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結果

 卒業検定の結果はすぐに発表されることになった。

 本来であれば検定終了後三日ほどで発表されるのだが、今回はハナナサケの森での一件から時間が経っていることと、ナハト賢王修学院への推薦入学枠の調整等の関係で、時間がほとんどないのが大きな要因だ。

 教室に集められたサイ達の同級生は、教卓の前にいる王立ウーテ学院の学長を前にいささか緊張している。


「最後にいろいろあったけど、これで初等部も終わりね。ウーテともこれでお別れとなるかと思うとちょっとアレね」

「……そうだね」


 隣に座るバンビは、少し寂しそうにサイに声をかける。

 サイもまだ疲れが残っているのか、返事に力はない。


「なによサイ……アンタはさっき勝ったんだから推薦入学枠は確定してるでしょ。まさかちょっとハクバに気を使ってるの?」

「いや、そういうわけじゃないんだけど……」


 横目でチラッとハクバを見る。

 ハクバは背筋をピンと伸ばし、まっすぐに前を向いてる。

 内心どう思っているかは分からないが、いつも通り真面目な姿勢を崩していない。

 今後のウーテ王国のことを考えると、自分やバンビより、ハクバがナハト賢王修学院に行った方が良いのではないか、と先ほどの勝負を終えたサイは思うようになった。

 ハクバは姉のためとはいえ、騎士として国に仕えることを希望している。

 サイはあくまでウーテ王国を出て推しであるあやるんを探すため、バンビに至っては特に大それた理由はないような気がする。


「……そういえばバンビ」

「なに?」

「バンビがナハト賢王修学院を希望する理由って何? そういえばちゃんと聞いたことなかったよね」

「あぁ確かにね。私が行きたい理由は――」


 ゴホンと大きな咳ばらいが聞こえた。

 音のする方向に顔を向けると、学長がじろりとこちらを見ている。

 とっさにバンビの口をふさぎ、軽く頭を下げると、学長はニコリと笑って、手に持った資料に目を落とした。


「え~今回卒業検定を受けた十九名の皆さん。お疲れ様でした。ただいまより結果を発表します」


 一気に静まり返る教室。

 ここでの結果次第で人生が変わってしまう可能性もあるため、全員に一気に緊張が走った。


「本年度の学童の皆さんは、而術(リュニ)の扱いや体力、学力においても一定の基準を超えていることが確認されました。よって全員の中等部への進学を認めます。おめでとうございます」


 ここにいる全員が騎士としての資質を認められ、教室内に安堵の声が漏れた。

 中等部及び高等部を卒業すれば無事に騎士団の幹部候補生として認められるため、生涯年収の桁も変わるし、騎士のしての成果次第では王族との婚姻、あるいは王族への転籍が認められる場合もある。

 而力(リューン)の量は先天的な要因が高いので、王族と結ばれれば次代はより而力(リューン)の優れた子を残すことが可能である。

 能力を重要視するウーテ王国において、一族として優位に立つことができる、その第一段階を皆が乗り越えたのだ。


「特に本年度は近接戦での資質や学力が歴代の学童たちを見ても秀でている。サイ君やハクバ君などの実力のある者がひっぱっていってくれたからだと思う。本当にありがとう」


 思わぬ誉め言葉にサイがドキッとする一方で、「いや私は?」と今にもいいそうなくらいバンビがしかめっ面で学長を睨んでいた。


「さて、続いてはナハト賢王修学院への推薦枠であるが、例年どおり成績上位者二名を我がウーテ王国の代表として選出した。一名ずつ発表するので、呼ばれたら前に出てくるように」


 ゴクリと生つばを飲み込んで、サイは学長の言葉を待った。

 さすがに選ばれるだろうとは思うが、バンビとハクバが選ばれたとしても、個人的には全く異論はないと思えたからだ。


「一人目は……サイ=ダマスカス」

「――ひゃいっ!」


 緊張で思わず声が裏返ってしまったが、サイは無事に推薦枠を確保できた。

 バンビが「なに噛んでんの」と吹き出しながら背中を叩いてきたので、若干イラっとしたが気にしたら負けだ。

 そのまま席を立ち学長の前に立った


「つづいて二人目……ハクバ=ミスミ」


 教室内が一気にざわつきだした。

 呼ばれたハクバ、そして呼ばれなかったバンビも何が起こったのか分からないようだった。


「ハクバ=ミスミ……返事は?」

「っは――はい!」


 ハクバは大きく返事をし、そのまま書けるようにサイの隣に立つ。

 二人ともお互いの顔をみながら、今にも目の前にいる学長に問いただしたい気持だった。

 だが二人以上に声を上げたい人物がいるのは分かるので、声に出さず彼女が騒ぎ出すのを待つことにした。


「異議ありぃ!」


 やはりというべきかバンビが大きく手を上げて声高に叫んだ。


「どうしましたバンビさん」

「なんでサイとハクバなのよ! どう考えても私と、さっき勝ったサイが選ばれるのが順当でしょ」

「私は先ほど、例年通り成績上位者二名を推薦するといいましたよね。本年度はサイ君が首席、ハクバ君が次席。バンビさんは……最下位です。落第ギリギリです」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁなんで私が落第ギリギリなのよ! 圧倒的な而力(リューン)を持つ私がそんなギリギリなわけないでしょ」


 学長は大きくため息をついてから矢継ぎ早に口を動かした。


而力(リューン)は圧倒的ですが、而術(リュニ)のコントロールは平均を大きく下回り、学力も赤点ギリギリ。学院内での態度や授業に対する姿勢はあなたが国を代表する王女であるという大きなアドバンテージを含めたとしても低評価です。正直、卒業検定で鳴槍(ナルサ)を持って戦うという優れた而術(リュニ)を見せてもらえなければ卒業すら認められなかったでしょう。私の立場から言わせてもらえば……『卒業できるだけありがたいと思え』ということに尽きます」

「う……でも学院内で噂になってたでしょ。ナハト賢王修学院へは私が確定していてあとはサイとハクバのどっちかだって!それにさっきの戦いだってそれを決めるためにやったんじゃないの⁉」

「……あくまで学童の中で広まった噂ですからね。我々はそれを否定も肯定もしていません。それに先ほどの剣戟については、入学枠をどちらかにするというよりも、サイ君とハクバ君のどちらを本年度の首席にするか決めてもらうためでした。総合評価がほぼ拮抗していたのでね」


 これ以上何か言うことはありますか? とバンビを見つめる学長。

 バンビは言葉に詰まり、そして――


「うるさいこのハゲジジィ! お父様に言いつけてやる! まぢ万死ぃ!」


 と叫びながら教室を出ていった。

 それを見ながらも何もできないサイとハクバは何もできずただ立ち尽くしていた。

 その様子に気づいた学長は、二人の耳元に顔を近づけて優しく語りかける。


「安心してください。バンビさんはナハト賢王修学院にいけますよ。もちろんあなたたち二人も……彼が何とかしてくれるでしょう」


 一体何のこと言っているのか分からなかったが、妙な説得感があったので、サイもハクバもこれ以上何も言わなかった。

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