会議②
「穢泥はゴウマ騎士団長、及びるバンビ様が討伐した而生獣になります。一帯に異臭を放つ而力を帯びた沼地を作り、その中から斐綾鉱を内部に組み込んだ人型の泥を生みだします。動きは緩慢ではありますが、人に触れると内部の斐綾鉱が而力膨張を引き起こし、周囲一帯を巻き込むため、仮に街中に現れた場合、最も危険な部類の而生獣。危険度で言うと禍獣級に該当します」
而生獣はその危険度、強さ、その他要因によって七の等級に分けられる。
危険度が低い順に汎獣級、害獣級、厭獣級、禍獣級、壊獣級、禁忌獣級……そして歴史上一体しか認定されていない祀神獣級。
而生獣の多くは厭獣級以下が多いので、禍獣級の認定を受ける而生獣は数年ぶりである。
「久しぶりの禍獣級か……触れると自爆する臭い泥人形って認識で問題ないのか?」
「はい」
「う~む、俺とは相性悪そうだ。できればやりたくないな。臭いならなおのこと」
スタデリオンは藍系統の而力の適正がある。藍の而術は主に、肉体や武器を強化したり、鉱物を加工し、新たな素材を生みだすなどに長けている。
スタデリオン自身も、とにかく身体強化をして、相手に立ち向かうというあまりに泥くさい戦い方をするが、そのシンプルな強さこそ彼を分団長まで押し上げた要因である。
「また穢泥についてですが、先の調査の結果、先ほどは而生獣と述べましたが、而術である可能性も高いという結論に足りました」
「え~而術なの本当にぃ? てかきもいね。あんな森の奥で引きこもって泥遊びしてたんでしょ~。引きこもり通り越して仙人じゃん」
「ペロリ……君はバカなんだから黙って聞いてなさい」
ペロリの緊張感のない言葉を制したのは第肆分団長バルシエロ=ガーナード。
金色の長髪を後ろに束ねた長身の彼が、切れ長の瞳でペロリを睨みつけると、ペロリは大げさに手で口を塞いだ。
「理由は三点、まず動きがあまりに機械的であること。二つ目は、攻撃手段が自身の命を用いての而力膨張しかない点。そして最後が……使っていた斐綾鉱が全て人の手によって加工されていた所です」
ウーテ王国領では、海の底に良質な斐綾鉱が取れるためそれを加工して騎士及び術者たちは利用するのだが、斐綾鉱自体は少量であればどこでも採取できる。
その辺の石や植物、その実や花、土、などにも而力は多少なりとも宿っており、生物はそれを食して生きていく。そしてその死骸が長年の月日をかけて風化したものが斐綾鉱である。
言ってしまえば人間ですら斐綾鉱に成り得る。
遠い昔の歴史を紐解けば、而力の高い人間をあえてミイラ化させ、斐綾鉱を採取するということもあったという。
そういった歴史の中でも而生獣は特別である。
その唯一性を挙げるのであれば、而生獣は斐綾鉱を用いずとも而力を使うことができるということだ。
而生獣が斐綾鉱を介さすに而力を操れる理由は、体内に斐綾鉱と同じ性質を持つ特別な器官が備わっているからである。
それを『而臓』と呼ぶ。
なぜ而生獣に而臓が備わっているのかは諸説あるが、最も有力な説は、彼らは雑食性で而生獣の死骸を食しているからだという説。
もちろん、食べたからと言ってすぐに而臓ができるわけではない。人の一生など比べ物にならない進化の過程で形成されたものである。
「泥のような生物が斐綾鉱を取り込み、攻撃手段として而力膨張を選択していたのならば、多少なりとも森の中でとれた斐綾鉱の原石を用いることが自然です。未開の森の奥地であればなおのこと。しかし穢泥は精錬された斐綾鉱のみを使う……いや選んでいたのでしょう。ハナナサケの森周辺で行方不明のままいなくなった者を狙っていたのでしょう」
「人が持っている斐綾鉱を狙っていたのか。そしてそれを集めるのに、ハナナサケの森を隠れ蓑に使っていたというわけか……確かに而生獣にしては随分とやることがずる賢い」
「ここからはまだ想像の域を超えませんが、今や交易路としても使えなくなるほど而生獣の活動が活発になったハナナサケの森ですが、そのきっかけはみなさんご存じのとおり今回、被害にあった第五王バンビ様と、ダマスカス開発の跡取りである、サイ=ダマスカスの誘拐事件です」
「なるほど……うまいこと繋がるものですね」
「ん~何が? どういうことバルシエロさん」
「……いいかぺロリ。穢泥が誰かの術式だとすると、その誰かさんは七年間人を襲うなどして良質な斐綾鉱を集めて自身の強化に努めていた。そして今回卒業検定というタイミングで転移を阻害し、バンビ様の殺害を目論んだ。目的は……そうだな、バンビ様の持つ斐綾鉱とバンビ様自身。一つ聞くがが、カガチ君。その泥の中には、人の死骸……例えば骨や血液の成分等は混入していなかったか?」
「……お答えします。約二割ですが人体の構成物ですね。人骨も確認できています」
「やっぱりそうで。となると而力も含めて奪うつもりでバンビ様を狙ったのかもしれん……とにかくバンビ様が無事でよかった。あの桁違いの而力を悪意ある者に奪われたら我々では対処できなくなってしまう」
「つまり、今回の敵七年前の誘拐事件の関係者ってことぉ?」
「あぁ、国外追放となった第一王子及びその関係者の可能性もあるが、現実的に考えると、バンビ様の行動を把握でき、転移阻害の術式が使えて、当時の事件についてよく知っている者が一番怪しい……該当するのは一人しかいないな」
バルシエロはカガチの隣に座っているニニエロの見つめる。
それに倣って他の分団長もニニエロに視線を向けた。
「まぁそうなりますよね。とはいっても残念ながら今回の件については私は何も関わってないですよ。私はバンビ様に絶対の忠誠を誓っていますのでありえません」
「口だけならいくらでも言える……関わってない証拠はないのか?」
「普通は疑う方が証拠を用意するべきだと思いますが……というより話が脱線してますよ。今は二体の而生獣についての報告を受ける時間なのでは……カガチ、続きをどうぞ」
「はい、以上のことを踏まえて、穢泥は而生獣ではなく、術者による而術であること。また転移を阻害した何者かと関係を有していること。そしてそれは七年前の誘拐事件に関係している可能性が高いということです。これからも引き続き調査を行って参ります。続きまして、もう一体の而生獣……巣喰についてご報告させていただきます」
そう言ってカガチは左目を隠していた眼帯を外した。




