、再び液晶に視線を戻して話を続けた。
「……話がそれたので元に戻しますが、要約すると黒蝕は黒の而力を持つ者を募っている、あるいは暴力によって奪う組織であること。その中には人間と同等以上の知恵のある而生獣がいるということ。そして黒の而力を探る何からの方法があることが現時点で分かっています。なぜ黒の而力を持つ者を集めているのかは今後の調査課題となりますが、ここで一つ大きな問題があります」
「大きな問題……?」
「はい、大変言いにくいことではありますが、事実なのではっきりと述べたいと思います。私が対峙した一ツ目は、ここにいる分団長の誰よりも強いという事実です」
空気が一変した。
突き刺すような視線がニニエロに集まった。
騎士団長であるゴウマに言われるのならまだ納得できるのだが、その発言の主は元分団長、それも王族の誘拐事件の一端を担って降格されたこともここにいる者なら当然知っていた。
しかも現時点ではこの中の誰よりも不信を集めている存在である。
あと少し何かがあれば先ほどのように襲い掛かってもおかしくはない雰囲気だ。
「調べたところ、一ツ目の而力の総量は六八〇〇〇。ゴウマ騎士団長含め、ここにいる誰よりも高い数値を持っています。また自身の目を通して相手の網膜に鈍鋲の術式を刻み、相手の動きを止める能力があります。その動体視力も常人離れしており、暗視にも対応できる。加えて身体能力だけでみてもウーテにいる而生獣と比べても遥かに優れています。はっきり言ってここにいる分団長のどなたも初見では一ツ目には勝てなかったでしょう」
「おいおいニニエロ。分団長でも勝てない化物を倒した俺強すぎィ……ていう自慢かそれは?」
「自慢ではなく事実です。特にステデリオン分団長にとっては天敵と言っていいほどの相手です」
「……喧嘩売ってるのか?」
「そう受け取ったのならそれで構いませんが、その場合、スタデリオン分団長も……こうなりますよ」
ニニエロはかろうじて呼吸だけはできる状態のハナエとバルシエロを指さす。
「関係ねぇよ。そんなもの強引に破って――」
「――やめとけスタン……ニニエロの言ってることは間違ってねぇ」
話に割って入ったゴウマは、スタデリオンを制した。
「悔しいかもしれんがお前じゃ勝てん。ニニエロにもそのバケモンにもな。他の分団長は何となく理解してるみたいだぞ」
「……ちっ、分かったよ」
スタデリオンは今に円卓をひっくり返してニニエロの顔を殴ってやろうと思っていたが、おとなしく席に着いた。
仮にスタデリオンが行動に移した場合、円卓を返す前に動きを止められていただろうと、ゴウマは読み切っていた。
ゴウマはニニエロに視線を送り、それを受けて話を続けた。
「分団長の実力がないと言っているわけではありません。黒蝕が想定より強いということを言いたかったのです。黒の而力持ちを募っている以上、一ツ目と同レベルかそれ以上の実力を持つ者が複数いるのは明白です。その本当の目的は現時点では分かりませんが、好戦的ではあるので、その矛先が我々に向いた時、対処のしようがないということ。少なくとも今後も狙われるであろうカガチを守れる存在は、ゴウマ騎士団長か私くらいでしょう」
あからさまに嫌そうな顔でゴウマは「めんどくせぇ」とつぶやいた。
「分かっています。なので今後はマーブグース分団長ではなく、私がカガチに護衛役兼指南役としてそばにいたいと考えています。しかしそうなるともう二人ほど守らないといけない者が完全に放置されてしまうのです」
「…………サイとハクバか」
「はい、彼らは黒の而力を持ち合わせていませんが、巣喰を討伐したのは知られています。なので彼らに何らかのアプローチを試みる可能性を否定できません。しかも翌月にはナハト賢王修学院に入学するため、ゴウマ騎士団長や私が守ることも物理的に不可能です」
ニニエロの発言に全員が押し黙り、沈黙が流れる。
だがその中で唯一、ニニエロの狙いを把握した人物がいた。
(なるほど……このタイミングなら問題なくいける。本当にやるといったら確実にやる男だ)
静まり返った空気の中で、第弐分団長のミルキが手を上げた。
「ここで提案がある。分団長というよりウーテ学院の学長としての提案として受け取ってくれればいいのだが……」
ミルキはその提案を発表すると、それ以外により優れた方法はなさそうだという意見にまとまった。
だが一つだけ大きな壁があった。
「細かい手続きや、ナハト賢王修学院側への対応は私が一任するが、本来であればその任を受けるのはハナエ分団長だったので彼女の承諾は必要だろう。どうだろうハナエ君……あの任をニニエロ君に譲ってみるのはいかがかね?」
ニニエロはスッと鈍鋲を解き、ハナエは動けるようになった。
一瞬体全体で床に倒れそうになったが、それをぐっと堪え、膝で足を抑えながら立ち上がった。
「ぐっ……」
このような状況でなければハナエは決して譲らなかっただろう。
少なくともニニエロには。
ハナエは心の中でニニエロへの不信感をさらに強めたが、この流れの中でそれを否定することはできなかった。
「……わかりました」
あまりの悔しさ、無力さに今にも消え入りそうな声をあげたハナエは、ぐっと拳を握り、そしてニニエロの背中についた小さな羽根をみる。
色の変化で相手の言葉の真実を探る『白日下』の効力はまだ続いている。
羽根の色は、白からうっすらと灰色に変わっていた。
嘘はついていないが、何かをごまかしている時の変化である。
ニニエロがそれに気付いているか、気付いていないかはわからないが、ハナエにだけ届くボリュームで呟いた。
「……ありがとう。僕の掌の上で踊ってくれて」
8月初頭にコロナ陽性と診断されたため、更新できませんでした。
申し訳ないです。
あと少しできりがいいところなので、更新スピード上げていきたいと考えております。
ブックマーク登録や評価等もお時間あればよろしくお願いします。R4/8/17




